1992年式日産プレジデント。

茨城県水戸市にある千波公園で開催された「第2回水戸クラシックカーフェスティバル」は、地元で結成された水戸旧車倶楽部が主催した。このクラブでイベントへの参加者を募る役割を果たしたのが綿引宣孝さん。実は綿引さんは水戸市内で「ヴィンテージカートライ」という旧車専門店の店長を務めている。そのため販売した車両のオーナーへイベント参加を促すこともできた。当日はやはり同店で購入したというオーナーが数人いたことも確認できたからこそ、450台以上ものエントリーが実現したのだろう。

ソブリンのエンブレムがあるが年式的にはないはず?

今回紹介する3代目のJHG50型プレジデントのオーナーもヴィンテージカートライで車両を購入した一人。オーナーの清水礁瑚さんは写真のように若い31歳。写真のポーズだと今ドキのチャラい人のように見えるが(失礼)、まるで違う。一本筋の通った人物で、それはプレジデントの購入エピソードに現れている。この型のプレジデントを実際に見て好きになるわけだが、その理由は「祖母を乗せてあげたいと思いました」とのこと。お婆さん思いの好青年なのだ。

ボンネット先端には棕櫚(しゅろ)の葉を象ったエンブレム。

それだけではない。このプレジデントを購入したのは2022年のことで清水さんが20代の時なのだが、実際に納車されたのはイベント直前の2025年12月。実に3年もかかってしまったのだが、それには理由がある。ヴィンテージカートライに入庫した段階で色々と不具合があった。綿引さんとしては正直にクルマの状態を伝え、納車までに整備が必要であることを強調。だがクルマがクルマだし年式的にも少々古い。部品の入手に時間がかかる可能性が高く、またすでに製造廃止となっていることも考えられる。そのことを契約前に清水さんへ伝えたのだ。

グリル内とトランクのガーニッシュ内には七宝焼のエンブレムが装着される。

不具合とは油圧アクティブサスペンションの故障、ABSユニットの故障、エアコンユニットの基盤不良、ラジエター不良、灯火類の不良と、まさにトラブルのオンパレード。これらすべてを修理しなければ車検に合格することもできず、整備には時間がかかると伝えた。それでも清水さんはお婆さんへの思いが断ち切れず、「それでも構わないので買います」と男気を見せたのだ。

シンプルながら高級感あるインテリア。

そうはいっても、さすがに数年かかることになるとは想像もしていなかっただろう。ことあるごとにヴィンテージカートライへ顔を出し修理の状況を確認する日が続いた。長引く修理に業を煮やして綿引さんと怒鳴り合ったことも数えきれないほど。ただ二人に共通していたのはプレジデントを正常な状態で路上復帰させたいという気持ち。だからこそ3年もの間、待つことができたのだろう。

エアコンのトラブルにより温度管理を手動式に変更した。

とはいえ修理は困難を極めた。まず不具合個所の部品を探すにも、やはり古いため新品部品はほぼ出ないし出たとしても非常に高額。そこでリビルト部品などを探すも生産台数の少なさからか、簡単には見つからない。油圧アクティブサスペンションやABSユニットはなんとかなったが、どうにもならなかったのがエアコンの修理。

シートは標準装備のシルクウール。レースカバーは純正だ。

エアコンユニットが基盤不良のため温度管理ができない状態だった。どれだけ基盤をチェックしても原因が特定できず途方に暮れてしまう。そこで考えたのが基盤で温度管理させるのではなく、アクチュエーターによる手動管理へ構造を変更してしまうこと。グローブボックスの内部にアクチュエーターのスイッチが忍ばせてあり、手動で温度を変更できるように改造したのだ。

助手席のヘッドレストの角度に注目。起こして抜くこともできる。

納車されてから1か月と経っていないイベント当日まで、清水さんがプレジデントを堪能したのは言うまでもない。以前は81マークⅡのMT車に乗られていたが、今はプレジデント以外に所有車がない。つまり日頃からプレジデントを運転する日々なのだ。憧れのプレジデントを運転した感想を聞くと「とにかく長い!」「高級感があり余裕のある走り!」「リヤシートがまぁ広い」と非常に満足されている様子。

ヘッドレストを抜くとリヤシートまでフラットにすることができる。

修理中は口角泡を飛ばすほど口論を繰り返した綿引さんとの関係は納車後、非常に良好となった。二人が会話されていると仲の良い友人同士にしか見えない。苦労すれば苦労するほど信頼関係は深いものになるのだろう。当日はお婆さんが不在だったので直接プレジデントに乗られた感想を聞くことはできなかったが、クルマの印象そのものより清水さんの評価が上がったろうことは想像に難くない。