バランス重視か? 凍結路面優先か? 冬用タイヤの個性はそれぞれ!

先日、北海道は新千歳空港にほど近い新千歳モーターランドで、トーヨータイヤがメディア向け冬用タイヤ試乗会を開いた。冬用タイヤ≒スタッドレスのメディア試乗会というと、次期シーズン向けの新商品が対象のケースがほとんどだが、今回は今現在の店頭で購入可能な現行商品の試乗会だった。聞けば「クルマや用途、好みに応じて個性的なラインナップが揃ったトーヨーのスタッドレスをあらためて味わってほしい」との主旨という。

「TOYO TIRE冬商品試走会」と銘打たれた試乗会は、北海道の新千歳空港にほど近いミニサーキット「新千歳モーターランド」で開催された。
試乗会に用意されたタイヤは、「オブザーブ ギズ3」「オブザーブGSi-6」「オブザーブW/T-R」の3種類のスタッドレスタイヤに加えて、スノーフレクークが付いたオールテレインタイヤの「オープンカントリーA/T III」。4種類の冬用タイアを乗り比べた。

トーヨーは売上高でいうと、世界で10位前後、国内ではブリヂストン、住友ゴム(ダンロップ)、横浜ゴムに次ぐ4番手に位置するタイヤメーカーだ。いっぽうで、世界で初めて“ミニバン専用”をうたった「トランパス」や北米でダントツ人気を誇るというオフロード車用タイヤ「オープンカントリー」など、“専用タイヤ発想”による、マニアックでとがった商品開発を売りとすることでも知られる。

そんな伝統はスタッドレスでも同様で、トーヨーのスタッドレスブランドである「オブザーブ」は、20年以上前から“クルミの殻”を配合するという独創的な技術を売りにしてきた。今回試乗した最新のオブザーブにも、すべてコンパウンドに、伝統の“鬼クルミ”が配合されているとか。ただ、近年はクルミよりも「NEO吸水カーボニックセル」や「吸水カーボニックパウダー」といった技術による高い吸水性がキモらしいが。

SUVユーザーから圧倒的な支持を受ける「オプカン(オープンカントリー)」を擁するなど、トーヨータイヤはクルマ好きの琴線に触れるタイヤを展開する印象が強い。

そんなオブザーブには、現在3種類のラインナップがある。

まずは2021年に発売されたロングセラースタッドレスの「オブザーブGSi-6」と「オブザーブW/T-R」は、ともにいかにもトーヨーらしく、”SUV専用”をうたうスタッドレスだ。サイズやパターンを見てもおわかりのように、GSi-6は乗用車ベースのクロスオーバー系から、クロスカントリー(クロカン)車と呼ばれるオフロード系のSUVまで幅広く、そしてW/T-Rは後者のクロカン車を想定している。

オブザーブGSi-6
アイス/スノー/ウェットのトータルバランスに優れるオブザーブGSi-6。シリカの増量によりウェットグリップと氷上性能を両立したほか、全方向へのエッジ効果を発揮する「スパイラルエッジサイプ」や、雪を掴むジグザグ形状のリブなどを備えている。

これらふたつのオブザーブは、暖冬傾向が進む近年の気象条件を強く意識しているのが特徴だ。同じ雪でも高めの気温では水を含んだ重たいものとなる。ただ、そのぶん冷え込んだときとの気温差も大きく、湿った雪が混じるシャーベット状態から凍結したアイス状態まで、路面状況はこれまで以上に刻々と変化するようになっているとか。

そこでGSi-6は圧雪路のブレーキング性能を前身のGSi-5より進化させつつ、近年では真冬の雪国でも遭遇することが多いウェット性能も大きく引きあげた。

もうひとつのW/T-Rは、クロカン車に求められる荒れた雪道や深雪路での走破性を追求したスタッドレスだ。サイドウォールにまで回り込ませた大型サイドブロックは、深雪でのトラクション性能で効果を発揮しつつ、デザイン的なアイコンにもなっている。

