フルレストア&カスタムされたフィアット600DベースのABARTH1000TCR-SPEC BUILD-。

東京オートサロン2026の会場にアバルト好きがどれだけ来たかは不明だが、もし興味がある人なら立ち止まってしまうこと必須の車両が展示された。ウイングオートのブースにアバルト1000TCRそっくりなクルマが展示されていたのだから。心の中で「スゲ〜」と感心して見入っていると、同社会長の上窪順一郎さんに声をかけられた。

FIA公認レース仕様車ながら公道を走ることも可能だ。

輸入車総合ディーラーであるウイングオート。上窪さんは無類のイタリア車マニアであり、ウイングオートでも数多くのイタリア車を取り扱っている。だが、マニアの凄さは車両販売だけに止まらなかったこと。自身で何度もイタリアへ通っているうち、オッフィチーナ・ラ・マンナ社との協力関係が生まれた。ラ・マンナ社はレーシングエンジンと車両の製作を専門とする工房で、1990年代からヒルクライムなどに参戦。2000年代初頭には700cc化したフィアット500で2年連続全国タイトルを獲得している。

アバルト1000TCRそのままのクーリングダクトやオーバーフェンダー。

東京オートサロン2026の会場にはラ・マンナ社の技術者たちも駆けつけていた。というのも、ウイングオートではラ・マンナ社が製作する車両の販売を開始したからだ。このアバルト1000TCR風のレーシングマシンがその1台で、販売する車名はABARTH1000TCR-SPEC BUILD-。もちろん現地でレース参戦を可能とするためFIA公認を取得している。

シリンダーヘッドを新規製作して985ccの排気量から最大120psを発生するエンジン。

ベースになったのは1966年製のフィアット600Dで、ボディはドンガラ状態にまで分解してフルレストアが施されている。古いフィアットというとサビだらけなイメージが強いものだが、ボディから古い塗装を剥離したうえでサビを除去。さらにはレーシングマシンに必要とされる剛性を得るため各部を補強して強固なボディとしている。

一見するとウェーバーキャブレターのようだが実はインジェクションなのだ。

さらにはエンジン。排気量の拡大なら一般的だがラ・マンナ社では鋳鉄製シリンダーヘッドを新設計している。無垢材から削り出されるカムシャフト、窒素処理された新品バルブや5本ステムの特殊スプリング、特殊合金製リテーナーなどを用いて600Dのシリンダーブロックと組み合わせている。販売されるABARTH1000TCR-SPEC BUILD-はスタンダード仕様だとシングルウェーバーキャブレター仕様。985ccの排気量から75psを発生するが、展示されていたのはハイスペック仕様の4連スロットルインジェクションが組み合わされ驚きの120psを発生するという。

豊かなトルクを生み出すための排気管長とされたマフラー。

ハイスペック仕様だと5速コンスタントメッシュギアが組み合わされるが、スタンダードモデルの場合は4速フルシンクロミッションとなる。ここまで手が入っているレーシングマシンなのだが、日本ではナンバーを取得して公道を走ることも可能。それなのに価格は898万円(予備検査代18万円別途必要)というから驚き。75psしかないとはいえ重量が軽いフィアット600Dベースなのだからパフォーマンスについては申し分ないはず。

アバルトらしい3連メーターを再現したインテリア。

オプションも充実していてエンジンの仕様が4つも用意されている。81psシングルスロットルインジェクション(66万円)に始まり、前述した4連スロットル120psまで揃う。120ps仕様のエンジンだと単体での価格が217.8万円になるから1000万円を超えてしまうが、5速シンクロギアボックス(88万円)や5速レーシングギアボックス(165万円)などを組み合わせることによりさらに高価なものになる。ただ、インジェクションにすることでエアコン(44万円)の設置も可能だから魅力的だ。

FIA公認車らしくロールケージが張り巡らされ、シートもフルバケット仕様だ。

エンジン&ミッションだけでなく前後ディスクブレーキや独立懸架フロントコイルオーバーサスペンション、ラック&ピニオン式ステアリングとされていて操縦性を大幅に進化させている。公道走行が可能なことも特徴の一つではあるが、これだけの仕様なのだからサーキットを走らせてみたくなるのが自然だろう。なおFIA許可証は別途110万円の費用が必要とのこと。今後の展開が実に楽しみな1台といえるだろう。