1970年式ダイハツ・フェローバギィ。

長野県上田市で開催された「アリオ上田特別な3Day’s 昭和平成名車展示会」の会場に展示された旧車は、数こそ多くないものの粒揃いな内容だった。というのも、超絶的な希少車であるフェローバギィの姿を見つけてしまったから。そもそもダイハツ・フェロー自体の残存数が少なく、旧車イベントでも見かけることは少ない。それなのに、フェローをベースにしたバギーが存在すること自体、ご存じない人も多いのではないだろうか。その希少車が展示されていたのだから、オーナーから話を聞かないわけにはいかない。

こちらがベースになったフェローピックアップ。

フェローバギィは1968年の東京モーターショーにプロトタイプとして展示されて好評だったことを受け、1970年4月に市販が開始された。当時の発表では「当初は東北・北海道を除く全国100台の限定市販」とされ、さらなる量産も期待されたものの、100台を販売すると生産を終了してしまった。つまり100台しか存在しない希少車なわけで、クルマの性格上そのすべてが現存しているとは考えられない。おそらく全国探しても二桁残っているかどうかというレベルではないだろうか。

特異なスタイルのボディはFRP製。

フェローバギィはフェローピックアップのシャーシにビーチバギー風のFRPボディを組み合わせたもの。このボディはバスタブ風の作りであり、例えば海に入った姿のままでも乗り込めるようにされていた。また軽量さも特筆できる点で、車両重量はわずかに440キロでしかない。エンジンは水冷2ストローク2気筒のZL型で26psの最高出力を発生するから、走行性能に不足はない。だが、ベースのフェローがFR方式でありフェローバギィもそのままであったため、砂浜などの不整地での走破性は決して高くはなかった。

ホロは過去に張り直されたものと思われる。黄色いチェーンが転落防止になる。
シンプル極まりないインテリア。

長く国産旧車を取材してきたが、フェローバギィを取材したのは過去に3度ほどあるだけなので、会場で見つけた時には飛び上がらんばかりにうれしくなった。近くにいたオーナーに話しかけると、やはり希少性から選んだそうだ。オーナーである瀬川良樹さんは76歳になる収集家で、希少な戦前のダットサン17型セダンを筆頭に18台もコレクションしている。また4輪だけでなくホンダの2輪であるモンキーは60台前後(!)ものコレクションを誇る。360cc時代の軽自動車であるサブロクに興味があるわけでもない瀬川さんがフェローバギィを選んだのも希少性の高さゆえ。

法規上運転席にだけヘッドレストが必要になる。

瀬川さんが旧車専門誌を見ていると、とあるショップの広告にフェローバギィが掲載されていた。価格はASKとなっているものの「これを逃したら2度とチャンスはないだろう」と考え、即座にショップまで電話されたそうだ。それが2019年のことで、その場で購入することを決めてしまったというから、実物を見ることすらせず即決されてしまったわけである。

フロントウインドーが可倒式なのでボンネットにゴムが装着される。

買った時から何もカスタムや修理などはしていないそうで、納車前に販売店でしっかりメンテナンスを施してくれた。そのため今までトラブルらしいことはなく、と言っても頻繁に乗るわけではなく調子を維持する程度に乗っている程度のためイベント会場まで自走で参加されている。おそらく形は残っていても自走可能なフェローバギィはごくわずかだろうから、それだけでも価値がある。

エンジンはフェローと同じ水冷2気筒2ストローク。

360cc時代の軽自動車を維持するのは、人気車であれば比較的楽だがフェローなどの希少車だと補修部品を見つけることさえ大変なので困難なもの。実際筆者も三菱製のサブロク希少車を所有しているが、ここ1年半ほどはブレーキのトラブルで動かせない状態が続いている。それほど部品の入手が大変なわけだが、瀬川さんのように信頼できるショップからメンテナンスを受けた個体を購入すると意外にも困らないものなのだろう。

右リヤタイヤの近くにマフラーが配置されている。

とはいえ、戦前のダットサンを維持することに比べたら楽なのかもしれない。手のかかるダットサンなどを18台も所有されているのだから、旧車に関しては大ベテランの瀬川さん。このフェローバギィも良いオーナーに巡り会えたと喜んでいるのではないだろうか。

バギィを名乗るものの駆動方式はFR方式なので不整地での走破性は高くない。