1966年式プリンス・グロリア・スーパー6。

行楽の秋は連休が多い。9月から11月の間は毎月必ず連休があり、夏休み以上に旅行やレジャーを楽しむ人が多いことだろう。秋の連休第一弾となる9月13日から15日は、関東や関西地方を中心にまだまだ暑かった。実に30度以上の高温が続き、まさに酷暑を絵に描いたような日々。ところが今回紹介するイベント「アリオ上田特別な3Day’s 昭和平成名車展示会」が開催された長野県上田市は、30度を超えることのない気温でまさにイベント日和。しかも関東では雨だった空模様も曇りが続き、直射日光まで避けられた。

フラットデッキスタイルと局面ガラスを多用した豪華なデザイン。

旧車イベントは暑さとの戦いで、実際7月8月に開催されることは北海道以外だと少ない。ところが9月や10月になると状況は一変して、毎週各地でイベントが開催される。その立役者でもあるのが昭和平成名車展示会をバックアップした日本旧軽車会。代表の吉崎 勝さんがイベントへ熱心に注力してくれるため、多い月だと2回もイベントが開催される。それだけにエントリーする旧車も数多く、会場によっては特定の車種が集中することがないので見学するだけでも楽しめるのが特徴だ。

ここまで彫りの深いデザインのグリルやライトケースは他に例がない。

アリオ上田で開催された昭和平成名車展示会の初日は国産旧車を対象としていた。イベント名の通りで参加可能なのは50年代から平成までと幅広い。そのため各世代が楽しめるクルマが集まってくることも特徴。バブル期の名車があれば、昭和30年代や40年代の希少モデルを同じ会場で見ることができる。今回は会場の中でも一際目を引いたプリンス時代の名車であるグロリア・スーパー6を紹介しよう。

尖った形状のフェンダーミラーは、その後廃止されてしまう。

当時はまだ日産自動車と吸収合併する前で、プリンス自動車工業が独立メーカーだった。当時のプリンスは高い技術力で知られ、他メーカーとは一線を画す存在だった。というのも戦後に設立された当時はガソリン不足から電気自動車メーターとしてスタート。東京電気自動車という名称で、エンジニアは立川飛行機出身者が名を連ねた。その後ガソリンエンジンによる自動車生産に乗り出し旧中島飛行機をルーツにもつ富士精密工業と合併する。

ガーニッシュやバンパー上のオーバーライダーなど凝ったデザイン。

1952年にはプリンスセダンAISH型を発売する。この年は当時の皇太子明仁親王が立太子礼を行うことに由来してプリンスを名乗った。その後、社名もプリンス自動車工業へ変更された経緯をもつ。このプリンスセダンは後にスカイラインへと受け継がれ、初代スカイラインの1900ccモデルとして初代グロリアが誕生する。この当時は小型車、いわゆる5ナンバー車が排気量を1500cc以下に規定されていてスカイラインは小型車扱いに、1900エンジンのグロリアは3ナンバー車になる。そして国産車初の3ナンバー車がグロリアでもあった。

国産車初となる直列6気筒SOHCエンジン。

いかにグロリアがスペシャルな存在だったかを示すエピソードだが、1960年には5ナンバー枠が排気量2リッター以下へ変更された。このことでグロリアの敷居が若干低くなったものの、その地位は不動のまま2代目へモデルチェンジする。それが今回紹介するS4グロリアで、62年に発売された当初は従来型から継承した1900cc4気筒エンジンを採用していた。しかし翌年、国産初の直列6気筒SOHCエンジンを搭載するスーパー6がラインナップに加わる。

クーラーがしっかり使えるようにメンテナンスされている。

この6気筒SOHCエンジンを積むスーパー6をベースに排気量を2.5リッターに拡大した上で、ホイールベースを延長した3ナンバー車のグランドグロリアも追加されている。これをベースにした特捜車が宮内庁へ納入されたことも有名なエピソードだ。このように国産乗用車のトップに君臨したグロリア・スーパー6は、いまだに人気が高く国産旧車の中でも特別な存在。今回紹介するスーパー6のオーナーである石塚浩司さんも他車にはない佇まいと存在感に満足している一人だ。

豪華なスタイルに負けない風情のインテリア。

石塚さんはこれまで三菱デボネア、日産プリンス時代のグロリア、いわゆるタテグロと国産旧車の高級車を乗り継いできた。いわゆる高級車好きな人であり、とはいえ国産であることにこだわってもいる。選ぶのは70年代までのモデルに限られていて、80年代になると興味はないという。しかも1台のクルマに長く乗ることも石塚さんの特徴でデボネアには15年、タテグロにも8年ほど乗られてきた。

スピードメーターには各ギアの守備範囲が書かれている。

タテグロに乗っていた2019年のこと。インターネットで検索を続けていたところ、意中のクルマを見つけてしまう。それが現車であるグロリア・スーパー6。長年フラットデッキのS4グロリアに乗りたいとは思ってきたものの、思ったような売り物と巡り会えなかった。さすがに残存数が少なく、所有しているオーナーは高齢になってもなかなか手放さない傾向にあるからだろう。だから見つけた時は一念発起して住んでいる茨城県から大阪府まで駆けつけたという。

クーラーの吊り下げ式ユニットは当時のものを使っている。

実際に見たグロリアは最高のコンディション。しかも明るいブルーメタリックのボディに再メッキしてあるバンパー類が光り輝き、特徴である西陣織のシートに破れがない。白く細いステアリングも割れてしまうケースが多いのだが、こちらも無傷。相場はあってないようなもので、コンディションにより中古車価格はピンからキリまで。とはいえ決して安い金額では買えないモデルであり、提示された金額に納得した上で購入された。それから数年経つものの「これ以上の存在はありません」と乗り換える気が起きないという。

西陣織のシートは奇跡的に破れていないコンディションを保つ。

コンディションの良さは内外装だけでなく機関系についても当てはまる。この日も茨城県から長野県まで遠征されたわけで、各地のイベントへ積極的に足を運ばれている。なのに購入以降トラブルは皆無。しかも酷暑でもしっかり室内を冷やしてくれるクーラーが現役で稼働するよう、しっかりメンテナンスを施されている。いわば国産最上級モデルでもあるS4グロリア・スーパー6なのだから、何かに我慢して乗るのではなく最良のコンディションで維持したいもの。その点、石塚さんはしっかりと手間ひまかけて維持されている。所有しているだけでも楽しめるクルマではあるが、やはり走らせて楽しめるのが一番だと感じられた。