廃食油を水素と反応させて生成したカーボンニュートラル燃料「HVO」
マツダをはじめとする4社は合同で「次世代バイオディーゼル燃料体験会」を開催した。その目的は、地球温暖化への対応がどの企業においても不可欠となっている現状において、CO2をすぐに削減できる選択肢である次世代バイオディーゼル燃料によるカーボンニュートラルへの取り組みの現状を、より多くの企業・官公庁に知ってもらうことにある。

今回、話題の中心となった次世代バイオディーゼル燃料が「HVO」だ。HVOとは「Hydro-treated Vegetable Oil」の略で、水素化処理植物油を意味する。つまり、廃食油などを水素と反応させる「水素化処理」によって、化石由来の軽油と同一の性状を持たせた代替燃料のことである。

HVOは食物油の原料となるバイオマスが成長過程でCO2を吸収し、燃焼時に排出されるCO2と相殺されるため、ライフサイクル全体でカーボンニュートラルと見なされる。これにより、今すぐにCO2削減が可能な燃料としてHVOはグローバルで量産化や利用が進んでおり、特に自動車のCO2排出量の約90%を占める「つかう」段階での排出削減に大きく貢献する。
HVOのメリットは他にもある。 大きいのは、軽油と同一の性状を持り、発熱量も43~44MJ/kg程度と軽油とほぼ同等であるため、既存の軽油インフラや車両をそのまま使用できる「ドロップイン燃料」であること。また、廃食油をメタノールと反応させたバイオディーゼル燃料のFAME(Fatty Acid Methyl Esters:脂肪酸メチルエステル)はゴム・樹脂材料の腐食や燃料酸化といった問題があるが、HVOは石油と同等の炭化水素構造を持つため、部品への影響の心配もない。そのため、既存のディーゼルエンジンに高い混合割合で使用できるのだ。

マツダ:「e-SKYACTIV D 3.3」でHVOのドロップイン使用に対応
マツダはカーボンニュートラル実現に向け、FCV(燃料電池車)、BEV(バッテリー電気自動車)を含めたマルチパスウェイで取り組んでいるが、カーボンニュートラル発電への移行期においては(特に火力発電が多く残る地域では)、内燃機関(ICE)の効率改善とHVOの利用の組み合わせが有効なCO2削減策となる。マツダの試算によると、走行距離が25万km程度までは、BEV(電気自動車)よりもCX-60 e-SKYACTIV D 3.3(3.3Lディーゼルエンジン+マイルドハイブリッド)にHVOを50%使用した場合の方が、ライフサイクル全体のCO2排出量を低く抑えることができるという。


マツダ謹製の「SKYACTIV D 3.3」は、燃料噴霧間の干渉をなくして理想の燃焼を実現する2段エッグ燃焼室、EGR領域拡大によるNOx低減が目的の大排気量化などにより、優れた走行性能と燃費性能を両立したのが自慢。HVOは前述のとおりドロップイン燃料ではあるものの、セタン価(燃料の燃えやすさ)が軽油よりも高いという性質があるのだが、この3.3L直列6気筒ディーゼルエンジンはHVOを使用した場合でも同等のトルク・出力性能とクリーンな排ガスを担保できる燃焼キャリブレーションを採用しており、耐久試験を実施しているのも特徴だ。

今回、バイオディーゼル燃料を入れたCX-60のハンドルを握ることができたが、通常の軽油を用いた場合との違いを体感することはできなかった。ディーゼルらしい低回転域から生じる大トルクと、ディーゼルらしからぬ気持ち良い吹け上がりとを両立する3.3L直6ユニットならではのキャラクターは健在だった。

ユーグレナ:軽油とHVOを51%混合した「サステオ51」を開発。
一方で、HVOには課題も存在する。まずはコストだ。現状、HVOの燃料費は軽油の約3倍と言われる。環境に優しいとはいえ、この割高な燃料コストが普及を阻む大きな要因となっている。そこで、これまで軽油とHVOを51%混合して国内の軽油規格に適合する「サステオ51」を開発するなど、次世代バイオディーゼル燃料の普及に取り組んでいるユーグレナでは、量産によるコスト削減を目指している。
その一環として、マレーシアに最大約72.5万キロリットルの製造能力を持つプラントを建設するプロジェクトを推進。それが完成すれば、年間約10万キロリットルのバイオ燃料が日本に供給されることとなる。


いすゞ:通勤バスでHVO混合燃料を運用する社会実装事業に取り組む
いすゞは2014年からユーグレナと共同で次世代バイオディーゼル燃料に関する取り組みを実施中だ。当初はFAME 混合1%から開始し、その後、HVOに切り替えてその混合率を1%、10%、21%と段階的に引き上げ、現在はHVO 51%混合燃料のサステオ51を使用した通勤バスの運用に至っている。
商用車は車両のサイズ、使われ方、市場動向に左右されるため、乗用車同様にマルチパスウェイでの対応が必要だ。その中で、いすゞはディーゼルエンジンの高効率化を進めつつ、HVOをはじめとするカーボンニュートラル燃料への対応や普及加速に向けた活動を今後も行っていく。


平野石油:HVOの全国的な供給体制の構築と簡易給油機の活用を提案
HVOは既存のインフラや車両を活用できるドロップイン燃料であるため、新規インフラ投資が不要という利点はあるものの、全国的な配送網や供給体制の確立といった課題は存在する。その解決にひと役買っているのが、日本全国に燃料配送が可能なネットワークを有する平野石油だ。


平野石油はBCP(事業継続計画)対策の強化にも取り組んでいる。災害時における燃料として軽油には、ガソリンに比べて引火点が高く取り扱いが安全であること、ディーゼル車の保有台数からガソリンよりも供給が安定する可能性が高いこと、発電機の燃料としても共用できる汎用性…といった強みがある。そこで平野石油は、簡易給油機(容量190L)とサステオ51の組み合わせを提案している。
簡易給油機は消防法の適用外となり設置・運用ハードルが低い。日常的にサステオ51を使用することでCO2削減に貢献しつつ、燃料を常に新しい状態で備蓄する「ローテーション利用」により、災害時には非常用燃料として活用できる「脱炭素とBCP対策を同時に叶える」ソリューションを提供しているのだ。

三井住友フィナンシャルグループ:社用車に次世代バイオディーゼル対応車を導入
今回の次世代バイオディーゼル燃料体験会では、その活用に取り組んでいる企業として、三井住友フィナンシャルグループが紹介された。
三井住友フィナンシャルグループでは、2030年度までに国内営業車の100%環境配慮車化を目指す目標を設定し、着実に実行を進めてる。しかし、全国の拠点ごとに駐車場に関する設備が異なるため、BEVやFCEVにとどまらず、環境配慮車の選択肢を増やす必要性を認識していたという。
そこで2025年4月から、メガバンクとして初めて社用車に次世代バイオディーゼル燃料対応車両(CX-80)を導入。軽油はガソリンと比較して運搬・保管が容易であるため、災害時のエネルギー確保の観点からも有用だ。まだHVOの給油スタンドが普及していないことから、CX-80の駐車場には平野石油の簡易給油機を設置し、そこからセルフ給油する仕組みとなっている。

ここまで各社の次世代バイオディーゼル燃料に関する取り組みを紹介してきたが、各社が口を揃えているのが、脱炭素という目標を共有化できる仲間づくりの重要性だ。地域や業界を横断した連携を通じ、チームジャパンで需給拡大と供給網構築といった課題を解決する。それが次世代バイオディーゼル燃料の普及には必須のようだ。

