独創的なデザインと乗り味

昨今でも出先で遭遇する機会はよくあるけれど、1985~2007年にヤマハが販売した初代VMAXに僕が乗るのは十数年ぶりである。

そして今回の試乗車と対面して最初に興味を惹かれたのは、オーナーの好みを反映したモディファイだったものの、撮影中に各部を眺めていたら、“ブルート&マッチョ”というコンセプトを見事に具現化したデザインにしみじみ見入ってしまった。

試乗車は2000年代中盤の北米仕様で、随所にオーナーの堺 理恵さんの意向を反映したモディファイが行われている。外装類では、ダミータンク/エアダクト、サイドカバーがノンオリジナル。

中でも僕が素晴らしいと思ったのは、V型4気筒エンジンの存在感を強調するフレームワークと、上下厚をできるだけ抑えたダミータンク(ガソリンタンクはシート下に設置)。

それに加えて、入り口から出口までの経路がわかりやすい吸排気系部品の配置、ダウンドラフト式キャブレターのトップカバーをアクセントとして使ったことも、特筆するべき要素だと思う。

では肝心のライディングフィールはどうかと言うと、外観に負けず劣らず、依然として独創的だった。と言うより僕としては、誕生から約40年、生産終了から約20年が経過した今だからこそ、VMAXの魅力はますます輝いて見えるんじゃないか……という気がしたのだ。

見た目を裏切る常用域の楽しさ

VMAXの乗り味を語るうえで欠かせない要素と言ったら、多くの人が真っ先に思い出すのは、Vブーストの採用で実現した圧倒的な加速性能だろう。ただし今回の試乗で僕が感心したのは、流すようなスピードで走ったときと、峠道でスポーツライディング……と言うか、コーナリングをしたときの楽しさだった。

まずは前者の説明をすると、この車両が搭載する70度V型4気筒エンジンには、不等間隔爆発(0→180→430→610度)ならではと思える個性的な鼓動が備わっているので、各気筒の主張を心身に感じながら2000~3000rpm近辺を使ってマッタリペースで走っていると、なかなかの充実感が得られるのだ。

一方のスポーツライディングに関しては、VMAXでそんなことができるの?と疑念を抱く人がいるかもしれない。

とはいえ、このバイクのハンドリングは至ってニュートラルで、車格が大きくてもエンジン幅が狭いから右へ左へという向き変えは意外に容易だし、しなやかなフレームや大らかなディメンション、フロント18/リア15インチというタイヤサイズなどの効果なのだろうか、コーナーの入り口ではわかりやすい舵角、コーナーの出口では明確なトラクションが伝わってくる。

もっとも、近年のビッグネイキッドと同様の感覚で思い切ってコーナーに突っ込んだり、コーナーの立ち上がりでアクセルをワイドオープンしたりすると、旧態然とした構成のシャシーは徐々に不安定な挙動を見せ始める。でも常識的なスピードで走っていれば、VMAXは十分にスポーツライディングが満喫できるバイクなのだ。

加速感は相変わらず圧巻だが……?

ヤマハニュースの1985年2月号に掲載されたVMAXの記事。

続いてはVMAXの最大の特徴である加速性能の話だが、この件については意外な発見があった。実は今回の試乗前の僕は、かつては圧倒的と感じた加速も、現代の視点では霞んで見えると考えていたのだ。200ps前後が珍しくない昨今の大排気量車を数多く体感している身としては、150ps以下で驚くことはないだろうと。

VMAX独自の機構であるVブーストは、過給装置ではなく、高回転時に前後気筒のインテークマニホールドを連結する機構。6000rpmでバタフライバルブが開き始め、8000rpmで全開になる。

ところが、Vブーストが全開になる8000rpm以上の加速は、相変わらず圧倒的だったのである。ひとたびスロットルを全開にすれば、尻がバックレストにグッと当たり、両手はハンドルグリップから引き離されそうになり、上体の姿勢を維持するべく腹筋背筋には力が入る。

ただしその状態で速度計を見ると、針が指す数字は驚くほどではない。体感的には200km/hのはずなのに……?

