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自衛隊新戦力図鑑

数百トンの物資を輸送可能

海上輸送群は、現在2種類の輸送艦を運用している。ひとつがLSV(または中型級船舶)と呼ばれているタイプで、もうひとつがLCU(または小型級船舶)だ。今回進水した「あまつそら」はLCUであり、全長約80m・基準排水量2400トンの船体に、数百トンの物資輸送能力を持っている。

今年開催の統合訓練(JX25)にて、貨物倉にコンテナを積んで輸送にあたる同型艦「にほんばれ」(写真/陸上自衛隊西部方面隊Xより)

船体の前方から中央にかけて、広い貨物倉(車両甲板)が設けられており、ここに車両やコンテナなどを積載する。荷物の積載・陸揚げにはクレーンなども用いるが、一番の特徴は冒頭でも述べた「ビーチング」能力だ。

LCUとしては既に今年4月に一番艦「にほんばれ」が就役しており、「あまつそら」は2番艦となる。海上輸送群は陸海共同部隊だが、その多くが陸上自衛官で占められており、事実上の「陸自の輸送艦」だ(写真/防衛装備庁Xより)

港が無くても車両や物資を陸揚げできる

ビーチングとは、文字通り船をビーチ(海岸)に乗り上げること。このとき、船首から通路(ランプウェイ)を展開させることで、車両や人員を自走で上陸させることができる。また、海岸だけでなく、岸壁にランプウェイを渡すこともできる。「あまつそら」の場合、艦首が観音開きになる構造となっており、ここからランプウェイを展開する。こうした構造と、小柄な船体により、「あまつそら」は港湾施設が充分でない小さな島々にも物資を輸送することができる。

艦首を開いた同型艦「にほんばれ」。中に見えるのがランプウェイ。これを海岸に展開して、車両や人員の通路にする(写真/ふにに)

筆者は東日本大震災のとき、アメリカ軍に同行して被災地のひとつ、気仙沼大島に入った経験がある。この島は津波により主要港周辺に大きな被害を受け、船舶輸送が困難となっていたのだが、アメリカ軍はビーチング能力のある上陸艇を小さな漁港に接岸させることで、ブルドーザーなどの重機と人員を運び込んでいた。

東日本大震災(2011年)に気仙沼大島に上陸したアメリカ軍のLCU(小型揚陸艇)。ランプウェイを小さな漁港の岸壁に下ろし、車両や部隊を上陸させた。海底に瓦礫が散乱している可能性があったが、ビーチングのため底が浅く平らなLCUは港に接岸できた(写真/アメリカ海兵隊)

昔は海自も持っていたビーチング輸送艦

実は、海上自衛隊も以前は「あつみ」型(基準排水量1480~1550トン)や「みうら」型(同2000トン)など、ビーチング方式の輸送艦を保有していたが、現在は、ビーチング能力のない大型輸送艦「おおすみ」型(同8900トン)を導入している。「おおすみ」型は、内部に搭載したエアクッション艇(LCAC)で物資を陸揚げする。

2000年の三宅島噴火にともなう災害救援のため、同島の海岸にビーチングする海上自衛隊の輸送艦(写真/防衛省および陸上自衛隊第1師団)

単純な揚陸能力で言えば、ビーチング方式よりもエアクッション艇のほうが優れている。ビーチングが浅瀬や平坦な海岸に限定されるのに対して、エアクッション艇はより多くの地形に対応できるし、揚陸にかかる時間もはるかに少なく手軽だ。また、ビーチング方式の船は特殊な船体構造のため外洋航行能力が悪く、速度も低い。「では、おおすみ型の数を増やせばいいのでは?」と思うかもしれないが、艦艇乗員のなり手不足が深刻な海上自衛隊には難しいのが現実だ。

「おおすみ」型輸送艦とエアクッション艇。「おおすみ」型は艦内に2隻のエアクッション艇を搭載できる(写真/海上自衛隊)

島嶼防衛を支える輸送力の増強が求められるなかで、「あまつそら」のような中・小型の輸送艦を整備する海上輸送群は数の少ない大型輸送艦で担いきれない役割を補完する存在となるだろう。海上輸送群では、今後より機動性の高い「機動舟艇」の導入も予定しており、多様な任務に柔軟に対応できるこれら艦艇は島嶼防衛を支える柱となることが期待されている。「あまつそら」は、来年3月の就役を予定している。

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