ヤマハ・トリシティ125……57万2000円

2026年型トリシティ125/155のデザインのテーマは、“A Lively Crossover! in my life”。真横から見た際の逆台形シルエットは兄貴分の300に通じる要素だが、125/155はマッシブさやパワフルさを強調。

クロスオーバーテイストを導入

2025年9月から発売が始まった新しいトリシティ125/155の広報資料を見て、僕がエッ?と感じたのは、“シリーズで初めてスタイリングを刷新”という記述だった。

逆に言うなら誕生から10年が経過した現在でも、僕は先代の造形に古さを感じていなかったのである。

もっとも、従来型より持ち上がったフロントマスク、足まわりを囲うように配置された黒い樹脂製パーツ、左右幅が増してリッチな雰囲気になったテールカバー、ルーフレールを思わせるデザインのグラブバーなど、随所にクロスオーバーテイストを取り入れる一方で、NAMXから一部の灯火類を転用してヤマハらしさ強調した2026年型を前にすると、やっぱり現代的で新しいと思う。

このスタイリングなら、これまでは2輪に興味がなかった人、4輪のSUV愛好者やオシャレ系の仕事をしている人など、新しい支持層を開拓できるんじゃないだろうか。

そしてそういった新規ユーザーにとって大きな安心材料になるのが、一般的なモーターサイクルやスクーターとは異なる、フロント2輪+リア1輪の3輪構造だ。

フロント2輪に対するこだわり

1977年に制作された、パッソルベースの3輪スクーター。

歴史を振り返れば、ヤマハは昔からフロント2輪構造に熱心なメーカーで、1978年にはパッソルベースの試作3輪車を手がけているし、2007年の東京モーターショーでは4輪構造のTesseractを公開している。

2007年の東京モーターショーで注目を集めた、4輪LMWのTesseract。

もっとも、トリシティが採用したLMW:Leaning Multi Wheelは、ピアッジオが2006年から発売を開始したMP3シリーズに通じるところがあるのだけれど、衝撃の干渉にボトムリンク式ユニットを使用するMP3シリーズに対して、トリシティは片側2本ずつ、計4本のテレスコピック式フォークを採用。

そして僕個人としては、一般的なスクーターとは似て非なる乗り味のMP3シリーズとは異なり、一般的なスクーターとほとんど同様の感覚で付き合えることも、トリシティの特徴だと思う。

安心材料が盛りだくさん

今回の試乗で久しぶりにトリシティ125を走らせた僕は、このモデルが一般的なスクーターと同様の自然な操縦感と3輪車ならではの安定感を、高次元で両立していることを再認識。

パラレログラムリンクの配置は2022年型以前と同様だが、2023年以降のトリシティ125/155はタイロッドとナックルアーム、ジョイントの寸法を変更することで、LMWアッカーマンジオメトリーを採用(2022年型以前はLMWが付かないアッカーマンジオメトリー)。

ちなみに2023年型以降のトリシティ125/155は、兄貴分の300やナイケン譲りにして、ヤマハが独自に考案したLMWアッカーマンジオメトリーを採用しているので、既存のモデルと比較すると、深くバンクした際の旋回がスムーズになっている。

また、軸間距離を1350→1410mmに延長した効果で安定感が大幅に増していることも、2023年型以降の特徴である。

さらに今回の試乗で僕は今さらながらにして、フロント2輪ならではの乗り心地や良さや横風に対する強さ、フロントダブルディスクブブレーキの制動力の高さを実感。いずれにしても新規ユーザーの視点で見るなら、トリシティは安心材料が盛りだくさんなのだ。

もちろん、2輪の世界にどっぷり浸かっているいるライダーの視点で考えても、トリシティの操縦安定性は十分に魅力的である。

ただし半年ほど前に試乗した2025年型NMAX155で、YECVT(2種のエンジンモードが存在し、状況に応じて任意のシフトダウンが可能)の有意性を体感した身としては、車重がNMAXより40kgほど重いトリシティ125/155にこそ、YECVTが必要が必要なんじゃないか?……と、感じなくもなかった。