オブザーブW/T-R
オブザーブW/T-Rは深雪路や荒れた雪道での圧倒的な走破性を追求。サイド部分に配置された大型サイドブロックにより、深い雪の中でのトラクション性能を高めるとともに、オフロードタイヤのようなアグレッシブなデザインを実現している。

そして3つめの「オブザーブGIZ3(ギズ3)」は2024年に発売されたばかりのオブザーブシリーズの最新作だ。“ギズ”はもともと乗用車を想定したスタッドレスだったが、最新のギズ3からはSUV用サイズまで、ラインナップを拡大している。

ギズ3は、GSi-6や前身のギズ2で定評ある圧雪路性能やウェット性能をさらに進化させながら、スタッドレス最大のテーマである氷上性能と、その氷上性能の“効きもち”を追求しているのが特徴だ。そのために、前記のNEO吸水カーボニックセルに加えて、「持続性高密着ゲル」や「サステナブルグリップポリマー」などの独創的な技術を投入している。

オブザーブ ギズ3
新コンパウンドの密着長持ちゴムを採用することで、アイス路面での安心感と密着性に優れるオブザーブ ギズ3。接地圧を適正化するブロック/サイプのデザインもアイスブレーキ&トラクション性能の向上に寄与している。また、サステナブル素材の採用や転がり抵抗の低減による省燃費化など、環境負荷を抑えた設計になっているのも特徴だ。

このように豊富にそろったオブザーブゆえ、試乗会で用意されたメニューもじつに充実していた。用意されたコースは、特設の“スノー”と“アイス”の2種類。どちらにも直線加速、そこからのブレーキング、スラローム、定常円旋回のメニューが組み込まれていた。今回は、そんなコースで、ギズ3とGSi-6を履かせたマツダCX-5、そしてWT-Rと「オープンカントリーA/T III」を履かせたランドクルーザー250を走らせる…というものだ。

最後のオープンカントリーはもちろんスタッドレスではく、いわゆるオールテレインタイヤである。と同時に、A/T IIIは冬用タイヤとしての性能も備えることを示す“スノーフレークマーク”を取得している唯一のオープンカントリーでもある。スタッドレス規制中でも走行可能なので、A/T IIIを履いて冬のスキー場に行くクロカン乗りも少なくない。

オープンカントリーA/T III
本格的なオールテレーンタ本格的なオールテレーンタイヤでありながら、スノーフレークマークが打刻されており、高速道路の冬用タイヤ規制時でも走行が可能なオープンカントリーA/T III。「ラージブロックデザイン」や、サイド部の「バットレスデザイン(通称:もみ上げ)」により、オフロードタイヤらしい力強い外観と、雪道や泥道でのトラクション性能を両立させている。

まずはスノーコースの試乗からスタート!

試乗会当日の新千歳は、到着した正午前はマイナス6度と低めの気温だったものの、朝からずっと青空が昼がる晴天だったとのことで、スノーコースは水を含んだゆるい雪質だった。

そこで、まずはオブザーブ最新作にして、クルマのジャンルも問わないギズ3をCX-5で試す。当たり前だが普通に走る。加速時のトラクション、ブレーキングともに不足はなく、スラロームや定常円旋回でも不足ない性能を見せてくれた。

加減速、コーナリングともにしっかりとグリップが感じられるギズ3。最新スタッドレスタイヤの実力はさすがだ。

今度は同じスノーコースをGSi-6で走ると、わずかながらもギズ3より安心感が高い。またスラロームや定常円旋回での横方向のグリップにも感心した。今回の走りを見るかぎり、“水を含んだ重い雪”や“SUV専用”のうたい文句にウソはない。

アイス性能に特化したギズ3に対して、よりオールラウンダー型のGSi-6。スノーコースでのグリップ感なら、こちらの方が一枚上手の印象だ。

続いて、オブザーブW/T-Rを履くランクル250でスノーコースに挑む。午前中から晴天下で試乗車が走り回ったこともあって、明らかにゆるんできた深雪路面をモノともしない走破性は、さすがランクル、さすが最新スタッドレスである。

荒れた氷雪路や吹き深い路面での走破性を追求したSUV専用スタッドレスのオブザーブW/T-R。ランドクルーザー250との組み合わせは、雪道で絶大な安心感をもたらす。

