1983年式トヨタ・カリーナ180ツインカムターボGT-TR。

ひとくちに「旧車」と言ってもその定義は非常に曖昧。年式が厳密に決められているわけではないし、かといってクラシックカーやヒストリックカーという呼び方とも若干意味合いが異なる。どちらかというとキャブレター時代で排ガス規制前の国産車を指すのに適した呼び方がなかったことから、自然発生的に「旧車」と呼ばれるようになったと記憶している。

セダンながらスポーティな走りが身上。

ところが最近では「旧車」に当てはまるものとして1980年代から2000年前後くらいまでの、比較的新しいモデルたちまで含まれるようになった。どちらかというと「ネオクラ」や「ネオクラックカー」という呼び方が相応しいと思うのだが、それも個人個人の考え方だろう。80年代車の専門誌を創刊した身としては2000年前後は別ジャンルのようにも思うが、もはやいずれも生産から20年〜40年と経っているのだから細かいことは気にしないようにすべきなのだろう。

国産車初となるDOHCターボを採用した3T-GTEU型エンジン。

ただ、やはり50代以上の世代だと80年代90年代のクルマたちに愛着がある年齢層といえるだろう。運転免許を取得できる年齢になる前後に活躍したクルマたちには、若い頃憧れたり初所有車だったりと、さまざまな思い入れがあるから。その頃に人気だった車種には「DOHC」や「ターボ」といったキーワードが不可欠だった。排ガス規制を乗り越え国産車たちが規制前のモデルよりパワフルに、高性能になっていく時代の象徴でもあった。廃ガス規制時代に巻き起こったスーパーカーブームの洗礼を受けていればなおさらだった。

フロントカバーにはトヨタマークの下にYAMAHAの文字がある。

国産車で初めてターボを採用したのは日産セドリック/グロリアで、その後同型エンジンは他車種へも展開された。やや遅れてトヨタからもクラウンにターボモデルが登場する。その後は他メーカー含めターボモデルが高性能の象徴となっていくなか、82年10月に国産車で初めてDOHCエンジン+ターボを採用したのがA63セリカ/カリーナだった。1770cc直列4気筒DOHCターボとなる3T-GTEU型エンジンは160ps/21.0kgmを発生する高性能ぶりで、搭載車には「GT-T」「GT-TR」というグレード名が採用された。

純正ストラットを加工して車高調整式サスペンションにしてある。

ところが83年2月に排気量で勝るスカイラインRSにターボモデルが追加されたことで少々影が薄くなってしまうが、同じ4気筒ターボということで両車は大いに人気があった。ところが時代が流れて令和になると、スカイラインRSは残存数が比較的多いもののA63セリカ/カリーナを見る機会はめっきり減ってしまった。だから第2回水戸クラシックカーフェスティバルの会場で真紅のカリーナGT-TRを見つけるや、すぐにオーナーにお話を聞くため声をかけさせていただいた。

ツインカムターボ車に与えられたグレード名のGT-TRは兄弟車のセリカにも存在した。

オーナーは54歳になる元井 亮さんで、当日は息子さんと二人でイベントを楽しまれていた。GT-TRを「見なくなりましたね」と話しかけると「そうですか?」と、あまり希少ではないようなお話ぶり。所有されているご当人からすると「普通ですよ」という感覚だそうで、肩肘張らない存在であることもポイントのようだ。

ステアリングをナルディにしたくらいでノーマルのインテリア。

元井さんがこのカリーナを手に入れたのは2009年のこと。人気が再燃し始める頃といえるが、今のように異常とも表現できるような状況ではなかった時期だ。実はカリーナに乗る前にはスカイライン・ジャパンを所有されていた。まだ若い頃だったのでエンジンをL28型に載せ替え足回りを固めるなどのカスタムを施して走りを楽しんでいたのだ。だが元井さんはプロのメカニックでもある。やはりメカニックであり年齢的なことからも、あまり派手なクルマは控えようと考え手放してしまった。

走行距離は20万キロを突破したところ。

手放してしまったけれど、やはり80年代のクルマには未練があった。だからだろう、知り合いの業者から「近所のオークション会場にA63カリーナがある」と聞いて気持ちがざわついた。しかも程度は悪くないのに「2回も流れた」と、買い手が見つからないため価格も格安。散歩中に連絡があったので誰にも相談せず、その場で決めてしまったそうだ。とはいえプロのメカニックなのだから大抵のことはどうにかなる。ひと通りのメンテナンスを施して自宅へ乗って帰った。

初期のターボ車には使用上の注意が貼られていたもの。

ただ、元井さんは忘れていた、奥様への連絡を…。カリーナを買ったことをつい言い出せず、家に乗って帰るまで黙っていたのだ。これに激怒した奥様の姿は想像に難くない。カリーナを見てから、実に2週間も口をきいてくれなかったそうだ。クルマの状態を良好にするのは大切なことだが、夫婦関係を円満に保つことも大事なのだと思わせられるエピソードと言えるだろう。奥様の理解が得られたのは「普通にアシになるんです」という言葉からもわかるように、L28改スカイラインのような極端なクルマではないことが影響しているのかもしれない。純正ストラットケースを加工して元井さん自ら車高調整式サスペンションにしたくらいで、基本的にはノーマルだからこそのご理解だろう。

純正シートは左右とも傷みが少なく程度良好。

今では息子さんまで一緒になって元井さんの趣味を楽しまれているのだから、結果的にカリーナは家族にとっても良縁だったといえそうだ。しきりに「普通ですよ」と口にする元井さんだが、40年以上も前のクルマが「普通」に走ること自体すごいこと。それを可能にするだけの愛情が込められているのだ。