見た目は凛々しく、中身も大幅進化! 電動パーキングブレーキ採用がうれしい

トヨタ・アクアが一部改良を実施したことは、顔を見ればわかる。プリウス的になったようにも見えるし、未来的、先進的になったようにも見える。「心地いいほうへ、いこう。」篇と題されたTVCMは宇宙をイメージさせる幻想的なムードだ。アクアといえばカラフルなボディカラーの印象が強いが、一部改良版のアクアはシルバーメタリックがイメージカラー。そこにも従来とは違うという強い意志を感じる。

9月1日に一部改良を実施したトヨタ・アクア。ハンマーヘッド顔に変貌を遂げた。

新しいアクアを運転してみたところ、歴代アクアとの遭遇率が高いのに今さらながら驚いた。片側3車線の高速道路を走っているときなど、視界に何台アクアがいたことか。パーキングエリアに入ればそこかしこにアクア。一般道を走れば何台ものアクアとすれ違う。そんなとき、「僕のはあなたのアクアとは違って最新だよ」と、ちょっと胸を張りたい気分になる(まぁ、自分のクルマではないのだけれど)。

リヤビューでは、ピアノブラック塗装のバックドアガーニッシュの追加が目新しい。

顔が違うので、「ほらね」ってな具合だ。Zグレード(撮影車)を選択すると左右のヘッドライトをつなぐセンターランプが標準装備される。夜間に(あるいはトンネルの中で)これが点灯すると、未来感、先進感、最新のクルマ感の主張がいっそう強まる仕掛けだ。先行車のルームミラーに対するアピール度がアップしているかも?

左右のヘッドランプをつなぐセンターランプは、最上級の「Z」グレードに標準装備。

エクステリアの先進感に合わせ、インテリアにも手が入っている。汚れが気になるからと敬遠される傾向にあるのを承知で、ライトグレーの合成皮革+柄ファブリックシート表皮のシートをあえて設定したのだそう(パッケージオプション)。アクアといえばトヨタのなかでハイブリッド車のエントリーモデル的な位置付けだが、エクステリアとインテリアを見る限り、クラスが上がった印象を受ける。

メーターは7インチの液晶タイプに進化。センターディスプレイは「Z」が10.5インチ、その他グレードは8インチが標準となる。
アクアはヤリスより50mmホイールベースが長いこともあり、後席のゆとりは一枚上手の印象だ。
ライトグレーの合成皮革をオプション設定。ブラック系よりも上質な雰囲気が漂う。

では見た目だけかというとそんなことはなく、むしろ内容の充実ぶりに合わせてエクステリア&インテリアのクオリティを上げたと理解すべきだ。使い勝手&機能面では、パーキングブレーキが足踏み式から電動式(EPB)になったのが大きい。ようやくこのクラスの標準に追い付いたといういじわるな見方もできるが、便利になったのは事実である。

信号待ちなどでの停車時にブレーキペダルから足を離しても液圧が保持されるオートホールド機能はメモリー機能付きなので、いったんシステムをオフにして再びオンにしてもホールド機能を保持してくれる。システムを起動するたびにスイッチを押す必要はないし、押し忘れて思わずブレーキペダルから足を離し、ヒヤッとすることもない。すでにEPBを使い慣れている人にとってはありがたい変化点だろう。

シフトレバーの左側には、電動パーキングブレーキの操作スイッチを配置。

ブレーキについていえば、スムーズストップが標準装備とされたのも大きい。慣れている人は停止寸前にブレーキペダルをスッと抜いてカックンとならないようスムーズに停止する習慣がついていると思うが、これをクルマ側で自動的にやってくれる機能だ。普段からできている人は特段気にする必要はないし(あえてクルマに任せる必要もない)、できていない人は運転がうまくなったように感じる、かどうかはわからないが、同乗者の評判は良くなるはずである。

ハイブリッドシステムのハードウェア面での変化はない。すなわち、M15A-FXE型1.5L直列3気筒自然吸気エンジンと走行用、発電用の2モーターを組み合わせたハイブリッドシステムを搭載する。電池はバイポーラ型ニッケル水素電池で、2021年7月に発売された一部改良前のアクアが駆動用車載電池としては世界初採用だった。

M15A-FXE型1.5L直列3気筒自然吸気エンジンな最高出力91PS、最大トルク120Nmを発生。モーター最高出力59kW、最大トルク141Nmともに改良前のモデルと数字に変化はない。

