フロントグリルはエンジン冷却のための開口部

世代を重ねるごとにグリルが大型化してきたトヨタ アルファードおよびヴェルファイア。

フロントグリルは、ラジエーターやエアコンコンデンサなどの冷却や、エンジンルーム温度の上昇を抑えるために必要不可欠なものだ。

グリル面積の拡大は、スポーツ走行のような連続高負荷走行時の冷却性能を高める手法として有効であるものの、現在はスポーツ走行とは無縁なはずのミニバンや軽自動車まで大きなグリルを採用している例が目立つ。

エンジンの高性能化によって発熱量は増加傾向にあるかもしれない。しかし、フロントフェイスの大半を埋めるほど大きなグリルは必要ない。近頃のグリルの大型化は、おもにデザインのためと言えるだろう。

とくに近年はSUVやミニバンなどフロントフェイス専有面積の大きなクルマが主流となっているため、デザインバランスを取るためにグリルが大きくデザインされる傾向にある。

それに加え、アッパーグリルとロアグリルが一体化したデザインや、グリルとヘッドライトをまとめてデザインに組み込んだクルマが増えていることで、なおさらグリルが大きく見える。

カッコいいグリルとはどんなデザイン?

BMWの特徴的なグリルは「キドニーグリル」と呼ばれる。縦方向に大きくなった4シリーズのグリルは賛否両論を巻き起こした。

フロントグリルは、クルマの印象を左右する重要なデザイン部分でもある。事実、グリルをクルマやブランドのアイデンティティとしているメーカーも多い。

アウディの「シングルフレームグリル」やレクサスの「スピンドルグリル」のような大型グリルはエンブレム以上によく目立ち、遠くからでも特定のブランドだと認識させる強いアイコン性を持つ。

また、大きなグリルほど「力強さ」や「高性能」といったイメージを与えやすく、形状によってもそのクルマに抱くキャラクターイメージが大きく変わる。

とくに販売競争が激しいSUVやミニバンは消費者の購買意欲を刺激するために、大きなグリルによって補強された迫力や威圧感、高級感や特別感を必要とするのだろう。大きなグリルのクルマが増えている事実は、そのデザインが消費者に好まれ、販売台数にも結びついていることを示している。

このように大型化するグリルの背景には、主要な販売市場の趣向も大きく影響している。なかでも、巨大市場である中国では威圧感や迫力のあるフロントフェイスが好まれる傾向があり、多くの自動車メーカーが中国市場の需要に応える形で、グリルを大型化させているといった見解もある。

もちろん、すべてのクルマのグリルが大型化しているわけではなく、デザインは車種や購買ターゲットによって巧みに使い分けられている。それでも以前に比べれば総体的にグリルと呼べる面積は拡大し、より装飾性が増している傾向は見受けられる。

大きなグリルは現在のクルマに都合がよい

アウディ Q8の「シングルフレームグリル」。エンブレムの下にADASのセンサーが見える。

ADAS(先進運転支援システム)の搭載もグリル大型化を進めた一因といえるだろう。

技術が普及し始めた頃、ミリ波レーダーなどセンサーはまだ大きく、メーカーによっては大きなエンブレムの裏にセンサーを仕込んでグリル内やフロントフェイスの中央に配置していた車種も多かった。

そのため一時期は、肥大化したエンブレムが過度に目立つクルマも多く見られた。大きなグリルなら、大きなエンブレムであっても主張が抑えられる。またグリルが大きければ搭載するセンサーの数が増えても容易に対応可能だ。

ブラックアウトされた大きなグリルは、センサー類を目立たずにマウントするのにも都合がよい。このようにデザインの流行だけでなく、現代のクルマのグリルが大型化するのは自然な流れとも言えるだろう。