新しく発売になったホンダのCB400 SUPER FOUR E-Clutchが、どのようなポテンシャルを持っているのか、多くの人が興味を持っていることだろう。そのパフォーマンスがHSR九州で開催された「2026 鉄馬 with TSK 決戦の日」で証明された。CB400 SUPER FOUR E-Clutchの開発チームメンバーたちによって結成されたチームが参戦し、賞典外ながら見事トップでチェッカーを受けたのである。

1ヶ月半でマシンを製作

開発チームメンバーが集まって結成したチームとはいっても、マシンに特別なチューニングが施されているわけではない。今後CB400 SUPER FOUR E-Clutchで参戦する人の参考になるよう、エンジンはノーマルのまま。マフラーと足回りを変更してセットアップを行い、大幅な軽量化を施している。

ライダーの大橋淳希選手は今回の参戦の経緯をこう語ってくれた。
「仕事でCB400 SUPER FOUR E-Clutchを走らせていて、トルクコントロールシステムのテストをしていました。乗っていてとても楽しいバイクだと思ったんです。他のスタッフも同じ意見でした。皆で話しているうちに『レースに出たら面白いんじゃないか』ということで盛り上がりました。どのレースに出られるのかを考えたときに浮かび上がったのが鉄馬でした。」

しかし、この時点ですでにエントリーが始まっている状態。レースまでは1ヶ月半しかない。この短い期間でレース用の車両を作ることができるのか。それが最初のハードルだった。
「レース参戦を決めたのはいいんですが、『まずどこから手を付けようか』という話から始まりました。とりあえず保安部品など、レースに不要な部品を外し、サスペンションもどうするか決めて発注。間に合わせるのは本当に大変でしたが、メカニックを担当してくれたスタッフたちが頑張ってくれました。」

練習とセットアップは1日のみ

チームがHSR九州に入ったのはレースが開催される週の金曜日。決勝まで2日間しかないにもかかわらず、最初の走行日は雨だった。
「金曜日が雨だったので十分なテストはできませんでした。本格的に走れたのは土曜日。どこでブレーキをして、どこでスロットルを開けるのかを確認するところからスタートしました。土曜日の予選第2ヒートで速い人の後について、やっと走り方を学ぶことができた感じです。」

走行を重ねて慣らす必要があったのは、マシンも同様だ。
「ライダーとしては1日で車体のセッティングを出すのが大変でした。新品のサスペンションがついていたので、アタリがついてくるに従ってフィーリングが変わってしまいました。アジャストをしながら土日走っていました。」
出場したアイアンNK4クラスは、改造範囲が非常に広く、チューニングされたマシンも多かった。対してCB400 SUPER FOUR E-Clutchのエンジンはノーマル。パワーに関してはライバルが上回っていたことから決勝でもスタートで他車の先行を許し、追従する形でレースが進んでいった。

そしてストレートから左高速コーナーに進入する際のブレーキングでトップに躍り出て、そのままチェッカーを受けたのである。

「前の選手がブレーキをするまで待ち、前に出てからブレーキングしました。他のコーナーだと無理をして抜くことになるので、ここで抜くしかないと考えていました。パワーに関しては他のチューニングされたマシンのほうが速いかもしれませんが、トータルバランスで勝った感じです。」

大橋選手は初めての鉄馬でのレースも楽しめたようだ。
「なかなか抜きにくいコースでした。でも絶妙な速度の高速コーナーもあったりして、各選手や車両の得手不得手が分かるとレースを組み立てることができました。バイクを操るだけではなく、頭を使うこともあったりして楽しかったです。」

「鉄馬は注目度が上がってきているレースだと思います。クラスが多く、改造範囲も広いので自分の好きなバイクで出られるからでしょうね。参加車両を見させてもらったんですが、昔からの仕様を熟成させている人もいれば、最新フルコンを導入する技術者もいたりして、とても面白かったです。」

普段ミニバイクやJPスポーツに参戦している大橋選手は、CB400 SUPER FOUR E-Clutchが、鉄馬のようなサンデーレース参戦への敷居を下げてくれるのではないかと考えている。
「CB400 SUPER FOUR E-Clutchを購入した方が、サーキットを走ってみたいと思ったときに気持ちよく走れるバイクなのだということを知っていただけたら嬉しいです。」
なお、今回の参戦はユーザーにCBという選択肢を示すためのもので、今後の参戦予定はないという。

マシンはライトチューンのみ

今回レースに参戦したマシンは、エンジン内部には手を加えず、足回りや排気系などを中心に変更している。一般ユーザーでも同様の仕様にして参戦することが可能だ。フロントフォークはCB400 SUPER FOUR E-Clutchが発売直後でスプリングなどの入手が難しかったため、CBR600RR用にしている。ワイバンのマフラーはCB400 SUPER FOUR E-Clutch用だが、キャタライザーがなく、音量もレギュレーションに合わせたレース専用品。ECUのセッティング変更も行われていない。

