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自衛隊新戦力図鑑

現代戦環境では生き残れない?

攻撃ヘリコプターはベトナム戦争(1960年代)における地上部隊支援の要請から誕生し、その後は対機甲(戦車・装甲車)戦力として、大きな役割を担ってきた。陸上自衛隊でも1981年よりアメリカ製AH-1S「コブラ」の導入を開始し、2006年からAH-64D「アパッチ」も加わり、現在合計5個の飛行隊が編成されている。

陸上自衛隊がAH-1Sの後継として導入するつもりだったAH-64Dアパッチ。費用の高騰などからわずか13機で調達打ち切りとなり、AH-1S後継問題は宙に浮いた状態が続いていた(写真/陸上自衛隊)

しかし、2022年12月決定の防衛力整備計画において「攻撃ヘリコプターの全廃」という衝撃的な方針が示された。攻撃ヘリの役割は、ドローン(多用途無人機)によって引き継がれるという。似たような動きは他国にもある。アメリカ陸軍は2024年に次期攻撃・偵察ヘリコプター計画を中止し、今年5月には攻撃ヘリ部隊の削減を発表した。また、韓国でもアパッチ追加導入計画が白紙化された。

こうした攻撃ヘリに対する逆風の背景には、ウクライナ戦争がある。この戦争ではロシア軍が投入した新鋭攻撃ヘリKa-52「アリゲーター」が、次々と撃墜された。開戦初年(2022年)に映像確認されただけでも約30機を喪失している(民間調査機関Olyxより)。強力かつ多層的な防空システムが配備された現代の戦場では、攻撃ヘリは生き残れないとの見方が広がっている。

ロシア軍の攻撃ヘリKa-52アリゲーター。2022年だけで少なくとも29機、現在までに60機以上が喪失したと見られている。この損耗については、ロシア軍パイロットの練度の低さや、ミサイル防御システムの性能の低さを指摘する声もある(写真/Ministry of Defence of the Russian Federation)

スタンドオフ攻撃能力により生存性を向上

攻撃ヘリは役立たずになってしまったのだろうか? 攻撃ヘリに新たな機能・役割を持たせようとする動きもある。アメリカ陸軍などが進める「空中発射効果体(ランチド・エフェクト、通称LE)」だ。LEとは、ざっくり言うと多様な機能(偵察、目標捕捉、攻撃など)を備えた空中発射式ドローンである。

中東地域での訓練で、LEの一種であるスパイクNLOSのランチャーを搭載したAH-64と、発射の瞬間(写真/アメリカ陸軍)

アメリカ陸軍は今年8月のポーランドでの演習で、LEの一つとされる長射程空対地ミサイル「スパイクNLOS」をアパッチから発射し、最大25km先の目標を攻撃したと発表した。既存の攻撃ヘリ搭載ミサイルの射程が10km程度であることと比較すると、その長射程が理解できる。同ミサイルは最大50kmの射程を持つとも言われる。

AH-64から発射されるスパイクNLOS。スパイクは、イスラエルのラファエル社の対戦車ミサイル・シリーズであり、NLOSは「Non Line Of Sight(非・見通し線)」を意味する。同社はさらにドローンに近い能力を備えた「L-スパイク4X」を今年10月に発表している(画像/ラファエル)

スパイクNLOSの特徴は、機首に搭載されたカメラにより母機からの一人称視点映像による誘導を可能とした点だ。これにより、直接視認できない遠方の目標も攻撃できる。ミサイルの操作はジョイスティックで行なわれ、飛行途中で目標を切り替えることや、目標を探して短時間滞空することも可能だとされており、ドローンに近い機能を持っていることがわかる。

スパイクNLOSのシミュレーターより、操作画面と操作用ジョイスティック。筆者も体験させてもらったが、データリンクによりミサイルからのリアルタイム画像が表示され、指先の操作で目標の切り替えなどを行なうことができた(写真/筆者)

長射程・多機能なLEを搭載することで、攻撃ヘリが能力を発揮する範囲を拡張し、敵に対してスタンドオフの態勢を確保することで生存性を向上させる――もともとレーダーに捉えにくい低空を飛行し、高い機動性を有する攻撃ヘリは、対地攻撃ドローン母機として適していると考えることができる。攻撃ヘリという兵器が、この先生きのこることができるのか? 大きな岐路に立っているとも言える。

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