
早いものでR32スカイラインGT-Rが発売されてから36年もの歳月が流れた。発売当時445万円と高価だったもののバブル景気の後押しもあって爆発的に売れた。さらに翌年からはグループAに参戦して、後に伝説と化すほど圧倒的な速さを見せつけた。当時から500ps程度にまでパワーアップさせても壊れないと称された直列6気筒DOHCツインターボのRB26DETT型エンジンは、レースばかりかチューニングのベースとしても最適だった。

R32GT-Rの人気は次世代型であるR33が発売された後も続くことになる。R33スカイラインGT-RはR32と比べて圧倒的にボディ剛性が高められ実用性も向上していたものの、R32よりひと回り大きく重くなったことで前世代ほどの人気車にならなかった。そのため中古車となってからもR32の高値が続いたが、さすがにR34へ世代交代する頃から徐々に中古車価格は低下傾向になる。一時は100万円台で買える個体が山ほどあった。

手頃な価格で高性能車が手に入るとなれば、こぞってチューニングやカスタムのベースにされるのは自然なこと。そのため数多くのR32GT-Rが元に戻せないほど改造され、残存数を減らしていった。これは走り屋好みの車種にとって宿命のようなものだが、逆に程度の良いノーマル車が多く生き残ることとなる。こうしてアメリカでの25年ルールが適用された頃から中古車価格は徐々に高騰を始める。

25年ルールがR34にまで適用される頃になると、R32よりも人気を博して途轍もない相場へと上昇。そのためだろう、ここ数年でR32GT-Rの相場はだいぶ落ち着き、現在では400万円台や500万円台の売り物も散見されるようになった。中古車情報を見ているのは楽しいものだが、売りに出されているR32GT-Rの多くはボディカラーがガングレーメタリックやクリスタルホワイトで、時折スパークシルバーメタリックやブラックパールメタリックが見受けられる。だが、新車時にはグレイッシュブルーパールやダークブルーパールなどの青系、さらには赤系のレッドパールまでラインアップされていた。

今となってはほぼ見ることのないレッドパールのボディカラーが眩しいR32スカイラインGT-Rを久しぶりに見ることができた。それは2025年5月11日に埼玉県北本市で開催された「第6回北本ヘイワールド昭和平成クラシックカーフェスティバル」の会場でのこと。このイベントは商業施設である北本ヘイワールドの屋上駐車場を貸し切って行われる。晴天に恵まれた当日は直射日光が燦々と照りつけ、展示されたクルマたちのボディを輝かせていた。それにしても見事なまでにレッドパールが輝いていて、さらには「大宮33」のナンバープレートが付いている。これはお話を聞かずにスルーできない。

クルマのそばにいたオーナーはHNがR32レッドパールさんと、ボディカラーそのままの人。現在56歳というからR32スカイラインが発売された当時は20歳だった。このレッドパールのGT-Rは1994年式というから、R32レッドパールさんは当時25歳。ということはお父さんから譲り受けたパターンかと思いきや、なんと若くしてR32GT-Rを新車購入されていた。その当時一番欲しかったのがスカイラインGT-Rであり、それ以外には目も移らなかったという。当時すでにバブル崩壊の後ではあったものの余韻が残る時期であり、現在より若い世代が新車を買いやすい状況ではあった。ただ、R32レッドパールさんが恵まれた環境だったことは間違いない。

新車を買う場合に最も悩むのがボディカラーではないだろうか。94年式というからR32GT-Rとしては最終期であり、すでに人気カラーは現在の中古車相場に多く残るガングレーメタリックやクリスタルホワイトに二分されていた。それなのにあえて人気のないレッドパールを選んだのは自分の好みを最優先しつつ、下取りなどに出すことを気にしていなかった証拠。しかも実際、25歳で手に入れたGT-Rを56歳になった今も乗り続けている。31年という長い間、R32GT-Rより欲しいクルマが現れなかったということなのだ。

長い間乗り続けてきたこともあって、フルノーマルではなくなった。手放すことを考えていないから、自分好みの姿にしようとするのは自然なこと。外観ではN1バンパーや17インチになるR33純正ホイール、エアロミラー、ボンネット&トランクスポイラーを装着している。そのN1バンパーはナンバープレートの位置を変えているため、奥に備わる大型インタークーラーがよく見える。これでわかるようにエンジンは本体こそノーマルなものの吸排気系などを変更してブーストアップできるようにしてある。

吸排気系とブーストコントローラーだけで簡単にパワーアップできるのも、この時代のターボ車の魅力だ。まして潜在能力が高いR32GT-Rなのだから、これだけでも大きく変貌させることができる。だからこそ長い間、楽しまれてきたのだろう。パワーアップさせると問題になるのがブレーキ性能。そこでR33純正17インチホイールの内側にはブレンボ製ブレーキシステムへ変更している。実に走りが楽しそうな仕様へとなっているのだ。

インテリアも外装同様に大きく変更してはいない。純正ステアリングホイールが残っているくらいなので、ノーマルの状態がお気に入りでもあるからだ。ただし少々カスタム感を演出するため、随所にカーボンパネルを装着して運転中の眺めが楽しめるようにされた。また、ハイパワーを受け止めるため、フロントシートは2脚ともレカロ製のリクライニングシートに変更している。

楽しい走りを味わえる仕様になっているので、それこそ頻繁にドライブを楽しまれているのだろう。ところが現在の走行は驚きの4万キロ台。ほかにもランドクルーザー80やホンダの大型バイクであるX4も所有されているから、それぞれを楽しむことで1台だけ走行距離が伸びることがなかったようだ。これまでオルタネーターやエアフローメーターのトラブルはあったものの、大きな故障とは無縁。今後近いうちにタービンを変更する予定だそうで、まだまだこれからもR32GT-Rを楽しむ日々が続きそうだ。