1987年式トヨタ・カローラレビン3ドア1600GT-APEX。

ネオクラシックカーが大人気である。中古車検索サイトなどで90年代前後のスポーティカー、特にマニュアルトランスミッションのクルマを探すと、人気のあるモデルにはとんでもないプライスが付けられている。人気のないモデルにもしっかり価格が付いていて、もはや完全に趣味の領域に突入したといえる。手軽に買って好きなようにカスタムを楽しんだりチューニングしてサーキット走行を楽しむ世界ではなくなってしまった。古いクルマを楽しむことが一般に認知された証であり、自動車趣味が幅広く浸透したということだろう。

マフラーに穴が開き純正が入手できずHKS製に変更した。

ネオクラ人気の筆頭株は言わずもがなの第二世代スカイラインGT-Rだろう。こちらはケタが違う世界に突入してしまったが、それに続く人気のAE86レビン・トレノの中古車相場も高騰を続けている。特に漫画・アニメでお馴染みの白黒パンダ・トレノの人気は異常と呼べるほどで、解体業車から素性の良さそうな個体を引き上げ吸排気系と足回りをカスタムして全塗装すれば楽しめた30年ほど前が遠い過去に感じられるほど。ただ、こうした世相と関係なしにAE86を長年楽しんできた人もいる。少々時間が経ってしまったが、「北本ヘイワールド昭和平成クラシックカーフェスティバル」の会場で、ノーマルを良く保つAE86レビンを見つけた。

純正オプションのイントラ製アルミホイール。

クルマの近くで椅子を広げてくつろいでいたオーナーに話しかけると、実は以前にも声をかけ改めて取材するお話をさせていただいた黒岩純さんだった。黒岩さんのことはG-ワークス10月号でも紹介しているので、ぜひそちらもご覧いただきたい。

オーバーホール歴のない新車からのエンジン。

黒岩さんがこのクルマを購入したのは1999年のこと。今から26年も前のことだが、実はその当時他にもAE86を所有されていたという。現在57歳の黒岩さんが免許を取得時、1980年代後半だとAE86の中古車には結構な相場がついていた。初愛車とするには高価だったため断念し、別のFRスポーティカーで楽しまれていた。だが、AE86のことが忘れられず10年ほどして念願を果たす。

ペダルカバーとシフトノブだけ変更している。

だが、その時に買ったのはチューニングが施された個体だった。とはいえ念願のAE86なので、どこへ行くにも運転して楽しんだ。ところが蜜月は長く続かない。そう、やはりチューニングした個体だったため壊れてしまうのだ。そこで黒岩さん、なんともう一度AE86に買い替えることとした。2台目のAE86も少々カスタムしてあったが、その当時ノーマルのAE86を探すこと自体が困難なほどだった。ライトなカスタム車なら構わないだろうと手に入れたのだ。

走行距離は驚きの5万キロ未満。

こちらはすぐに壊れることなくAE86のドライブを存分に楽しむことができた。車両重量が軽いため挙動をダイレクトに感じられ、俊敏なフィーリングが黒岩さんを虜にする。だがまだ黒岩さんの心の中にはノーマル車への想いが残っていたようだ。自宅から遠くない場所にAE86の専門店があり、通りがかるたびに気にしてはいた。するとある時、その専門店に強気なプライスタグが掲げられた1台のレビンに目が止まる。

オーディオは新た強い社外品に変更した。

それが今も乗るノーマルのGTアペックスだったのだ。早速専門店の敷居を跨いで店主と話をしてみれば、相当に素性の良い個体で新車から大きく改造やカスタムが施された過去がないとのこと。強気の価格も納得できるエピソードだった。とはいえ、すでにAE86に乗っているのだから下取りに出すか、諦めるかが普通なのだが黒岩さんは普通ではなかった。なんとAE86を増車することにしてしまうのだ。

サイドサポートの傷みが最小限のフロントシート。

しばらくはAE86の2台体制を楽しむことにする。走り回るのならライトカスタム車で、ガレージで眺めたり磨いたりするのを楽しむのがノーマル車と言った具合。だが、普段乗りのクルマもあるため、AE86を2台維持することが無駄に思えてきた。そこでカスタム車を手放すことに決める。やはりノーマルの良さはかけがえのないもので、AE86本来の味を楽しむのならカスタムしてはいけないと考えたのだ。

ナンバープレートはこだわりの数字。

こうして3台のAE86を乗り継ぎ、ノーマル車を残す決断をされた。結果的にそれが良かったようで、このAE86は週に1度ほど近所を走るだけで購入時から程度を変えずに維持されている。埼玉近辺で開催される旧車イベントへ展示するのが楽しみで、イベントで知り合ったAE86仲間数人でクラブのような関係を築いた。仲間たちもノーマルのAE86の乗られているからこその絆。過去にカスタムやチューニングが大いに流行った経緯があるモデルでも、やはりネオクラと呼ばれるようになった今から楽しむならノーマルを維持するのが1番のようだ。