連載

西川淳の自動車1Weekダイアリー

60歳の誕生日に

私事で恐縮ですが(というか、この新連載では今後、私事ばかりを書き連ねることになるのでそれでいいとは思うけれど)、この11月(11日、ポッキーの日)に無事還暦を迎えることができました。

実を言いますと、還暦過ぎたら仕事の軸足を他のジャンルに移してもいいかな、なんて胸に秘めつつその日を迎えていたのです。あとでも記しますが、その日はいつもと同じようにとある試乗会をこなし、いつもと同じように長距離ドライブを敢行し帰宅して、60歳の誕生日を妻とささやかに近所のイタリアンで祝いました。

そこでビビッと思いが至ったのです。この仕事、ずっと続けてこそ、未来へと繋がるんじゃないか、と……。

次から次へと新しいクルマに乗る、なんていう仕事をしていると、やっかみ半分というかジェラシーというか、「偉そうに批評して、自動車評論家ふぜいに何がわかるんだ?悔しかったらお前が良いクルマを作ってみろよ」的な批判を受けることもしばしばです。

確かにヒョーロンカふぜいです。クルマ作りの何たるかを知り尽くしている、というわけじゃない。もちろんゼロから作ったこともない(バラしたことはあるけれど)。けれどもクルマにはひと一倍乗っています。フリーランスになって26年、カーメディアの編集部員時代を含めると35年、年間200台以上はコンスタントに試乗してきました。

特に京都に越してからの15年というもの、そのうち40台以上は東京〜京都往復900km+αのテストを続けているのです。その数、累計700台以上。この経験がモノを言う。どんなクルマに乗ってもものの数分で“だいたいの良し悪し”が分かる。さらに距離と時間をこなせば、もっと分かる。感じたこと、分かったことを忌憚なく書き残す。それが私の仕事です。

もちろんメーカーの開発者だってたくさん乗ると思います。けれどもそれもいっときのことでしょう。しかも軽自動車からロールスロイスまで日本で走るほとんど全ての乗用車に30年以上乗り続けているわけです。そんな仕事、他にありますか?

あらゆるクルマに乗りまくる宣言

そこで腑に落ちたのです。還暦を迎えた私よりも年上の自動車評論家やモータージャーナリストがたくさんいらっしゃる理由が。それは何より“台数と世代という経験”に他ありません。これだけは1年でも早く始められた諸先輩方に追いつくことは余程のことでもないかぎり不可能なのです。もちろん倍のテスト数をこなせば台数では追いつくかもしれません。けれども時代性だけは何ともならない。私がこの業界に入ったのは1991年のことでしたが、1989年にデビューした日産スカイラインGT-Rの最初の生産車に遡って試乗する、なんてことはもうできないのです。

加えて、クルマにはすごい特性があります。若い人に徒競走で負けても、クルマなら負けない、少なくともタメを張れる可能性が高い。以前、歩行も困難に見えた故キャロル・シェルビーさんがコブラに乗り込んだ途端、目の色が変わってシャキッとされ勢いよく走り出された瞬間を目撃したことがあります。そういうことなのです。

というわけで、乗れば乗るほど、老いれば老いるほど、私の価値は高まっていく。こればかりはAIにも真似できない(言語化した途端にAIの餌となってしまいますが、それはもう仕方ない。元ネタになったと思えば心も晴れる)。

還暦に際しまして、これからも変わらず、古今東西ありとあらゆるクルマに乗りまくることを宣言します。免許返納なんてとんでもない。だったら免許を返礼しなくて良いようなクルマを作れ、とメーカーを叱咤激励しなきゃいけない。そしてゆくゆくはクルマを心から楽しむことのできる村を、奈良のどこか山奥にでも作って、そこで喫茶店を開きたいと思っています。この新連載では、それまでの間、私が日々どんなクルマに乗って、何を感じたのか、徒然と語っていくつもり。

さて。前置きが大変長くなりました。題して、「西川淳の自動車1Weekダイアリー」。まずは11月1日から7日までの1週間を綴ってみたいと思います。これからもどうか末長くお付き合いくださいますよう、お願いします。

