
10月19日に埼玉県川島町役場で開催された5回目となる「CAR FESTIVAL IN KAWAJIMA」。小雨の降る生憎の天気だったが、エントリーは350台に上り一般の来場者も大勢集まる大人気イベントだ。町役場とはいえ周囲には武道館や体育館、図書館やコミュニティセンターなどが集約する場所であり、敷地面積は広大。そのため350台もの旧車が並んでも余裕を持って見物することができるのだ。

広い会場には1950年代から2000年前後までと、幅広い年式のクルマが展示されたことも特徴。そのため旧車と呼ばれる古いキャブレター時代のモデルだけでなく、ネオクラシックカーなども散見された。年式を幅広く設定したことで、来場者が高齢者ばかりということはなく老若男女で大いに賑わった。これだけの規模なので展示されたクルマには珍しいモデルも多く含まれた。今回はスバルR-2を紹介してみたい。

スバルR-2といえば特別珍しいクルマではないと思われるだろう。ところが展示されていたのは珍しい商用車のバン。スバルR-2が発売されたのは1969年のことであり、バンはその翌年に追加された。すでに当時の日本は高度経済成長の真っ只中。庶民の志向も軽自動車から1リッター前後の大衆車へと移っており、ライトバンについても同様の傾向があった。昭和の時代にライトバンといえば個人商店などに人気で平日は仕事の足に、休日には行楽にという使われ方が多かった。だから70年代に向けてライトバン人気は軽自動車から大衆車モデルへと移り変わりゆく時期でもあった。

そのためだろうか、スバルR-2バンを見かける機会はとても少ない。旧車イベントに足を向けても1台見かければいいほうで、展示されていない場合が多いくらい。ところがこの日はスバル360のバンであるカスタムとR-2バンが並ぶという、なかなかレアな光景が見られた。

R-2バンのオーナーは60歳になる狩野信彦さん。手に入れたのは今から25年ほど前のことだが、それより前からこのクルマのことは知っていた。というのも前オーナーが知り合いで、乗らなくなったものの30年もの間車検を受け続けてきたという経緯をもつ。だから「乗らないのなら譲ってほしい」と、それこそ30数年前から声をかけ続けてきたのだ。

乗らないけれど車検は受け続ける。これは前オーナーが新車で購入した思い出のクルマだからこその処遇だろう。2ストエンジンでクーラーすらない軽自動車だから、すでに当時現役のクルマから見れば古臭くて走らないし快適でもないといった認識のはず。けれど新車で買った時の喜びや納車されてからの思い出などが複雑に絡み合い、手放すことまで踏み切れなかったものと考えられる。

ところがある時、いつものようにダメ元で声をかけると、思わぬ返事をいただく。ついに譲ってもらえることになったのだ。しかも車検が残った状態だったので、そのまま自走で自宅まで運んだという。それが今から25年ほど前のことで、入手されてからすぐ、スバル360に乗る人から誘われて旧車イベントに参加してみることにされた。

結果的にイベントへ参加したことが良かったようで、今のようにインターネットが普及していない頃だからR-2に関する情報は同じオーナー同士やクラブ間で共有されるのが一般的。イベントに参加すれば同好の士と知り合うことにもなり、部品や整備情報などがもたらされることになる。

実は狩野さんが入手してから、車検が切れるとしばらく乗らずにいた。敷地内で走らせる程度で満足していたのだという。入手されたきっかけは知り合いが所有していただけでなく、珍しいバンだったから。つまり走りを楽しむというより希少性や可愛らしいルックスを楽しむだけなので、車検がなくても構わなかったのだ。

だが、再び車検を取得して乗り出してみると、やはり楽しい。イベントに参加するだけでなく近所を散歩する感覚で楽しまれるようになった。そのためお住まいの群馬県から出ることはほぼなく、この日は埼玉県とはいえ群馬県とは川を隔てた程度の距離であるため参加されたのだという。25年間で走った距離はそれほど多くなく、そのためもあってかトラブルとは無縁。やはり履歴のハッキリした個体は状態が良いまま維持されていることが多いという証でもあるだろう。

