
9月13日からの3連休に開催された「アリオ上田特別な3Dya’s 昭和平成名車展示会」の初日を取材させていただいた。当日の模様は過去の記事で紹介したとおりだが、その中で会場である長野県上田市のアリオ上田まで神戸から自走で参加された高齢オーナーのことに触れた。ここで改めてオーナーとケンメリ4ドア、俗称ヨンメリのことを紹介したい。

会場を見回していて驚いたのが「神戸」ナンバーのケンメリが展示されていたこと。都内からでも3時間はかかる長野県上田市の会場まで、はるか遠い兵庫県から参加されたのかと感心してしまった。とはいえ、ケンメリの状態を見れば、突拍子もないことではないと思える。まず車高。ケンメリなどの古いスカイラインは極端に車高を落としている例が多い。だが、このケンメリはほぼノーマルの車高に思える。しかもホイールはGT-X純正だった新車時のアルミホイールで、タイヤサイズも185/65R14とワイドではない。これなら長距離を運転しても疲れないことだろうと思った。

そこでオーナーを探していると、近くの椅子に腰掛けている人物が「私のですよ」と答えてくれた。そのオーナーこそ、78歳の鷲尾勉さん。「もしや自走ではないですよね?」と質問すれば「途中で1泊しましたけど自走ですよ」と笑顔で返された。これは驚きで、昨今は高齢者の免許返納が話題になることが多い。もちろん国産旧車を取材していると高確率で高齢オーナーに当たる。だが、一般に思われるほど高齢の旧車オーナーの運転に不安はない。というのも多くの場合でマニュアル車を長年運転されてきて、認知や反射速度こそ若い頃のようにはならないが、その技量は確かな場合であることがほとんど。それに一説によると高齢者でも運転を続けている人は、免許返納した人に比べて認知症になる例が少ないとか。

若さを保つのにマニュアル車の運転が貢献することを取材を通して感じることが多い。高齢者による事故の多くがアクセルとブレーキの踏み間違えである。それなら踏み間違えようのないマニュアル車を運転してもらえばいいのではないだろうか。つい脱線してしまったが、取材のお願いに快諾していただいたので、撮影中にアンケート用紙へ記入してもらった。一通りの撮影を終えてアンケート用紙を見れば、なんともしっかりした筆圧で字が綺麗。筆者が話を聞きながら書き加えた字より余程読みやすい。これなら運転に問題があるわけもないだろう。

鷲見さんがこのケンメリに乗り始めたのは2020年ごろとのこと。比較的最近のことで旧車価格、特にハコスカやケンメリの価格が高騰した時期ではないかと思いきや、それほどの金額ではなかったとのこと。というのも、見つかったのが四国にある中古車販売店だったことも関係しているだろう。それに長い期間、車検を切らして保管されていた、いわゆる「納屋物件」だったそうで塗装などは相応に傷んだ状態だった。

鷲見さんはケンメリ以外にも複数の旧車を所有されている。ガゼールRSやプリンス時代のスカイラインGT-A、ブルーバードUのほかマスタングまで所有して楽しまれている。ではなぜケンメリを選んだのかと聞けば「若い頃に乗っていました。やはりスタイルが好きで、この物件を見つけたときは懐かしさでいっぱいになりました」。しかもこのケンメリは4ドアセダン。鷲見さんは2ドアハードトップよりセダンが好みだそうだ。

納屋物件だったので走行距離は購入時に4.6万キロでしかなかった。だが前述のように塗装が良くない。そこで入手後に全塗装を施すことにされた。全塗装と言ってもいろいろなやり方があるが、旧車を何台も楽しまれている鷲宮さんだから手を抜くことは許さなかった。ガラスをすべて外して古い塗装を剥がす際に剥離剤を使わないよう頼んだのだ。ガラスを装着したままだと、どうしても古い塗装が残り色の違いやサビの原因になることがある。さらに剥離剤を使うと元の鉄板を攻撃してしまい、やはりサビの原因になる。手間もお金もかかるが職人の手作業で古い塗装を剥がしてから全塗装されたのだ。

ハコスカやケンメリは人気車ゆえに恵まれている。通常、国産旧車でガラスを外すとボディとの間に使うウエザーストリップが入手できず、再使用したり似た形状の他車用を流用することになる。だがハコスカ・ケンメリだと需要が多いため今でも生産している業者が複数存在する。だからガラスをはめ込む時にも新品のウエザーストリップが使えるのだ。またエンジン関係にも手を入れている。ヒーターパイプを新品に交換して、純正クーラーのコンプレッサーも交換している。さらにオルタネーターを新しいIC式に変更しつつ、燃料ポンプのオーバーホールやキャブレターのフロートを交換するなどして通常の走行に支障ないコンディションとしたのだ。

ところがエンジン本体はオーバーホールされていない。というのも入手時の走行距離がわずか4.6万キロでしかなかったから。前述の処置を施してから現在まで2.1万キロの距離を走ったが、トラブルとは無縁。6万キロ台なのだから、まだまだ持ちそうだ。しかもキャブレターをソレックスに変更したせずノーマルのままだから、オーバーホールの必要性を感じられないのだろう。実は最近とあるショップへ取材に行った際、同じような1オーナーもののケンメリ、しかも4ドアを見る機会があった。昔からの憧れでキャブを3連ソレックスに変更して車高調サスペンションにしてある。すると真夏は燃料が気化してしまい薄くなるパーコレーションを起こしてしまい、乗りたくても乗れないという。燃料系を電磁ポンプにするなど解決策はあるが、そこまではしたくないということでショップに置かれたまま。乗り方や楽しみ方は人それぞれだが、カスタムを施すとどこかに皺寄せがくる。ノーマルで維持する大切さを感じた取材となった。
