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自衛隊新戦力図鑑

F-35Bの「短距離離陸・垂直着陸」能力とは何か?

ハワイやグアムを経由し、アメリカから飛来したF-35B戦闘機3機が宮崎県の新田原基地に到着した。F-35シリーズのうち、B型は「短距離離陸(Short Take Off)・垂直着陸(Vertical Landing)」型で、略して「STOVL」型と呼ばれる。到着した3機は、雨模様のなか、それぞれ垂直着陸、短距離着陸(スローランディング)、通常着陸により滑走路に降り立った。

到着した3機はそれぞれ異なる着陸方法を披露した。写真はF-15J戦闘機越しにF-35Bを捉えたもの。当日は報道席が着陸場所から離れており、取材者たちを苦労させた(写真/谷崎郁弥)

すでに航空自衛隊はF-35シリーズの基本型であるA型を導入しているが、今回到着したB型は、機体中央の巨大な「リフトファン(上昇用ファン)」と、後方から真下まで90度回転する「推力偏向ノズル」などを搭載することによって、このような特殊な離着陸能力を実現している。B型はアメリカ海兵隊のために設計された機種であり、彼らの海上拠点である強襲揚陸艦の艦上で運用するために、このような特殊な離着陸機能が必要だった。

垂直着陸を横から捉えた写真。コックピットのすぐ後ろで開いたフタはリフトファンの空気取入れ口のもの。機体下には排気側のトビラも開いている。これと90度真下を向いた推力偏向ノズルにより、垂直着陸を可能としている(写真/航空自衛隊Xより)

F-35シリーズには空母艦載型のC型も存在するが、B型と何が違うのか? 空母は、短い甲板上で戦闘機を離陸速度まで一気に加速させるカタパルト(射出装置)や、高速で飛んでくる戦闘機を急減速させ着艦を助けるアレスティング・ワイヤー(着艦拘束装置)により、戦闘機の離着陸をサポートしているが、強襲揚陸艦はヘリコプター運用能力も重視している都合上、こうした装置を設ける余裕がない。そのため、短い甲板上でも戦闘機が自力で離着陸できるSTOVL能力が必要とされたのだ。

必ずしも“艦上戦闘機”になるわけではない

日本ではヘリコプター搭載護衛艦「いずも」型での運用が予定されており、すでに「いずも」型はF-35B運用能力獲得のための大規模改修が行なわれている。このようなことから、期待を込めてF-35Bを「帝国海軍以来80年ぶりの艦上戦闘機」と持て囃す声も多いが、現時点で防衛省・自衛隊はF-35Bを“艦上専用機”とする考えはなく、「いずも」型は“運用の選択肢のひとつ”とみなしているようだ。

F-35B搭載化の大改修を受けた護衛艦「かが」。もともとヘリコプター運用母艦であり、甲板上には5つの発着艦スポットがある。ヘリコプター運用との兼ね合いから、空母のような発着艦装置を設けることはできず、STOVL能力を持ったF-35Bを導入した(写真/海上自衛隊)

F-35B導入の背景について防衛省・自衛隊は、日本の南西地域の島々において戦闘機の運用に適した2400m以上の滑走路が多くないこと、また有事にはこれら飛行場が長距離攻撃で破壊される可能性も高いことを挙げ、より短い滑走路でも運用可能な柔軟性を持った戦闘機の必要性を説明している。「いずも」型も、そうした柔軟な運用基盤のひとつということだ。

今回の回航はアメリカ海兵隊のパイロットによって行なわれた。そのためか、今回の機体には日本の国籍マーク(日の丸)は描かれていなかった(写真/谷崎郁弥)

新田原に2個飛行隊を編成

アメリカからの飛行は、アメリカ軍のパイロットが担った。彼らはこのまま同機のインストラクターとして航空自衛隊パイロットの訓練にあたるようだ。なお、アメリカ軍人による飛行だったためか、到着したF-35Bには航空自衛隊機をあらわす「日の丸」は描かれていなかった。

不鮮明で申し訳ないが、F-35Bの左翼にアメリカ軍の国籍マークらしきもの確認できる(写真/谷崎郁弥)

航空自衛隊は42機のF-35B導入を予定しており、新田原基地に2個飛行隊を編成する計画だ。2029年度までに30機、2031年度には約40機のF-35Bが配備される。また、その訓練拠点として鹿児島県沖の馬毛島では基地施設の整備も進む。今後の南西諸島防衛において、F-35Bは大きな役割を担うことが期待されている。

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