いざ故障すれば悲鳴を上げたくなるLEDランプ
今回のお話は、警察の話が主題ではないが、ここでは弊社「オプション」誌風に、警察のことを「K察」と書いて話を進める。
少し前のことになるが、夜にクルマを走らせているとき、気づかぬうちに後ろにいたパトカーに止められた。
環状8号線を谷原交差点に向かう道すじでのことである。
筆者はふだん違法行為はしていない(つもりだ)が、それでも彼らは、都内を走っているのに前橋ナンバーであるとかなんとか理由をつけちゃあ停止させ、凶器になるものがないかとクルマの中を見たがり、それを入口に、果ては免許証や車検証拝見に持っていこうとする。
いいたいことはわかるし、これも彼らの仕事だからと、最初は「どうぞどうぞ」と対応していたが、ひどいときには走っていても止まっていても月2度止められることがあり、いちいち彼らの要求に付き合っていられないので、いまは「この前も調べられたばかりなので」といって断ることにしている。
今回も「またかよ」と思いながら路肩に止めたら、まぬけにも、左のストップランプと右のライセンスプレートランプが切れていますよとのことだった。
ふだん定期的に点検しているのだが、どうもその隙をついて切れたようだ。
2人のK察官のうちの若いほうに運転席に乗ってもらい、ブレーキ踏みやスイッチ操作をしてもらったが、確かに両方とも点灯しない。
ただ、プレートランプのほうは接触不良で、手でぶったたいたらポッと点いた。
驚愕は左の赤ランプである。
テール/ストップ兼用のダブルフィラメント両方が切れていたのだからタチが悪い。
こちらはぶったたいても点灯することはなかった。
いやはや、ご指摘ごもっとも。
わざわざご親切に止めてお知らせくださいましてありがとうございましたと礼を述べた。
ただし案の定、これを「入口」にさっきの若ぇのが中を見せることを要求してきた。
ちょっと礼を述べてちゃんとした人であるように見せ(かけ)るとすぐこれだ。
「教えてくれたのはありがたいけど、それとこれとは話は別です」
ときっぱり断った。
翌日再確認したら、もっとタチが悪かった。
ストップランプだけはまた点いたのである。
ゆうべは両方点かなかったのに、一体どうなっているんだ、このクルマは。
自分のクルマのランプ交換作業
どちらにしてもこのままにしておくわけにはいかない。
後日、電球を買い込んで交換と相成った。
その一連が次の写真である。
自動車ランプのLED化の問題点
写真をずらりと並べたが、実はここまでの話は本記事のただの「入口」。
本題はここからで、いまのクルマはランプが切れても、筆者のようなことはできなくなっていることが問題だと思っている。
そう、現在広がっている自動車用ランプのLED化・・・これがどうにも納得いかないのである。
もともと自動車のランプはただの白熱球が長く続いた後、80年代半ばあたりからハロゲンガスを封入したハロゲンバルブに置き換わっていった。
大きな転換点は1996年だ。
日産自動車が乗用車用としては初めてHIDヘッドライト(日産呼称:キセノンヘッドライト)を2代目テラノの改良型に搭載して発売したのだ。
いまはご存じのとおり、LED光源が主流になっている。
LEDは「light(光を)emitting(放つ)diode(2極の端子を持つ電子素子)」を意味する。
こいつがちょっと不具合を起こすとその修復がやっかいで、ハロゲンの比ではないのだ。
自動車用ランプのLED化はまずリヤランプで始まり、その後数年を経てヘッドライトに使われ始めた。
「これまで以上に明るいのに省電力」だから発電機(オルタネーター)の仕事量を減らすことができ、ひいては発電機をまわすエンジンの仕事量が減るから「低燃費」に寄与するという触れ込みだ。
ただしヘッドライトのLED化はリヤランプよりだいぶ遅れた。
LEDは光の拡散性に難があり、ヘッドライトに使うには時期尚早だったためだ。
ヘッドライトにLEDを用いたのは2007年に発売されたレクサスLS600hで、世界初だった。
LS600hから何年か経ち、LEDランプがさらに格下のクルマの前後ランプに広がりを見せ始めた頃、筆者が懸念したのは、LEDが切れたときの補修性だった。
いまじゃあ軽自動車にまで広がっている。
高額なクルマを買えるほどの財力の持ち主にとっては高額な補修費用などものともしないだろうが、これまで数百円で済んでいた灯火類交換に、万単位の費用が軽自動車にまでかかるようになると問題視しないわけにはいかない。
不点灯を起こしても電球なら部品代は左右でも数百円、ハロゲン球でも数千円だけで済む。
販社に頼めば作業代が加わるが、悩ましい金額にはならない。
自前作業ならタダだ。
ところがLEDとなるとそうはいかない。
いまのLEDランプは複数のLED素子の集合体で、ひとつでも切れると故障扱い。
素子は基板にはんだ付けされており、不点灯を起こした素子だけ交換というわけにはいかない。
たいていは他の部分が正常であってもユニットごと交換となり、こいつの値段がべらぼうに高い。
いま売っているスカイラインが登場した頃、聞いたらライトだけで「ウン十万」とボカされたし、アルファードなんて数世代前の時点ですでに片側30万円弱である。
ただのロー/ハイ自動切り替えのシンプルタイプでもおそらく片側5万や6万はするのではないか。
テールランプだって軽自動車用でも片側2万~3万と聞く。
とにかく、不点灯を起こしたときの補修費用は、LEDはハロゲンやHIDの比ではないのである。
そしてDIYで対応するのはまず不可能だ。
いいことずくめに目がくらんではいまいか
LED自体は「半永久的に長寿命」、「省電力」で「発熱量が少ない」が謳い文句だが、街で目を凝らして走るクルマを見ていると、頻度は少ないが、LEDランプがちらついたり消えたりしたまま走っているクルマを見かける。
素子切れのほか、基板の方が熱でヤラれて不具合を起こす例もある。
理由が素子切れであれ基板損傷であれ、話が違うじゃないかというわけだ。
ましてや「半永久的」「省電力」といったところで、いざ故障して修復に何万、何十万もかかるならちっともありがたくない。

上のヴィッツの写真は7年ほどの前のものだが、この時点で左ランプのLEDがチラついていたから、基板が不具合を起こしているのだろう。
バンパーの表面傷補修も費用が高いが、それが苦であればがまんすればいいだけの話だ。
ところがランプとなるとそうはいかない。
どれか素子ひとつ切れただけでも車検不適合だ。
いまはハイマウントストップランプも義務化されているが、これとてどれかひとつ不点灯になっただけでも車検パス不可。
ハイマウントランプだって安くはない。
発光の仕方、機能、デザインは、電球時代にはできない、LEDならではのもので、見れば確かに美しいものばかりだが、自分が乗っているクルマの前後ランプが自分で見られるわけじゃなし・・・いざ故障してバカ高い補修費用(実際には交換費用)と、省エネ&美しいデザインを天秤にかけたとき、果たして自動車ランプのLED化が手放しにイイといえるかどうか?