それはすなわち、加速感がスゴくても、実際の加速は(現代の視点で考えれば)そうでもないということなのだろう。逆に言うならVMAXの加速感には、シャシーの頼りなさや万全とは言い難い制動力、走行風をモロに受けるアップライトな乗車姿勢なども寄与しているのだ。

アンバランスの妙

1995年型日本仕様のカタログの表紙は、吸気系部品の存在感を強調。

さて、何だか話が微妙な方向に向かっているけれど、車体が盤石の安定感を備えていないことは、僕にとってはマイナス要素ではなかった。

と言うよりVMAXの乗り味には2輪の世界では珍しい、“アンバランスの妙”(意図的に非対称性や不均衡な要素を取り入れることで、全体の調和や面白み、洗練された美しさを生み出す効果を指す言葉。ファッション、デザイン、アートなどの世界で使われることが多い)と言うべき魅力が備わっているのだ。

もっともこのモデルの開発陣が、そういった資質を意識してライディングフィールを構築したのかと言うと、それは何とも言い難いところである。

ただし第1回目で述べたように、VMAXの命題は世界一のゼロヨン加速とブルート&マッチョなルックスで、それ以外の要素はほとんど度外視だったようだから、“アンバランスの妙”が生まれたのは自然なことだったのかもしれない。

キャスター/トレール:29°/119mm、ホイールベース:1590mm、装備重量:283kg(2005年型)という数値からは、クルーザー的な資質が伺えるものの、VMAXのキャラクターはその範疇に収まるものではない。

いずれにしても、今回の試乗で久しぶりに初代VMAXを体験した僕は、他機種では絶対に替えが利かない、唯一無二の資質に改めて感心。大排気量大馬力車の王道がまだ確立されておらず、現代と比べればいろいろな面での制約が少なかった1980年代中盤とはいえ、よくぞ、ルックスとライディングフィールがここまで独創的で、インパクトが抜群のバイクを作れたものだと思う。

ディティール解説

3つの指針式メーターはホワイトパネルで、回転計・燃料計と各種警告灯はダミータンクの上に設置。車格を考えると、ハンドル幅は意外に狭い690mm。この車両はブレーキ/クラッチマスターシリンダーとグリップラバーをアフターマーケット製に換装。
シートは独創的なデザインで、前後とも十分な肉厚を確保(試乗車はメイン部のアンコ抜きを実施)。タンデムシート下部の左右に備わるレバーを操作すると、バックレストが前に倒れ、ガソリン給油口が現れる。
70度V型4気筒エンジンはグランドツアラーのXVZ1200がベースだが、Vブーストの追加と徹底的なメーカーチューニングが行われている。当初のフルパワー仕様は145psだったものの、最終型は135ps。
 
Vバンク間に収まるダウンドラフトタイプのキャブレターは、負圧式のミクニBDS35。
 
1993年型以降のフロントフォークはφ43mm正立式で、フロントブレーキはφ298mmフローティングディスク+対向式4ピストンキャリパー(1992年型以前は、φ40mm正立式、φ282mmベンチレーテッドディスク+対向式2ピストンキャリパー)
φ282mmベンチレーテッドディスク+対向式2ピストンキャリパーのリアブレーキは、初代から一貫して不変。試乗車の排気系はOVERで、バックステップはBEET。
後輪駆動はシャフト+ギア式。リアが150/90-15という特殊サイズなので(フロントは110/90-18)、前後セットで選べるタイヤは、ブリヂストンG535/526とダンロップF20/K525のみ。
 

旧車探訪記「ヤマハ初代VMAX編」1/3 異例づくしでありながら、23年の歳月を生き抜いたストリートドラッガー

開発陣が設定したキーワードは“ブルート&マッチョ”で、日常域の使い勝手やロングランでの快適性はほとんど度外視。1980年代の基準で考えても豪快な話だが、唯一無二の資質を備える初代VMAXは、世界中の多くのライダーから絶大な支持を集めたのだ。 REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko) PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ひと目惚れから約30年の歳月が経過しても、まったく衰えない愛情 旧車探訪記・ヤマハ初代VMAX編【3/3】

初代VMAXを所有するためには、ある種の覚悟や体力が必要。世の中にはそう感じている人が少なくないように思う。とはいえ、当企画に協力してくれた堺 理恵さんは、そういったハードルの高さを感じることなく、充実したVMAXライフを送っているようだ。 REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko) PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)