「CB400 SUPER FOUR E-Clutchなら、サーキットのスポーツ走行をしたいと思ったときでも、オイル漏れ対策のアンダーカウルだけつけて走ることができます。サンデーレースに参戦する選択肢が増えたと思ってもらえたら嬉しいですね。」

おそらく多くのCBファンが気になっているのは旧モデルとの違いだろう。
旧モデルのVTECが新型には採用されていない。
しかしこれは、技術の進化によって、VTECがなくても低速域の性能と高回転域の伸びを両立できるようになったからだとのことだった。

Eクラッチの優位性とは

HSR九州では、深くバンクさせながらシフトダウンしなければならないコーナーがある。撮影を担当したPOP近藤によれば、この区間で大橋選手の乗るCB400 SUPER FOUR E-Clutchはとてもスムーズで安定しており、タイムを落とすことがなかったのだという。今回のレース車両に関してはEクラッチの設定も市販車とまったく変わっていないにもかかわらず、レースでの使用でも問題ないことが確認されたということだろう。

Eクラッチのセッティングを取りまとめた都築氏はEクラッチが極めて汎用性の高いシステムだという。
「ホンダが培ってきた自動変速システムやクラッチに関する知見を生かして、マニュアルトランスミッションを進化させたのがEクラッチです。最適なクラッチ操作をすることで変速や発進がスムーズになるし、クラッチレバーを残しているから、極低速走行やハンドルをフルロックさせたUターン、ワインディングやジムカーナなどといったシチュエーションでライダーの意思に応じてマニュアルでコントロールすることができます。今回のCB400 SUPER FOUR E-ClutchではEクラッチユニットの配置に苦労しました。新規エンジンとすることで、エンジン左側に置くことができ、マスの集中化、操安性能の向上に寄与しています。今回のレースでは、特に減速からのシフトダウンが安定していました。減速時に後輪のホッピングを抑える制御が働き、更にブリッピングと半クラッチを行うシフトダウン制御が働くことで、スムーズに安定してコーナーに進入していました。
結果的に、スロットル開け初めのタイミングが他車よりも早くなり、スムーズで素早いシフトアップとも相まって、速く走れたのではと思います。E-Clutchのスポーツ性能がレースでも有用であることを確認することができました。」

CB400 SUPER FOUR E-ClutchのECUプログラムの開発を担当した藤原氏も初心者からベテランまで、走る楽しさを引き出すシステムだと考えている。
「クイックシフターだと、変速のときにどうしてもショックがありますよ。Eクラッチが入ることでスムーズにすることができます。CB400 SUPER FOUR E-Clutchではスロットルバイワイヤーになったので、ECUでバタフライを動かして、シフトダウン時のブリッピングもできるようになりました。初心者でも安心できて、ベテランでも満足できるバイクになったと思います。バンク中にクラッチレバーを握らずシフトダウンしているのに挙動が乱れていないと感じていただけたのは嬉しいことです。」
藤原氏は入社2年目。今回の仕事では学びが多かったという。
「部品メーカーとやり取りしながら期限までに仕上げるのが大変でした。最初は自分がイメージしていたものと実際の動きがリンクしていない感じになってしまったんです。サプライヤーとの打ち合わせで上手く伝えるのは難しい部分もありましたが、結果として自分が大きく成長できたし、自信を持ってお客さんに乗っていただけるバイクになりました。」

ディテール解説

フロントフォークはセッティングの幅を広げるためにCBR600RR用をチョイス。フロントホイールもCBR600RR用のゲイルスピード。サイズはスタンダードのまま変更していない。

 

ワンオフで製作したバックステップ。1アップ5ダウンのレーサーシフトになっている。

 

マフラーはワイバンのCB400 SUPER FOUR E-Clutch用。ECUのセッティングはスタンダードのまま。レース用でキャタライザーがないことに加え、ECUの補正幅が広かったことから、排気系を変更するだけでパワーアップを果たすことができた。リアショックは2気筒のCBR400用。車重やサーキット走行に合わせてセッティングを変更している。

 

CB400 SUPER FOUR E-Clutchでは、開発当初からEクラッチの装着を前提にエンジンを設計することができたのでコンパクトにまとめることができた。スロットルバイワイヤーになったことで、シフトダウン時のブリッパーも作動する。

 

車両製作で思いのほか大変だったのがセパハンの取り付け。トップブリッジとライトステーの間隔が狭かったので、ライトステーを削って位置を下げ、スタイリッシュにまとめることができた。

 

ラジエターはCBR400R FOUR用。走行して水温を確認しながら適正なサイズをチョイスしている。