なおYECVTを導入すると、おそらく、トリシティ125の価格は60万円、155は65万円を超えるだろう。でもヤマハの最新技術を思いっ切り満喫できることを考えれば、その価格は決して高くはないように思う。

ボディカラーは2025年型と同じく、マットライトグリーン、ホワイト、マットグレーの3種。なお2025年型のトリシティの価格が125:49万5000円・155:56万6500円たったのに対して、2026年型は125:57万2000円・155:61万6000円。

ライディングポジション

フロント2輪という構造だから止むを得ないのかもしれないが、ステップフロアの前後長は一般的なスクーターより短め。そして前後に段差が設けられたシートは尻を後ろに引けないので、ライディングポジションの自由度はあまり高くない。もっともそういった印象は、筆者の大柄な体格(身長182cm・体重74kg)が原因なのかもしれない。

ディティール解説

先代と同様のY字ラインを維持するものの、複数の部品が篏合するフロントマスクは現代ならではの造形。ヘッドライトはNMAX用モジュールの転用で、ポジションランプは新作。
フロントインナーパネル右側のポケットは、ボタンを押す開くとリッド式。残念ながら、500mlサイズのペットボトルは収納不可。左側にはUSBタイプCの電源ポートが備わる。
4.2インチTFTディスプレイは、機能を中心としたスポーティなモードと、回転数に応じてバーが波打つエモーショナルなモードの2種類を準備。Yコネクトをインストールしたスマホと接続すれば、ターンバイターン式ナビの表示が可能になる。
シートの座り心地は決して悪くないものの、前後方向の自由度はほとんどナシ。770mmのシート高は、現在の125ccスクーターでは一般的な数値だ。
トランクスペース容量は23.5ℓ。なお2023年型以降の125が廃止していたLED照明が、2026年型では復活。グラブバー上部カバーを外せば、トップケースをボルトオンで装着できる。
従来は一体式だったリアの灯火類は、2025年型NMAXに準じる形で、上:テールランプ/下:リアウインカーという分割構造に変更。
 
可変バルブ機構のVVAを装備するBLUE COREエンジンは、先代の構成をそのまま踏襲。12psの最高出力や11Nmの最大トルクにも変更はない。
タイヤサイズはフロント:90/90-14・リア:130/70-13で、純正指定品はIRCが専用開発を行ったSCT-003。
ブレーキディスクは、フロント:φ220mm・リア:φ230mmで、ブレーキキャリパーは前後とも片押し式1ピストン。
 

主要諸元

認定型式/原動機打刻型式 8BJ-SEL4J/E35DE
全長/全幅/全高 1,995mm/750mm/1,215mm
シート高 770mm
軸間距離 1,410mm
最低地上高 165mm
車両重量 173kg
燃料消費率 国土交通省届出値 
定地燃費値 42.4km/L(60km/h)2名乗車時
WMTCモード値 45.4km/L(クラス1)1名乗車時
原動機種類 水冷・4ストローク・SOHC・4バルブ
気筒数配列 単気筒
総排気量 124cm3
内径×行程 52.0mm×58.7mm
圧縮比 11.2:1
最高出力 9.0kW(12ps)/8,000rpm
最大トルク 11N・m(1.1kgf・m)/6,000rpm
始動方式 セルフ式
潤滑方式 ウェットサンプ
エンジンオイル容量 1.00L
燃料タンク容量 7.2L(無鉛レギュラーガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式 フューエルインジェクション
点火方式 TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式 12V、6.0Ah(10HR)/YTZ7V
1次減速比/2次減速比 1.000/10.208
クラッチ形式 乾式、遠心、シュー
変速装置/変速方式 Vベルト式無段変速/オートマチック
変速比 2.386~0.748:無段変速
フレーム形式 アンダーボーン
キャスター/トレール 20°00′/68mm
タイヤサイズ(前/後) 90/80-14M/C 43P/130/70-13M/C 57P
制動装置形式(前/後) 油圧式ダブルディスク/油圧式シングルディスク
懸架方式(前/後) テレスコピック/ユニットスイング
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ LED/LED
乗車定員 2名