2025年11月第1週

2025年11月1日(土)

氏神様(北野天満宮)へ朔日詣。無事に還暦月を迎えた御礼ののち、新幹線で東京へ。ケンオクヤマデザインにて雑誌『オクタン』協力のライフワーク「名車研究」を奥山清行さん×エンツォフェラーリと共に。この日の参加者は面白かったはず。デザインの裏話に驚きつつ、デザイナーとしての矜持にも触れることができた。この日は新幹線で日帰り。乗らずとも実り多き1日。京都(自宅)。

2025年11月2日(日)

「アストンマーティン ヴァンテージロードスター」で京都と奈良の県境へ。「S30Z」の秘密の集まりがあって、「Z432R」やクロスフローLYエンジン搭載個体など貴重なフェアレディZの数々をじっくり見学。旧知のオーナーも数名、新たな友人もできる。南山城村のカフェセブンに寄ってから富士スピードウェイへ。夜はマクラーレンのパーティで関谷正徳さんと対談。マクラーレンF1はちょっとおっかなかったらしい。富士スピードウェイホテル泊。

2025年11月3日(月)

早起きして奈良へ戻る。「ヴァンテージ」は本当によくできたGTスポーツカーでまるで疲れないし、楽しい。奈良トヨタの「まほろばミュージアム」にて話題の高市早苗スープラをはじめとする自社のレストア車に乗り込み、伊勢志摩までツーリング。「セリカLB」や「カローラ」など懐かしのトヨタ車(とダイハツ車)計6モデルを満喫。ディーラーがレストア事業に取り組み博物館まで運営する。クルマ文化事業も奈良らしい。伊勢で寿司を摘んだのち、再びアストンで千葉へ(なんと無駄な動き!)。

2025年11月4日(火)

木更津のビジネスホテルで朝を迎えると、同業の渡辺敏史さんと朝食会場でばったり。彼も同じところへ向かうと言う。行き先はマガリガワ(THE MAGARIGAWA CLUB)。「ランボルギーニ テメラリオ」の国内初試乗会だった。とりあえず1万回転まで回ることを確認。特に軽量パッケージ車が秀逸。できれば本格的なサーキットで試してみたいと広報関係者にお願いして都心へ。青山でアストン返却。その足で品川へ。「レクサスLX700h」を駆り出して京都へ走る。夜は近所の焼肉屋で地元のジャーナリスト&アナウンサー竹内弘一さんとパーティの打ち合わせ。京都泊。

2025年11月5日(水)

この日はオフ。週末のライブに備えて身体を整えるため「LX700h」で大阪市へ。途中、「Sカンパニー」さんに旧知の「ブガッティ ヴェイロン」が停めてあるのを見て整体の帰りに寄ってみようと思ったが、何せこっちはジャージ姿、しかも何かのセレモニーのようだったので遠慮する。竹岡圭ちゃんもいたらしい。やっぱり寄ればよかったなぁ。京都泊。

2025年11月6日(木)

朝から新幹線で新横浜へ。『エンジン』誌の取材で迎えにきた「アルファロメオ ジュニア イブリダ」に乗り込む。港北のカーボックスさんで「ランチア イプシロン」もピックアップ。近くの横浜国際プールを起点に「アバルト 500e」を加えた3台の撮影とテスト。詳しくはエンジン誌をぜひ。都内泊。

2025年11月7日(金)

引き続きアルファロメオで都内をぐるぐるテスト。「ジュニア」、悪くないんだけれど、僕の好きなアルファロメオかって問われると返事に困る。世の中には蛇のバッジが付いているだけで興奮してしまう人がまだいらっしゃるようだけれど、僕はまるで気分が昂らなかった。安いうちに「4C」とか手に入れておいた方が良いかもしれないと真剣に思う。ジュニアを田町で返却し、銀座ブルーリリーで友人たちに還暦を祝ってもらう。羽田近くで泊。

2025 11/1〜11/7

1週間の総走行距離約2200km、試乗台数13台

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