初めて採用するバッテリーだったので、ある程度(壊れないように)安全を見て、マージンを取りながらしきい値を設定していたという。市場導入後、実際の使われ方を含めてさまざまな検証をした結果、過剰だとわかったマージンを削ることができた。そのぶん出し入れできるエネルギー量を増やすことができたし(燃費に効く)、出力に振ることができるようになった。

そのおかげで、一部改良版のアクアはモーターの出番が増えている。発進時にモーターのみのEV走行をする点は変わらない。そこからの粘りが違う。アクセルペダルの踏み加減にもよるが交通の流れに乗るような緩加速であれば40km/h+α程度までモーターで走り、そこで出力あるいは電力を補うためにエンジンが始動する。その頃になるとパワートレーン系のノイズよりもロードノイズが支配的になっているのでエンジン音が気にならない。ゆえにEVライクな、静粛性が高く、上質な走りが味わえる寸法だ。

モーターの出番が増えることで、走りが上質になった印象を受ける。

一部改良版アクアはパワートレーン系の制御を進化させたのに合わせ、ダンパーを再チューニング。電動パワーステアリング(EPS)のアシストモーターはブラシ付きからブラシレスに変更している。路面の凹凸やうねりをいなす乗り味も、操舵したときの手応えの質も上がっており、エクステリア&インテリアと同様にクラスが上がった印象だ。

トヨタの公式アナウンスでは謳われていないのだが、パワーステアリングがブラシレスになったり、ダンパーが再チューニングされたりと、フットワークにも改良のメスが加えられた。

細かな変更だが意外に効果が大きそうなのが、ドアミラー全開時の車幅を30mm縮小したこと(1695mmの全幅に変更はない)。鏡面を小さくしたのではなく、バイザーとミラーの隙間を詰めるなどして張り出しを抑えた。わずか30mmだが、されど30mmで、狭い場所での取り回しやすれ違いなどでありがたみを感じる変化である。

ドアミラーの形状を改めることで、ミラートゥミラーを30mm縮小。細かい改良だが、都市部ではありがたみを感じる場面も多そうだ。

先進運転支援システム系も進化している。全車速追従機能付きのレーダークルーズコントロールは、従来先行車との車間距離設定が3段階だったが、4段階に進化。より細かく車間距離を設定できるようになった。高速道路で試してみたが、車間距離の段階が細かくなったことにありがたみを感じたのに加え、先行車に追い付いたときの減速がよりスムーズになったように感じた。

聞けばカメラの性能が良くなって、より広く、遠くまで見えるようになったこと。さらに画像解析の技術が進化したことにより、より緻密に制御できるようになったという。先進運転支援システムの最新のバージョンが投入されたためで、予防安全や運転支援系に関しては最新は最良であることを実感した。

プリクラッシュセーフティはバイク検知と出会い頭の衝突回避に対応し、レーダークルーズコントロールは車間距離を4段階で設定可能となった。ロードサインアシストには転回禁止や信号機の読み取り機能が加わり、発進遅れ告知機能は信号の青変化を知らせるよう改良。さらにプロアクティブドライビングアシストは、車線内での常時操舵支援を新たに採用している。

新しいアクアについてメーカー側は「一部改良」と控え目に表現しながらも、実際のところは全方位で進化しており、見た目の変化以上に「新しくなった」感が強い。エクステリア&インテリアも、乗り味も、走りも運転支援系もクラスが上がっている。それに相変わらず、燃費が望外にいい。気にせず走って楽々と30km/L以上を記録する実力の持ち主だ。200万円台の車両価格でありながら内容は充実。新しいアクアはお買い得感満載の小さな高級車である。

グレードトヨタ・アクア Z(2WD)
全長4080mm
全幅1695mm
全高1485mm
室内長1830mm
室内幅1425mm
室内高1190mm
乗員人数(名)5
ホイールベース2600mm
最小回転半径5.2m
最低地上高140mm
車両重量1140kg
パワーユニット1.5L直列3気筒DOHC+モーター
エンジン最高出力67kW(91PS)/5500rpm
エンジン最大トルク120Nm(12.2kgm)/3800〜4800rpm
燃料(タンク容量)レギュラー(36L)
モーター型式・種類1NM・交流同期電動機
モーター最大出力59kW(80PS)
モーター最大トルク141Nm(14.4kgm)
バッテリー種類リチウムイオン電池
バッテリー容量5.0Ah
燃費(WLTCモード)33.6km/L
サスペンション前:ストラット式 後:トーションビーム式
ブレーキ前:ベンチレーテッドディスク 後:ドラム
タイヤサイズ185/65R16
価格282万4800円