超電導モーターとは?

液体水素GRカローラの大きな課題のひとつは、液体水素を昇圧してエンジンに送るポンプ。本稿で注目したいのは、開発中の液体水素ポンプ用超電導モーター(以下超電導モーター)だ。25年シーズン中の実戦投入は見送られたが、報道陣の前で超電導モーターを搭載した液体水素エンジンGRカローラはデモ走行を披露した。
搭載している超電導モーターをトヨタとともに研究・開発しているのは、京都大学の中村武恒教授のグループ。ご存知のとおり、超電導とは極低温にすると電気抵抗がゼロになる現象だ。レースのパドックで中村教授に訊いた。
まず理科の時間に習った基本知識。絶対0度とは、分子や原子の熱運動が理論上完全に停止する、これ以上冷たくならない最低温度のことで、0K(ケルビン)という。摂氏でいうと、マイナス273.15℃だ。液体水素の温度は、約マイナス253℃で約20Kということになる。


「高温超電導体」は、電気抵抗0の特性によって、非常に高密度の電流を極めて小さな損失で流すことができる。モーターの巻線に高温超電導体を用いれば、非常に高い出力や効率が実現できる。「高温」とは、マイナス248℃程度以下の温度をいう。現在、不安定ながら160K(ケルビン。約マイナス113℃)でも超電導現象を発現できる物質はあるそうだが、今回は、110K(約マイナス163℃)まで超電導として使える電導体を使っている。

鍵を握るのは、臨界温度と臨界電流だと中村教授は言う。超電導体が超電導状態になる温度を臨界温度と呼ぶ。臨界電流とは、超電導体に流せる最大の電流値のこと。この値を超えると超電導体は電気抵抗を発生させ、常電導状態になる。臨界温度・臨界電流を超えると抵抗がゼロから一気に上がるそうだ。幅4mm厚さ0.2mmの市販の超電導線で、マイナス253℃で1000Aを超える電流を電気抵抗ゼロで流せる。
中村教授の超電導モーターは、高温超電導誘導モーター。誘導モーターの簡易構造を採用し、籠型巻線を高温超電導テープで構成する。

「超電導によってより多くの電流が流せるから出力を上げられる。籠型だから設計的に導体の電流が10倍になれば出力も10倍になる。同期モーターだとコイルに電流を流して磁界を作って出力を上げるので電流容量を10倍にしても出力が10倍になるとは限らない」(中村教授)

問題は、液体水素燃料が走行して減ってきたとき、あるいは強い横Gがかかったときに超電導モーターが液体水素液面から表出してしまう場合だ。こうなると、モーター温度は一気に200K(約マイナス73℃)まで上がってしまう。そうなると、出力が下がる、あるいは最悪焼き付いてしまう。そこは現在トヨタとの共同研究で今回の超電導モーターは、出力は落ちるが、19℃でも回せるという。それでいて、超電導なら効率は99.5%以上。停止から1800rpmまでわずか0.3秒、しかも無振動で回るという。

超電導モーターの実戦投入に目処は立った。だが、課題はそれだけではない。液体水素の中にポンプを入れるということは潤滑油が使えないことを意味する。無潤滑であるうえに超低温というギヤ、ベアリングにとって極めて過酷な環境だ。コーティング技術もあるが、現在の技術ではまだ完全にはクリアできない段階だという。トヨタは、この分野も日本の企業・研究機関の協力を得ながら、改良を進めていくという。

