
前回の記事で紹介したスタンザは、オーナーが初めて運転したクルマを探し求めて手に入れたお話だった。あまりのレアさからひと目見るなり取材をお願いしたわけだが、その時にオーナーがお話しされていた人がいる。取材中にも同席されていたのだが、この人がスタンザと兄弟車であるバイオレットのオーナーなのだと教えていただいた。スタンザも珍しいがA10バイオレットも負けず劣らずのレア車。それならと続けて取材をお願いすることになった。

バイオレットのオーナーである荻原広行さんは現在63歳。まだ働かれている世代で、ある意味旧車オーナー比率の高い世代でもある。この世代の人たちが運転免許を取得した頃はちょうど排ガス規制が厳しくなったタイミングであり、規制前の元気なエンジンを搭載する古いクルマが人気だった。言うなれば第1期旧車ブームとも呼べる時期であり、規制前のスポーツモデルには中古車なのにいい値段がついたもの。

だから世代的に排ガス規制に適合した車種を毛嫌いする人も多いわけだが、時代はそれから40数年が経った。もはや排ガス規制モデルだからといっても国産旧車という大きな括りに当てはまる時期になった。とはいえ1970年代半ばから後半にかけてのクルマは圧倒的に残存数が少ない。それは排ガス規制適合車ゆえの特性が大きく影響する。なにしろエンジンに元気がないのだ。

例えば今回紹介するバイオレットには新開発されたZ型エンジン搭載車もあり、こちらだとそれほど痛痒を感じないのだが、以前から継続して生産されていたA型やL型エンジンの場合は排ガス規制デバイスの影響が顕著。A型やL型(ともに4気筒)は活発に回るエンジンとして人気だが、これがNAPS仕様になるとまるで性格が違う。回転上昇は鈍く、トルク感も薄いので運転していてもどかしい思いをすることになる。今の技術であれば吸排気系をカスタムしたりピストンの変更などで圧縮比を上げたとしても排ガス濃度を抑えることが可能だから、楽しめるエンジンに変更することも可能。だが、荻原さんはあくまでノーマルにこだわって楽しまれている。

実は10年ほど前に荻原さんはカローラスプリンターを所有して旧車ライフを満喫されていた。すでに7年ほど所有していたのだが、ある時高速道路を走っていたら水温計が急上昇してしまった。エンジンがオーバーヒートしてしまい、そのままでは乗ることができなくなる。そこで地元の整備工場へ修理を依頼することになるのだが、それからが問題だった。すでに当時ですら生産から40年前後が経過した古いクルマなので、修理するにも部品の手配からして困難。荻原さんのカローラスプリンターはなかなか修理に着手されず工場内で保管されていた。

待てど暮らせどカローラスプリンターは帰ってこない。決して短気ではない荻原さんだが、さすがに4年待っても手付かずな状況だったため修理を断念することになる。カローラスプリンターも工場に預けたままにせず、なんと廃車してしまうことに。クルマに罪はないものの、いざ修理という事態になると旧車ならではの問題が発生することもある。怒り心頭だった荻原さんも今では「もったいないことをしました」とお話しされたが、その当時は修理工場に対する意地もあったことだろう。

それ以来、次なる旧車を求めた長い旅が始まる。本当なら510ブルーバードが欲しかったのだが、10年前くらいを境に中古車相場はどんどん上がり続けた。同じ日産車ならハコスカ・ケンメリなどは天井知らずで相場を上げることとなり、510ブルーバードなどの人気車ももはや手軽に買える存在ではなくなっていた。旧車への想いを諦めつつあった荻原さんだが、地元水戸市からほど近いお店にA10バイオレットが在庫されているのを知る。実物を見たことはなかったが、なかなか魅力的な価格だったことから一度見に行ってみることにされた。

そのお店こそ、水戸クラシックカーフェスティバルの主催者であるヴィンテージカートライ。店長の綿引さんが始めたイベントであり、その主催ショップなのだから地元なら一度くらい行ってみる価値はあるだろう。また綿引さんの趣味が反映され、ヴィンテージカートライには珍しい売り物が数多くある。それこそA10バイオレットの売り物など、探してもそうそう見つかるものではない。今見ると70年代後半らしい角張ったスタイルが魅力だが、もはや現物がないのだから見る機会すら得られない。

荻原さんが訪問すると、その70年代後半らしさ全開のスタイルに一目惚れしてしまった。またノーマルを維持しているところも荻原さん好み。控えめなチンスポイラーとルーフキャリアを装備しているが、それもこれもバイオレットらしさを引き出す好アイテム。荻原さんがバイオレットを手に入れたのは、実は2025年12月のこと。それから1カ月と経たないうちに開催されたイベントへ初参加。もちろん週末ごとにバイオレットを楽しまれていて、「遅いけど雰囲気は抜群です」と久しぶりに返り咲いた旧車ライフを満喫されているようだった。
