2025年9月13日から15日にかけて開催された「アリオ上田特別な3Day’s 昭和平成名車展示会」。長野県上田市にある商業施設であるアリオ上田のイベント広場に名車を展示して3連休を楽しんでもらおうとの趣旨で開催されたイベントで、初日の13日には国産旧車をメインに展示された。14日は外国車、15日が軽自動車の展示とテーマを設けて3日間開催されたうち、初日の「国産車」を取材させていただいた。

決して多くはない台数だったものの、展示された旧車たちは粒揃い。特に鮮やかな塗装が目に留まったのが今回紹介する510ブルーバードだ。近くにいたオーナーに話を聞けば、塗装がキレイなことに納得。現オーナーである山田徳重さんが手に入れる前のオーナーは、自動車の塗装工場で働く方。プロの塗装職人なのだから愛車のコンディションにはさぞ気を遣っていたことだろう。しかも愛車が60年近くも前になる67年式ブルーバードなのだから、愛情の掛け方はひとしおだったことだろう。

では現オーナーの山田さんはなぜ510ブルーバードを手に入れることにされたのか。聞けば若い頃にラリーに熱中されていたとのことで、その当時参戦していたマシンが510ブルーバードだったとか。510ブルーバードは一見平凡なセダンなのだが、車体バランスに優れることや比較的軽量なこと、さらにSSSグレードでは活発なL16型エンジンにツインキャブを装備してパワフルだったことなどから、当時からラリーマシンとして名を馳せた。その実力は健在で、今でもクラシックカーレースの常勝マシンでもあるのだ。

510ブルーバードといえば1970年のサファリラリーで総合優勝とチーム優勝という栄誉を勝ち取ったことでも知られる。それほどに戦闘力の高いマシンだったことから、’70年代には数多くの国内ラリーでもその姿を見ることができた。山田さんもその一人だったわけで、当時は全日本ラリーで優勝経験もあるドライバーのナビを務められていた。いわばトップチームでの活躍だったわけで、それから数十年の歳月を経ても記憶は色褪せることがなかったことだろう。

だが、その後は日産ディーラーでメカニックを務め、仕事一筋に働かれた。クルマが好きだったものの愛車に選ぶのは新しいモデルばかり。そんな山田さんに転機が訪れるのは会社側から希望退職者を募られたこと。定年になっても再雇用により働き続けるのが一般的な世の中だが、希望退職制度が始まったことで山田さんは考え方を変えることにした。同じ職場で働き続けるより、残りの人生をもっと楽しむことにされたのだ。

早期退職に応じると、次の日からはクルマ探しが始まった。目当ては当然、若い頃にラリーを通して親しんだ510ブルーバード、それも1600SSSに絞って探すことにした。それが今から10数年ほど前のことだが、思ったようなコンディションの売り物が見つからない。数ヶ月探していると旧車専門誌の個人売買欄に掲載された1台に目が止まる。それが現在の愛車だった。

山田さんはイベントが開催された長野県在住で、前オーナーから引き取ってくるとすぐさま楽しんだわけではない。やはり長年日産でメカニックをされてきただけに、一通りのメンテナンスを自らの手で行い納得できる状態にまでしないことには気が済まない。ただ、幸いなことに前オーナーが塗装職人だったため、外装にはほぼ手を入れずに済んだ。山田さんが行なったのはエンジンやミッション、さらには足回りを中心としたメンテナンスだった。

エンジンは当初、分解して消耗部品の交換や各部の調整と清掃作業を中心にオーバーホールを施す。だが1回では満足できる状態にならず、2度目のオーバーホールを実践。エンジンの調子を左右するのは吸排気バルブのすり合わせ作業で、わずかなクリアランスの違いがコンディションの差になって現れる。シンプルなエンジンこそ、地道な調整が大事になるのだ。

さらにトランスミッションは1600SSSの純正を使っていない。510ブルーバードは’70年の改良でSSSシリーズに1800エンジンが追加される。この1800SSSに採用されたミッションは1600SSSのものより1〜4速までの繋がりが良く、現在の一般道を走るなら1800用が楽しめるからだ。とはいえ、1800SSSのミッションだって探すとなると苦労するはず。どうしたのか聞けば、なんと友人が部品取り車を所持していたそうで、そこから移植させてもらったのだ。

エンジンルームを見れば細かな部分まで手を入れられているのが一目瞭然。各種ホース類やハーネス類が新品とされているだけでなく、エンジンマウントやブレーキのマスターシリンダーまで新品になっている。補修部品が比較的揃う日産車らしく、購入時ならまだまだ新品部品が手に入ったそうだ。そのエンジンルームには見たことのない形状をしたストラットタワーバーが装着されている。「これは?」と聞けば、日産アベニール用のものを山田さん自ら加工して装着できるようにしたものだとか。

同じように足回りにも独自のメンテナンスが施された。ストラット・アッパーマウントなどは新品にしつつ、コイルスプリングだけラリー用の強化部品に変更している。ノーマルのままだと柔らかすぎるためだが、それ以上に固めることはしない。というのもこれだけ古いクルマに強化サスペンションや車高調などを入れるとボディを痛めることになるから。かといってロールケージを組み込むようなことはしたくないし、今の楽しみ方は一般道を軽く流す程度だから必要ない。あくまでコンディションの維持を優先したモディファイにとどめているのだ。若い頃にラリーを楽しみ、長年メカニックとして働かれた経験が生かされた510ブルーバードなのだった。
