クラウン70周年を記念して、クラウンオリジナルの水素焙煎コーヒーが誕生
トヨタの「クラウン」とUCC上島珈琲(UCC)が、「水素」という共通のキーワードを軸に新たなコラボレーションを実現した。クラウン誕生70周年を記念して開発されたこのプロジェクトでは、UCCが世界で初めて実用化した大型水素焙煎機を用い、16代目クラウンの4モデル(セダン、クロスオーバー、スポーツ、エステート)、それぞれの個性を味覚で表現したオリジナルコーヒーが誕生。クルマとコーヒーという一見無縁の領域を結びつけたのは、カーボンニュートラル社会の実現に向けた共通の理念、そして「革新と挑戦」という両社の企業精神である。

この取り組みは、単なる製品タイアップではない。UCCにとっては、焙煎工程におけるCO2排出量をゼロにするサステナブルな取り組みであると同時に、水素焙煎による精密な火加減制御によって新しい味覚体験を創出する挑戦でもあった。一方、トヨタにとっては、燃料電池車(FCEV)などを通じて推進してきた「つくる・運ぶ・使う」という水素社会の構想を、より身近に感じてもらうための新たなアプローチとなる。両社が掲げた共通テーマは「乗り心地=飲み心地」。クルマが生み出す上質な感触を、コーヒーの風味と余韻で表現するという発想だ。

開発は約1年をかけて進められた。まず、トヨタの開発チームがUCCからコーヒーの基礎と焙煎理論を学び、UCCの開発者たちは逆にトヨタの研究施設「トヨタテクニカルセンター下山」で4車種すべてを試乗。加速時のGのかかり方、静粛性、空間の印象といった「乗り心地」を体感し、それを「香りの華やかさ」と「味わいの余韻」という軸で可視化した。そして試作を重ねるたびに両社がテイスティングを行い、最終的に4種のブレンドが完成した。
ベースとなるコーヒー豆は、クラウンの物語性に共鳴する3か国から選ばれている。コーヒー発祥の地エチオピアは「おもてなしと伝統」、世界最大の生産国であるブラジルは「親しみやすさと普遍性」、そして多様な品種や加工法に取り組む姿勢が注目されているというコロンビアは「多様性と挑戦」を象徴する。それぞれの豆を水素焙煎によって丁寧に仕上げ、4モデルの世界観を味で描き分けた。
セダンはエチオピアとコロンビアの調和により、伝統と革新を併せ持つ落ち着いた風味に。クロスオーバーは同じ豆を配合比を変えて使い、上質さと華やかさを両立させた味に。スポーツはエチオピアとブラジルを組み合わせ、軽やかでエモーショナルな印象を持たせた。そしてエステートはセダンとスポーツのブレンドを基調に、どっしりとした安定感と解放感を一杯の中に共存させている。
UCCが開発した大型水素焙煎機「ハイドロマスター」は、2025年4月に静岡県富士市の工場で稼働を開始した世界初の設備だ。焙煎工程でCO2を一切排出しないという環境面でのメリットがあるのはもちろんだが、ガスに比べて火加減の制御が格段に精密で、温度カーブを繊細にコントロールができるから、豆が持つ香りや甘味、酸味を自在に引き出すことが可能なのが特徴。この技術が、クラウンの4モデルに共通する“上質な静けさと緻密な味わい”を見事に再現する鍵となった。

クラウンは1955年に誕生して以来、70年にわたって日本のモータリゼーションを牽引してきた。その節目となる16代目では、セダンの伝統を引き継ぎながらも、クロスオーバー、スポーツ、エステートといった多様なボディを展開し、固定観念を打ち破る「新しいクラウン像」を打ち出している。この多様性こそ、今回のコーヒー開発の着想源でもある。各モデルに共通する“クラウンネス”──静粛性、上質感、走りの滑らかさ──は、コーヒーで言えば香りの立ち方や余韻の持続として再構築された。
クラウン セダン Z”THE 70th”(燃料電池車)
クラウン クロスオーバー RS”THE 70th”
クラウン エステート Z
クラウン クロスオーバー RS Z”THE 70th”
今回の発表イベントでは、4種類のコーヒーを試飲することができた。まず、共通して言えることは、“美味しい”ということ(笑)。そしてひと口ずつ飲み比べてみると、なるほど、確かにそれぞれのコーヒーで味わいがしっかりと個性づけされている。「セダンブレンド」はまさに王道、落ち着いた風味で飲みやすい。「クロスオーバーブレンド」は柔らかさの中にもキレがある。「エステートブレンド」は、穏やかで深みを感じられる。「スポーツブレンド」は華やかで香味が際立つ、といった趣。豆と焙煎によって、しっかりとキャラクターが表現されているのには驚かされた。

開発を担当したUCCコーヒーアカデミー専任講師の土井克朗氏は、「クラウンの“乗り心地”をコーヒーの“飲み心地”に落とし込むのは、自分にとっても初の挑戦でした。トヨタの開発陣のみなさまの説明や試乗で得た感覚が、焙煎設計の大きなヒントになりました。単に味をつくるのではなく、走りの感触やクルマづくりの哲学をどう味覚で伝えるかを考えました。香りの立ち上がりや余韻の広がりで、加速感や静けさを感じてもらえるよう意識しました」と語る。

トヨタとUCCの両社にとって、今回のプロジェクトの大きな目的のひとつは、水素エネルギーの普及と認知度向上である。トヨタでクラウンのチーフエンジニアを務める清水竜太郎氏は「まだまだ水素の認知が足りていないという中、水素社会を実現するには仲間づくりが大変重要となります」「一般の方々に対して食を通じて、『水素ってこんなにすごくてコーヒーの味が変わるんだ』ということで水素の価値をお伝えできれば非常に良いですね」と語り、自動車以外の分野との連携の重要性を強調した。
UCCの里見陵氏も「水素焙煎コーヒーを通じて、水素を身近に感じやすいものとして伝えられる。もっと仲間づくりをしていきたい」と延べ、日本の「ものづくり」企業が連携することで生まれる新たな価値の可能性を示した。


車内で味わうコーヒーが、単なる飲料ではなく、乗る人の感性を広げる体験へと変わる…このプロジェクトは、そんな新しい顧客体験を創出する試みでもある。完成した「クラウン水素焙煎コーヒー」は、10月7日より全国6店舗のクラウン専門店「THE CROWN」で順次提供・販売が開始されている。内容量は各200g(豆)、価格は3510円(税込)。
美味しいコーヒーを飲みながら、水素のことについてちょっと頭を巡らせてみる。そんなひとときを体験してみてはいかがだろうか。





