連載

21世紀の電池攻防戦

今後20〜30年は中国製LIBがデータセンター向けのBESSを牛耳る

データセンターは恐ろしいくらいに電力を食う。万一、系統電源が止まったときのために用意するUPSは50MWh(1メガワットアワー=100万ワットの電力を1時間供給できる能力)は当たり前だ。そのためUPSは現在、ディーゼル発電機が主流である。燃料さえあれば何時間でも連続運転できる。

ただし、今後はデータセンターの脱炭素要求で再エネ(再生可能エネルギー)発電で得た電力をBESSに貯める方法が主流になると言われている。「LFP系LIBを使うBESSがディーゼル発電機に取って代わる」と。

実際に導入されたBESSは、廃車になったBEV(バッテリー電気自動車)やPHEV(プラグイン・ハイブリッド車)から降ろしたものを使っている例が多い。クルマで走らせるほどの電池残量はないけれど定置用の予備電源としてならまだ充分に使えるというレベルのLIBだ。世界的なデータはないが、欧米ではBEVから降ろした出力密度の高いNMC(ニッケル/マンガン/コバルト)系LIBが「データセンターや工業用で70%近いシェアを占めている」との報告もある。

その、欧米のデータセンターに導入されたNMC系LIBの製造元は、韓国のLGES/SKオン/サムスンSDI、日本のパナソニック/サンヨーなどだ。つまり、中国製BEVが大量に出回る前のLIB、欧州で中国・CATLがLIB製造を始める前のLIBだと報告されている。ただし、今後はBEV/PHEVから降ろす電池は中国製が徐々に増える。クルマから降ろしてリユースするセカンドライフLIBの主流が中国製になることは間違いない。

【写真1】積載重量はおそらく8〜10トンだろう。中央の通路を除いてはLIBが積んである。容量は800kWhで、中継アンテナを7〜8時間作動させることができると言っていた。

15年ほど前、筆者が初めて中国の電池メーカーを取材したときに見て驚いたたのは電源車だった。トラックの荷台に大量のLFP系LIBが積まれていた【写真1】。超富裕層向けの移動住宅のようなバスもあった。キャビンが横に迫り出すように広がり、内部はホテルのような注文製造のバスだと聞いた【写真2】。搭載したテレビや冷暖房を動かすためにLIBを積んでいた。

【写真2】向かって右側のソファー部分は、キャビンが横方向にスライドする構造に取り付けられている。天井の模様が終わっている位置が本来のバスの車幅。

電源車の用途は携帯電話会社だった。大規模イベントが行なわれると携帯電話がつながりにくくなる。中国政府はスマートフォンを全人民の監視と「指示を送る」ための端末として使っており、携帯電話は個人情報と結び付いている(電話番号の変更はできない)から携帯が繋がらない状況はなるべく作りたくない。そこで移動式中継アンテナと電源車が必要になる。その電源車にLIBが大量に積まれていた。新品のLFP系だった。

日本は伝統的に小型家電が得意だったため、電池も小型電池が中心。性能の良い乾電池を世界でもっとも安価に提供している。パナソニックのEVOLTAをアメリカ人にあげると驚かれる。「なんでこんなに長持ちするんだ! エバレディの2倍もつじゃないか!」と。それがメイド・イン・ジャパンの乾電池である。

【写真3】第2世代iPodは2002年8月に発売され、写真の20Gハードディスク(上から2層めの青い樹脂で保護された部分)仕様は5万9800円だった。筆者は電池を自分で5回交換し、面実装部品のはんだ不良を補修し、現在でも使っている。購入時に内蔵されていた電池はSONY FUKUSHIMA製だった。

ソニーが1992年に量産を始めた半固体電解質のリチウムポリマー電池はその後、アップルの携帯用音楽プレーヤー・iPodに採用された。小型のハードディスクと、そのドライバーと、ヘッドホン出力用のアナログアンプを内蔵していた時代に、あの機械を一定時間以上まともに動かせるのはソニー製のLIBだけだった【写真3】。

家庭用電話の子機にも小型のLIBが使われ、もっとも初期のデジタル一眼レフにも18650型LIBが使われた。それらはすべてメイド・イン・ジャパンだった。まだ韓国製LIBは量産が立ち上がったばかりで、中国製は量産品と言っても問題を抱えていた。

しかし、中国がLIB製造技術をモノにするまでに、それほど時間はかからなかった。韓国は日本に倣い、中国は韓国と日本に倣った。瞬く間に中国はノートPCなどで使う18650型の大量生産に入り、続いて大型電池の領域に攻め入った。大量生産し製品単価を下げ、ライバル他社よりも多く製造する。その代わり製品のばらつきは大きい。電池メーカーはA級、B級、C級くらいの分類で価格を決め、「C級電池でいいから安く買いたい」というバイヤーの需要を満たしていた。

BESSはいまや、中国の得意分野だ。BYDオートの親会社である電池メーカーの比亜迪(BYD)は定置用UPSを大量に生産し、日本でも大々的に売り込みを行なっている。データセンター向けBESSは中国の電池メーカーにとって大きなビジネスチャンスだ。

中国の強みはLFP系にある。車載用ではNMC系のエネルギー密度の高さにも需要はあるが、定置用は「安い」「熱暴走しにくい」「充放電サイクル7000〜10000でもOK」というLFP系のメリットが生きる。同じワット数で比較するとMNC系よりはるかに重量は重たいが、定置用では重さはデメリットにならない。

今後20〜30年は中国製LIBがデータセンターやインフラ向けのBESSを牛耳るだろう。これはほぼ間違いない。同時にこのことは、BEVなど問題にならないくらい国家安全保障に対するリスクが大きい。(次ページ「絶対に国産または同盟国製のLIBでなければならない理由」)

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