次はそこをA/T IIIのランクル250で走るが、ご想像のとおり、こうした水を含んだザクザクの雪道では、コンパウンドの吸水性能や密着性より、雪をかむブロックパターンが重要。その意味で、今回のスノーコースは、オールテレインのA/T IIIの得意路面でもあり、実際、スラロームなどでの横方向のグリップとハードなブレーキング性能ではW/T-Rに少しゆずるものの、その走破性に決定的な差は感じなかった。

スノーコースでも不安のないドライビングが可能だったオープンカントリーA/T III。悪路、林道、そして雪道に対応する守備範囲の広さには驚かされる。

続いては、カチカチに凍ったアイスコースで試乗!

スノーコースでの試乗を終えて、アイスコースを走る頃には、日も傾き始めた。そうなると、冬の北海道はさすが冷えて、アイスコースはさらにカチカチに凍ってくる。しかも、いちばん気温が高かった昼前後から別の試乗車が、ごていねいに路面を磨いてくれたこともあり、見事なアイスバーンに仕上がっていた。

まずはそこをギズ3のCX-5で走り出すが、スタート地点からトラクションコントロールなしでは発進もままならないほどだ。それでもゆっくりと走り出すと、カーブやスラロームでズルッと滑りながらも、慎重にアクセルを踏み込んでいくと、着実に前に進んでいく。このトラクション性能はさすが、GSi-6以上に氷上性能を追求したギズ3だ。

カチコチでツルツルの路面では、さすがのギズ3でも舗装路と同様…というわけにはもちろんいかないが、ちょっと気を遣って走れば不安はない。

同じ条件でアイスコースを走らせるGSi-6もゆっくり慎重に動かす限り、立ち往生することはないが、発進、ブレーキング、スラローム、定常円旋回のすべてで、やはりギズ3の安心感とコントロール性は分があった。

アイスコースで走り比べると、ギズ3には譲るがGSi-6の安定感もなかなかのもの。

ただ、先のスノーコースでの実力を見るに、ゆるい雪質であればGSi-6のほうが気持ちよく走れることも少なくなさそうだ。トーヨーが、2種類のオブザーブをあえて用意する理由も分かった気がした。

W/T-Rを履くランクル250でアイスコースを走る。さすがはロックモードも用意するフルタイム4WDとオブザーブの組み合わせだから、重い車重が不利に働くブレーキングさえ気を使い、オーバースピードでさえ避ければ、ほぼ安心して走ることができた。

スノーコース同様、アイスコースでも安心感が強かったのがランクル250とオブザーブW/T-Rの組み合わせ。

ただ、びっくりしたのが、A/T IIIのランクル250が、アイスコースでもそれなりに走ってしまったことだ。トーヨーのカタログにも「過酷な積雪や凍結路がある環境下ではスタッドレスタイヤの使用をお勧めします」と書かれているように、こうしたアイスバーンであえてA/T IIIで走るようなことはすべきではないが、その掛け値なしのオールシーズン性能に感心するとともに、雪は降っても凍結することはめったにない地域なら、通年タイヤとしてのオープンカントリーA/T IIIは、じつに悪くないチョイスだと思った。

アイスコースでもオプカンA/T III履いたランクル250がそれなりに走れてしまったのは驚きだ。あくまでオールテレーンタイヤでありスタッドレスではないため、アイス(凍結路面)の走行はメーカーとして推奨していないものの、いざという時には頼りになる。

昔から「クルマの性能の8割はタイヤで決まる」といわれるが、今回の試乗で、それはあらためて正しいと痛感した。クルマや路面、そして求める性能が変われば、最適なタイヤも変わる。クルマの性格や路面に合わせたタイヤをキメ細かく用意するトーヨーはのタイヤづくりは、ある意味で王道ともいえる。

今回のインプレッションを担当した佐野弘宗さん。日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員も務めるモータージャーナリスト。ルノー・スポールを乗り継ぎ、現在の愛車はホンダ・シビック タイプRという好事家だ。