まだありまっせ。
もうひとつ私が疑っているのは、LEDが本当に省電力なのかどうかだ。
点灯中のLEDランプに手を当てるとほんのり温かいだけだから、確かに発熱量は少ないといっていい。
ただ、LEDはその手前の基板が熱を持つ。
後付けLEDランプもファンをつけたり、放熱版に銅やアルミを使うなどして放熱に苦労しているし、家庭用LEDの不点灯故障も基板の熱が原因なのが少なくないようだ。
たぶんハナっからの車両装着品もどこかで放熱しているだろう。
LEDが省電力なのは本当なのだろうか。
回路先端となる光源部分だけは発熱量が少なくなるほど省電力であっても、その手前の基板部分が放熱に苦労し、ときに故障要因になるほど熱を発しているなら、バッテリーが12Vである限り、トータルでの電力消費&発熱量はハロゲン時代といくらも変わっていないんじゃないの?
夜間走行で明るい視界が得られることの効用はわかっているつもりだし、不点灯の確率は低いだろうが、街のクルマのLED不点灯を目にしてしまい、その補修費用がバカ高いことを思うと、自動車ランプのオールLED化にはどうにも賛成しかねるのである。
アイドリングストップ用の高いバッテリーにLEDランプの交換費用(故障すればの話であるにしても)・・・低燃費で儲かった燃料代以上の額が、これまでより高くなったパーツ代で吹っ飛んでいるだけじゃないか。
さあ、いったい、誰が幸せになるのでしょうか?
人間が造ったものだもの、故障が避けられないのは理解しているつもりだ。
でもその目に遭ってしまったユーザーは「こんなに高いの?」とぶったまげ、「こんなはずじゃなかった」とため息ついているのではないか。
バルブ式はHBやH4などの種類があるが、これらは規格化されたもので、メーカーを超えるどころか海外メーカーのクルマにまで共通に使える。
つまり大量に造るから安価だ。
LEDは、素子そのものは共通だろうが、クルマ個々のデザインに合わせて素子が並べられているからそもそも規格の概念がなく、せいぜいクルマの生産台数分、多くても兄弟車の数の分の専用設計だからバルブのように安くなりようがない。
ただでさえ自動車の値段は高くなっているのだから、LEDなんてオプションに、全機種標準ならレスオプションの対応があってもいいと思うのだが、他の先進安全デバイスとのからみでいまさら無理な相談なのだろうか?
いま筆者が使っている旧ジムニーシエラは、ヘッドライトはハロゲン球だし、それ以外は電球だ。
納車は2018年3月だったが、実はこのあたりのことも見越してこのクルマを選んだのだった。
現行のジムニーもフロントはLEDとハロゲン球が混在しているし、後ろのランプは電球だが、もし他の乗用車を選んでいたら前後ともLEDランプだったかもしれない。
冒頭写真のストップランプ交換だって、工賃タダの電球代左右わずか540円だけですんだが、これがLEDランプのクルマだったら自分では対応できず、販社持ち込みのまるごと交換で片側3万はかかっただろう(推測)。
自分でできる構造なのは昔はあたり前だったが、これがいまはどれほどありがたいことか。
ついでにいうと、フロントランプのあのレンズだ。
樹脂製になって長いのだから、いいかげん目の黄疸か白内障みたいにくもってしまうのは何とかならないものか。
表面のコーティングが太陽光線の紫外線によって劣化して白濁するのだが、これが重症化するとレンズの透過度がガタ落ちして光量不足となり、これまた車検をパスできなくなる。
こうなってもレンズ単体で交換できないから、正常な部分も含めてのまるごと交換が強いられ、ハロゲン式だって安くはないのに、LED式だとなお高くつく。
交換したいのはレンズだけなのに。
いまのクルマはちょっとアッセンブリー化が過ぎていると思う。
そのうち、素子がひとつ切れただけでクルマ1台まるごと有償交換なんていう時代がやってきそうで恐ろしい。
省エネ・省資源もけっこうだが、自動車メーカーもランプメーカーも、故障したら部分的に交換できるようにして補修費用が安価にすむ設計に努め、クルマを維持することにお金をかけないようにすることをあらためて本気で考えてほしい。
そしてもし、見た目の美しさを求めるあまりのLED化なら、LED灯火に限っては整備手帳(メンテナンスノート)にある「一般保証」はもちろん、「特別保証」をも超える「距離無制限の無期限保証」とし、故障時は無償対応にしてしかるべきだ。






















