1980年式三菱ギャランΣエステートバン2000スーパーエステート。

排出ガス規制が年々厳しくなり国産車から高性能車やスポーティなモデルが消えつつあった70年代半ばである1976年、ギャランは3代目へ進化するフルモデルチェンジを実施する。この時からサブネームとしてΣ(シグマ)の文字が与えられ、ヨーロッパ調の新鮮なデザインが与えられた。前モデルの販売が振るわなかっただけに、Σがもたらした新鮮さは格別で、一躍にヒット車として君臨することになる。

商用車のバンから構造変更により乗用車登録としている。

乗用車のセダンに遅れること1年少々、商用車であるエステートバンもフルモデルチェンジされて同世代へと進化する。バンはセダンほどグレード展開が多くはなく1.6リッターエンジンと2リッターエンジンの2本建て。最上級モデルの2000スーパーエステートには乗用車と同じ4G52型、通称アストロンエンジンが採用された。商用車には贅沢な仕様だが、海外向けモデルはワゴンとして販売されたことも影響していたのだろう。

メッキのホイールリングが美しく輝く。

埼玉県川島町で開催された「CAR FESTIVAL IN KAWAJIMA」の模様を続けてお伝えしているが、今回の会場で最も驚いた1台を紹介したい。それがギャランΣエステートバンだ。ギャランはこの3代目から5代目までΣのサブネームを冠するが、いずれも旧車イベントの会場で目にする機会はほぼない。まれに5代目がネオクラシックカーに力を入れているイベントで目にするくらいで、3代目4代目になると皆目記憶にないほど少数派。だから今回の会場で3代目の、しかもエステートバンを見た驚きはちょっとしたものだった。

テールゲートにつくスポイラーにウッド調シールを貼った。

しかもこのエステートバンは塗装が艶やかなら内装も清潔感に溢れる程度極上と呼んでいいレベル。ぜひとも話を聞こうと近づけば、やはり希少性の高さゆえか来場者から質問攻めにされているオーナーを見つけた。所有者の東川 慎さんがこのエステートバンを見つけたのは仕事で回る営業先でのことだった。東川さんはトラックの販売会社にお勤めの営業マンで、得意先は運送会社から整備工場まで幅広い。とある日のこと、一軒の整備工場へ向かうとギャランΣエステートバンが置いてある。その場で譲ってほしいと懇願するも、あいにくの返事が返ってきた。

乗用登録するため荷室のフロアにパネルを敷いて開口高を抑えた。

そもそも東川さんがギャランΣを好きになったのは少年期に父親がコルトギャランに乗ってことに始まる。その後、母親が運転免許を取得してクルマを購入することになるが、この時に東川さんは自動車雑誌や書籍に目を通して母親へギャランΣを勧める。父親がコルトギャランの後も三菱車を乗り継いでいたことから自然と辿り着いた結論だったが、予算の関係からランサーEXになってしまったそうだ。

セダンの部品取りを手に入れ乗用車の部品を移植している。

この時から東川さんのギャランΣへの思いが続くことになる。すでに社会人となりトラック販売会社で営業マンを務めていたから、20代の半ばになっていた。そんな時に整備工場で巡り会えたのだから、何やら運命を感じる出会い。ところが整備工場の社長は何度譲ってほしいと頼まれてもウンといってくれない。気がつけば8年間も通い続けることになった。

オドメーターは5周目を突破している。

もはやダメだろうと諦めていた頃、またしても整備工場へ向かうとギャランΣの車検証ステッカーに書かれた数字から期限切れになっていることを発見。社長に頼んでみると、ようやく譲渡してもらえることになった。何しろ8年も通い続けた情熱の賜物だろう。だが、古い商用車であることで問題が発生する。東川さんの住む地域ではNOx法により古い商用車の新規登録が不可能なのだ。

センターコンソールもセダンのものだ。

そこで考えたのが商用車から乗用車へ構造変更して新規車検を取得すること。前述したようにエステートバンは海外ではワゴンとして販売されている。そのため基本的な構造は乗用車と同じであり、乗用車に求められる安全基準はそのままの状態ですでにクリアしている。唯一の問題は荷室の開口面積。テールゲートを開いた時の高さが80センチ以下でなければ乗用車として認められないのだ。

汚れやすい色調のシートも乗用車用で一度クリーニングされている。

そこで荷室のフロアに厚みのあるパネルを敷いて固定することで乗用登録が実現した。それからは仕事で回る営業にもギャランΣを使うようになり、走行距離は年間2万キロほどにも達した。それから32年間もの間、仕事にレジャーにとエステートバンを乗ってきたから走行距離は57万キロを突破した。その間にセダンの部品取り車を手に入れ乗用車の装備を移植して楽しんできたが、5年ほど前に傷んだ塗装を何とかしようと板金塗装工場へ持ち込む。すると担当してくれた人が旧車に理解のある人で、全塗装だけでなく室内などまで手直しをしてくれた。

ヘッドカバーをゴールドに再塗装した2リッターSOHCエンジン。

そのため今でも程度良好で維持できているという。古いクルマとはいえ、やはり定期的に乗ることで調子を維持できることを改めて思い知らされた。現在ではデリカスターワゴンも所有されているというからギャランΣに乗る機会は減ったそうだが、この日も荷室に積んできたピクニックテーブルを広げてご家族でイベントを楽しまれていた。家族とともにあるクルマは皆から愛されているようだ。