(技術的には)出発地から目的地まで、ドア・トゥ・ドアでハンズオフ走行が可能に

日産自動車は、2027年度に国内の市販車に搭載予定の次世代ProPILOT(プロパイロット)を公開。複雑な交通環境に高度に調和して安全に走行する技術を搭載した開発試作車によるデモンストレーション走行を東京・銀座周辺で行なった。助手席に乗って市街地での走行を体験した感想は、「自分でやろうと思っていた操作を全部クルマがやってくれた」である。「自分だったら、こうしたのに」と感じたシーンは一切なかった。
日産は2013年に「自動運転の取り組み」を発表した。当時は自動運転の用語を用いたが、厳密に言えば運転支援である。その後、「プロパイロット」と名づけた運転支援技術は、3つの段階を踏んで進化していく。第1段階は2016年に先代セレナ(C27型)の登場に合わせて導入された。高速道路の同一車線で車両側がアクセル、ブレーキ、ステアリングを自動的に制御し、ドライバーの負担軽減を図る技術である。
2019年には「プロパイロット2.0」がスカイラインに搭載された。高速道路の複数車線をナビゲーションシステムで設定したルートで走行し、ドライバーが常に前方を注意してステアリングを確実に操作できる状態にある限り、同一車線内でハンズオフが可能となり、ドライバーの運転操作を幅広く支援する。現在は、アリアとセレナで搭載車が選択できる。
今回公開された次世代プロパイロットは運転支援のカバー範囲を市街地にまで拡げたもので、ルート走行中、技術的にはハンズオフが可能だ。これにより、(技術的には)出発地から目的地まで、ドア・トゥ・ドアでハンズオフ走行が可能になる。
Wayve AI と日産グラウンド・トゥルース・パーセプション

この技術の実現に大きく貢献しているのは、英国Wayve(ウェイブ)社の「Wayve AI Driver」ソフトウェアである。同社の生成AIの技術と日産独自の「Ground Truth Perception(グラウンド・トゥルース・パーセプション)」(GTP)の技術を活用することにより、革新的な次世代運転支援技術が実現した。GTPはLiDAR(ライダー:レーザー光を照射して対象物までの距離や形を計測する装置)とカメラ、レーダーからの情報を組み合わせ、周囲の空間と物体の形状を優れた正確性で捉え、その変化をリアルタイムに把握する技術である。













電気自動車のアリアをベースにした次世代プロパイロット開発試作車は、ルーフ前端にLiDARを1基搭載。レーダーセンサーはフロントグリル中央部に1個とボディの四隅に計5個搭載。車両の周囲360度を捉えるカメラは計11個搭載している。
「日産がやりたいと思っていることは(2013年に自動運転→正確には運転支援の取り組みを発表したときから)不変なのですが、ようやく技術が手に入ってきました」と感慨深げに語るのは、プロパイロットの最初の段階から、一連の運転支援技術の開発を率いる飯島徹也氏(日産自動車 ソフトウェアディファインドビークル開発本部 AD/ADAS先行技術開発部 戦略企画グループ 部長)である。
「人間とほぼ同じ行為ができる技術が、ようやく現れてきました。人工知能です。最先端の生成AIで作ったモデルをクルマに載せるというより、生成AIにクルマをつなぐイメージ。エンジニアが考えた、単純された脳の構造に基づくプログラムで動くのではなく、あらゆるシーンで人間と同じような情報(画像情報)をインプットし、どう動くべきなのか膨大なトレーニングを高速で行なうことで、人間と同じようなルールを自動的に生成していく。文学的に表現すると、熟練したドライバーが経験に基づき、あらゆる可能性を予測して『かもしれない運転』をします」
従来はカメラやレーダーにLiDAR、高精度地図データの情報をもとに認知し、判断して、操作する手順を踏んでいた。次世代プロパイロットは専門的にいえばエンドツーエンド(End-to-End)のシンプルな構成で運転支援を実現している。画像情報〜生成AI〜車両というわけだ。LiDARを搭載しているのは、とくに夜間の遠方視界を確保するため。「カメラが人間並みになるまでLiDARは必須」と飯島氏。AIが解釈するので、「高精度地図データは必要ない」とも説明する。
東京・銀座の複雑な交通状況でも不安なし

次世代プロパイロット開発試作車の同乗試乗では、東京・芝公園のホテルを起点に虎ノ門〜新橋〜日比谷〜銀座〜新橋〜汐留〜浜松町〜芝公園というルートを走った。片側3車線の幹線道路もあれば、道の両側に路上駐車がつらなる一方通行路、信号のない交差点を通過する設定。ビジネスアワーだし観光エリアも含んでいたので歩行者は多かったし、自転車や電動キックボードにも遭遇した。

「開発試作車にとっては、なかなか厳しいルートですね」と飯島氏に水を向けると、「得意分野ですよ」との答え。「こう言ってはなんですが、かつては『できない』理由をどうやって説明しようか考えたものですが、いまは『できる』理由をどうわかりやすく説明するか考えています」
右折レーンで信号待ちしているシーンでは、対向車線を通過する車両と同時に、横断する歩行者や自転車を見ながら、「行ける」と判断したタイミングでアクションを起こす。自分でもこのタイミングで行くな、というタイミングで開発試作車は動く。「なんでこのタイミングで行かないの?」とか、「いま行ったら危ないでしょ」という動きは一切ない。右折可の矢印が出るまで待った交差点もあったが、矢印が出る寸前にモーションを起こすので、もどかしさを感じることはなかった。
片側2車線が右折レーンとなっている大型の交差点では、交差点内で白線が消えてなくなる(ので、車線を認識しづらくなる)のに、隣で右折する車両との間合いを上手にはかりながら右折を完了した。車線変更もスムースで、急な動きや危なっかしいシーンは一切なかった。
路上駐車の車両がランダムに並ぶ一方通行路の制限速度は30km/hだ。歩道に人が歩いているビジネスと観光のエリアなので、物陰からいつ人が出てくるかわからない。先行車がいなくても、とても制限速度までスピードを出す気にならないが、それは次世代プロパイロット開発試作車も同じだった。物陰を気にしながら走る様子がクルマの動きから伝わってくる。横断歩道の手前では一段減速。「かもしれない運転」をしていることがクルマの動きから伝わってくるので、安心して乗っていられる。




「ほほぅ」とうなったのは、左側で路上駐車をしているクルマの列から荷物を載せた台車を押す人が車道側に出てきたときだ。開発試作車はスッとステアリングを右に切って進路を右にずらした。右の路肩側を正面から自転車が迫ってくるときは、左に少し進路をずらした。自分でもおそらくそうするだろうという操作を、開発試作車はしてくれる。一本調子な走りはしない。

試乗前、飯島氏は「熟練したドライバーが経験に基づき、あらゆる可能性を予測して『かもしれない運転』をします」と説明してくれたが、誇張でもなんでもなく、開発試作車に対する筆者の感想そのものである。2027年度中に日産の市販車に搭載され、普及していくと、移動の概念が変わるだろう。クルマを利用する人はただ、目的地をセットすればいい。もちろん、主体的に運転したいときはすればいい。クルマで移動する際の選択の幅が広がるし、クルマでの移動に対する心理的なハードルが低くなる。
「市街地でも熟練ドライバーのような的確な運転支援ができる」ことがわかった今となっては、一刻も早く「出してほしい」と願う気持ちでいっぱいだ。

