ヤマハが“音づくりの全工程”を武器に参戦。車載オーディオ市場へ放つ「新発明」スピーカーとは何か

音楽を生み出すアーティストの発掘や、ピアノを作るための木材を得るため森を育てることから、アコースティックな楽器はもちろん、デジタル音響のためのソフトウェアや半導体までも開発、そして最終的にその音をファンの耳に届けるすべてを創り続けるヤマハが、車載オーディオのアフターマーケット業界へ挑んでくる。それも、ヤマハらしい画期的な発想を具現化した、「新発明」スピーカーを引っ提げての参戦だ。

東京オートサロン2026に出展されたIsoration Frameを用いたアフターマーケット向け車載スピーカー

このところ、ヤマハは音のプロとしてカーメーカーへの納入を含め、自動車の音響空間づくりに力を注いでいる。アウトランダーに三菱自動車と共同開発したプレミアムオーディオシステムが搭載されているのをご存じの方も多いだろう。

自動車の黎明期において、オーディオは「ラジオのアナウンスが聞こえれば十分」な実用装備に過ぎず、音楽を楽しむこと自体、趣味性が高く一律にコストをかけられなかった事情もある。

そんな背景もあり、ドライブに音楽が切っても切り離せないものとなってきた若者とともに、自動車のオーディオはタイヤ・ホイールと並んで「カスタムしなければならないもの」の最優先課題となった。そのため、80年代を中心に、ロンサムカーボーイ(パイオニア)、シティコネクション(クラリオン)、ケンウッド、アルパインなどのロゴが、リヤウィンドウ越しに後続車から見えるスピーカー背面に誇らしげに光って見えたものだった。

しかし、カーナビの普及や純正オーディオの高音質化、2DINなど規格以外の純正オーディオの増加などで、ユーザーが手軽にグレードアップする部分ではなくなっていき、いわゆる音響マニア以外は手間ひまコストをかけることがぐっと少なくなっているのが現状だ。

そこへあえて、ヤマハは切り込んでいくわけだが、今回出展していたのは、「これなら付け替えたい!」と思わせる画期的な「発明」が組み込まれたスピーカーだった。

現在のカーオーディオのスピーカーはドアに取り付けられているのが主流だ。ドライバーに近く、ドア自体がスピーカーボックスの役割を果たすといったメリットがあるが、その半面、車両という性質上、メーカーはドアを軽くしたいため、なるべく薄い鉄板で構成され、音の振動による共振、ビビリなどが発生しやすい。

カーオーディオのチューニングでは、このビビリ防止のための吸音材、防振材を貼るなどの対策が定番の手法だが、自動車メーカーの狙いに反する行為であり、ドアが重くなったり、サービス用の穴を塞ぐなどデメリットもある。

そこでヤマハが考えたのが、スピーカーの振動をドアに伝えないことだった。

「Isolation Frame」と呼ぶ新技術は、スピーカーから車体パネルへ伝わる振動を抑制するのが目的。

一般に、スピーカーはフレームに振動板(コーン紙)が取り付けられ、フレームがドアに固定されているが、この振動板を時期コイルごとスプリングによって浮かせるフローティング構造とすることで、その振動がドアに伝わらないようにしてある。

一般的なスピーカー。振動板とフレームが一体となっている。
Isoration Frame機構を持たせたウーファー。
スピーカーとフレームの間に僅かに隙間がある。スプリングで浮かせた構造になっているのだ。
Isoration Frameの構造図

これにより、音の歪みや濁りを排除し、車載オーディオの音質を飛躍的に向上させたとしている。

この技術により、今後、量産化に向けて国内外の自動車メーカーへの提供を開始しようとしているが、この技術を応用したアフターマーケット向けスピーカーユニットも開発し、オートバックスの販路を用いて展開していくというのが今回オートサロン出展の大きな目的であった。

ツイーターはスタイリッシュなデザインだが、スピーカーとしては一般的なもの。

今回の出展では、上記の振動抑制機構「Isolation Frame」技術を搭載し、ヤマハホームオーディオのフラッグシップスピーカー「NS-5000」にも採用されている、世界最高レベルの強度と弾性率を誇る繊維「ザイロン」を振動板に使用。ツイーターを別体とした独立2ウェイスピーカーとして、ボルボXC90に搭載された。

視聴体験コーナーは非常に人気で、数時間の待ち時間の後、試聴する機会に恵まれたので、車内へと乗り込んでみた。試聴システムは、システムの都合上、ボルボ本体のオーディオを使用することができなかったため、別体アンプとタブレットを音源としたものだ。特別ハイエンドなユニットを組んでいるのではなく、ごく普通レベルのものだとのこと。ダッシュボード上にツイーターがあり、カバーで見えないがドアにIsolation Frameのウーファーが装着されている。以上のシンプルな構成だ。

大人気の試聴デモカーはボルボXC90。

数種類の音源を聞かせていただいたが、いずれもクリアな音が印象的だった。低音でも、高音でも、楽器でもボーカルでも一つ一つの音そのものが明確に耳に伝わり、濁りを感じさせない。特に、低音が良く響いて、サブウーファーが装備されているのかと思ったほどだったが、電気エネルギーが減衰することなく音となって、リスナーに近いところでしっかりと響いてくれているわけだ。非常に質の高いハイエンドなオーディオ機器が奏でる音のレベルに感じられた。

試聴後、何かドアに大きな細工をしているのではないか疑ってみたが、ドアスピーカーはいわゆるポン付けでドアへの特別な加工は施していないという。

また、スピーカー付近の足下に振動を感じたので、それはドアを伝わっているのではないかとお聞きしたが、それは音そのものの振動が効率よく空気を振動させ、しっかりと足に伝わっているためだ、とのこと。

正直言って、スピーカーを替えただけとは思えない質の高い音を感じたのだ。

まさに、ヤマハが提唱する「True Sound(トゥルーサウンド)」=「アーティストが音楽に込めた想いや、制作現場で意図された世界観を余すことなく、ありのままに伝えることを目的とした音響哲学」を車内に持ち込むために生まれたのを感じられる。

大きな音を出しても隣近所に迷惑をかけにくい、という以外、車内空間は音楽を再生するのに理想的とは言いがたいが、それを大きく変化させてくれる大発明だと言えるだろう。

価格を始めとして、詳細はまだ決まっていないというが、オートバックスを販路とするからには、一般の人にも手が届く価格で提供してくれるのではないかと予想され、その部分でも期待が膨らむ。2026年中の発売を目指すとのこと。

ヤマハでは、『多くのお客様に“表現者の意図が伝わる「本物の楽器の音」”を提供します。』としている。確かに、スタジオで丁寧に録音された音も、あるいはライブで観客が打った拍手の音も、このスピーカーはそれをそのまま届けてくれることだろう。

久しぶりに発売が楽しみなアフターマーケットのカーオーディオアイテムに出会えたことも、古くからのカーオーディオファンとして、たいそう嬉しかった。