
誰しも運転免許を取得して初めて一人でクルマを運転した日のことは忘れないだろう。まるで翼を手に入れたかのように好きな時に好きな場所へ行ける。しかも手足を駆使して操作すれば人間では絶対に不可能な速度で移動できるのだから、単に自動車を運転するという行為以上の感動が得られた。クルマ好きにとって運転に代わるほど面白い行為はそうそうあるものではないはずだ。

だからといって、初めて運転した車種にもう一度乗ろうと思う人は少ないはずだ。年齢を重ねるごとに初運転したクルマはどんどん古くなっていくわけで、乗ろうと思ってもクルマ自体が数少なくなってしまう。特に人気があったわけでもなければ、特徴的だったわけでもないモデルであればなおさら。2026年1月25日に開催された「第2回水戸クラシックカーフェスティバル」の会場には、そんな「何でもない」普通のクルマたちが数多く展示されたことが特色。旧車のイベントというとハコスカやケンメリ、S30フェアレディZといった日産の人気車種がズラリと並ぶことが多いものだが、水戸クラシックカーフェスティバルではむしろ少数派。それよりイベント会場には見かけることの少ないレアな車種が数多く展示されていた。

なかでも圧巻だったのが今回紹介する初代スタンザ。排ガス規制が吹き荒れる’70年代後半に発売されたモデルで、エンジンはNAPSと呼ばれる排出ガス浄化装置が装備されていた。そのため登場時にラインナップされていたL16型エンジンに以前のような軽快感はなく、モッサリとした印象を与えたもの。発売の翌年にはL型からZ16型へエンジンが変更されたため若干印象は良くなるのだが、いずれにしても残存数が少ない希少車だ。

ただ、現在の目で見ると小降りなボディながら角形ヘッドランプが上級車であるセドリック/グロリアのようでもあり、なかなかに高級感がある。それもそのはずで、当時から高級感をウリにしたモデルでもあった。あまりの珍しさに近づいてみるとお二人が意気投合している場面に遭遇。どうやらオーナーの沼川滋さんが他の参加者と会話を楽しまれていた。お話中に申し訳なく思いつつもオーナーの沼川さんに「どうしてスタンザなのですか」と質問をぶつけてみた。

すると「免許を取って初めて運転したクルマだったんです」。しかも「当時父が所有していたスタンザを借りてドライブを楽しみました」というのだ。冒頭のように免許取得後に初めて運転したクルマのことを忘れられるわけではない。沼川さんにとってスタンザは、ある意味忘れられない初恋の人のような存在なのだ。その沼川さんは現在65歳。「これはもしや」と聞けば、やはり最近になって入手されていた。長年勤めた会社を定年退職して、それまで秘めていた思いを成し遂げられたのだろう。

しかも入手したエピソードは時代を反映している。なんとSNSを通じて知り合った友人がいる。SNSで「スタンザを探してます」と書き込んだところ、その友人から栃木県宇都宮市に売り物があるとの情報が寄せされた。沼川さんは神奈川県在住だが、こんなチャンスは二度とないと思い急いで現場へ急行した。SNSで情報を募ったのは、やはり買いたくても売り物がない希少車だから。まさに現代らしい探し方なのだ。

こうして手に入れたスタンザは初期のL16型エンジン搭載車。とはいえ選べるような状況ではなかったので、エンジンやグレードのことは気にしない。それより現代の路上で不便なく乗りたいと考え、なんと登録する前にフルレストアを敢行するのだ。日産車の場合、部品を共用する車種が多く、補修部品の供給具合も悪くない。スタンザについてだと、他にもバイオレットやオースターが兄弟車。いずれも希少車の部類に入るモデルたちだが、部品についての心配はそれほどなかった。

ただ、レストアを依頼する際に強調されたことがある。それは「ノーマルを維持してレストアすること」だ。実は旧車をレストアする方法として一番手間もお金もかかるのがノーマルを維持すること。足まわりやエンジン補器類などは代替品にしてしまうのが安くて確実な手段なのだが、ここをノーマルにこだわると部品探しに苦労するし価格も割高になる。だが、沼川さんは免許取得時の状態を再現したくノーマルにこだわった。

スタンザを購入されたのが2024年10月のこと。それからレストアに時間がかかったこともあり、イベントにはこれまで不案内だった。だが神奈川から水戸までの長距離を自走して参加され、当時と寸分変わらぬ走りを味わえたたのは何よりのご褒美だったことだろう。スタンザについては全てがお気に入りだそうで、トランクに積んでいた若かりし頃の沼川さんとスタンザが写った写真アルバムまで拝見させてもらえた。

しかも、当初会話を楽しまれていたのは、スタンザの兄弟車であるバイオレットでこのイベントに参加されていた方。それは話が合わないわけないし、イベントに参加されてつくづく良かったと思えたことだろう。やはり希少なクルマに乗るなら同じ車種や兄弟車に乗る友人知人がいることで情報量は倍増する。おそらくお二人は今後、長い付き合いににあるのだろう。そのバイオレットの方も取材しているので、続けて紹介する予定だ。
