連載

自動車鳥瞰図 by 牧野茂雄

提携の仲介はBMW?

左から日野自動車株式会社 小木曽 聡代表取締役社長 CEO、トヨタ自動車株式会社  佐藤恒治社長 CEO、ダイムラートラック社 マーティン・ダウム CEO、三菱ふそうトラック・バス株式会社 カール・デッペン代表取締役社長・CEO 

日本国内の商用車需要は大小様々を寄せ集めても年間80万台。約2700万台の世界需要から見ればほんの微々たるものであり、日本市場だけを相手にするのであれば事業継続は難しい。かつての大型4社がさまざまな出来事を経て2グループに落ち着いた。しかも欧州資本がくっ付いている。やっとグローバル市場で勝負する腹を括った。筆者はそのように見る。

ただし、日野/ダイムラートラックの提携は、日野の親会社であるトヨタ自動車とダイムラー・トラックの親会社であるメルセデスベンツ・グループの提携と見るべきだ。乗用車と大型商用車というのは商品上の分類であり、おそらく両社は、もう少し大きな枠組みをすでに想定していると思う。

ある外資系サプライヤーで「トヨタとメルセデスベンツ・グループの仲介役を演じたのはBMWだ」と聞いた。トヨタとBMWは2013年に業務提携し、BMW車ベースの「スープラ」を商品化したほか技術面での交流も行なわれている。そのなかのひとつに水素ICEがある。

「トヨタと話をしたらどうだ?」と持ちかけたのはBMWだという。完全にウラの取れた話ではないが、筆者が信頼する筋から得たコメントだ。BMWもかつては水素ICEに熱心だった。BMWに水素ICEの部品を提供していたロベルト・ボッシュ(BOSCH)も水素ICEの独自開発を続けている。トヨタはFCEVを実用化しているし、近年は水素燃焼ICEにも執念を見せる。BMWが仲介した状況証拠としては十分だ。

トヨタとメルセデスベンツ・グループの水素交流は商用車だけにはとどまらないだろう

ダイムラートラック社 マーティン・ダウム CEO

EU(欧州連合)の中枢であるEU委員会は「2035年以降も再生可能エネルギーだけで作ったe-フューエルなどCN=Carbon Neutralituy燃料に限ってICEを認める」との決定を下した。本来なら2035年以降はICEを認めたくなかったのだが、ドイツが強硬に反対し、そこにイタリアやポーランドなども賛同した結果、EUの分裂を回避する妥協策としてe-フューエルを認めた。

e-フューエルICEに賛同しなかったフランスでは、PSAもルノーも水素利用研究はほとんど行なってこなかった。同じくe-フューエルICEに賛同しなかったイギリスには、すでに民族系の量産OEM(自動車メーカー)は存在しない。ロータスとロンドンタクシーは中国・吉利ホールディングスの持ち物であり、ジャガーとランドローバーはインドのタタ財閥の持ち物だ。同じくe-フューエルICEに賛同しなかったスペインにはセアトというOEMがあるが、ここはドイツのVW(フォルクスワーゲン)の子会社である。

いっぽう、e-フューエルICE存続に賛同したイタリアには、ステランティスの一画を担うフィアットがある。同じくドイツ側に着いたチェコにはスコダというOEMがあるが、同社もVW子会社だ。e-フューエルICE存続を主張したドイツは欧州最大の自動車立国であり、OEMだけでなく大手サプライヤーも多く抱える。水素をICEで使えれば、e-フューエル用ICEと合わせて生産台数を確保できる。

水素をモノにしようと考えているのは、EU内ではドイツだけであり、だから日本のトヨタと組んだ。小型商用車の電動化は各社がすでにプログラムを実行しており、とりあえず無理に統合しなくてもいい。しかし、水素領域はこれからだ。日野と三菱ふそうの経営統合は、むしろ親会社同士のこうした動機ではないだろうか。そして、トヨタとメルセデスベンツ・グループの水素交流は商用車だけにはとどまらないだろう。

中国・吉利の思惑も絡む

そこに中国の吉利も絡んでくる。吉利はメルセデスベンツ・グループとの間でHEV用ICE(商用車への搭載を想定)の共同開発を行なっているほか、スマート次期モデルの開発も担う。ダイムラーAGが乗用車・商用車・金融に分割され、ダイムラー・トラックの筆頭株主は約35%を出資する乗用車部門のメルセデスベンツ・グループになったものの、メルセデスベンツ・グループの主要株主は中国・吉利ホールディングス会長で浙江吉利控股集団オーナーの李書福氏と、中国国営の北京汽車集団がそれぞれ10%弱で拮抗し、3番めがクウェート投資庁だ。

吉利のオーナーである李書福氏は習近平国家主席の友人であり、習政権の信頼は絶大だ。トヨタとダイムラー・トラックの間に必ず割って入る役割を演じるだろう。筆者はそう見ている。2001年に筆者が最初に上海で李書福氏に会ったときも、その後に国際会議を取材したときも、同氏は「トヨタは大好き」「いつか吉利もトヨタ系サプライヤーの部品を使いたい」と語っていた。その吉利が、いまや立場としてはメルセデスベンツ・グループの大株主である。

おそらく2020年代後半には、ダイムラーの大型トラックには日本、中国、ドイツが関わった多国籍ICE(内燃機関)が搭載されているだろう。燃料は水素だ。大型車はBEV(バッテリー電気自動車)には向かない。在欧有力ESP(エンジニアリング・サービス・プロバイダー)は口を揃えて「大型商用車は水素燃焼ICEか、水素で発電するFCEV(燃料電池電気自動車)だろう」と言う。

かつてダイムラーベンツの時代、1980年代末にダイムラーはFCEV開発に着手し、2000年代には実用車を試験販売した。その後、FCEVはトヨタとホンダが量産車を発売し、ホンダはGMと組んだがトヨタはどことも提携しなかった。それだけ自信があったし「MIRAI」用のFCスタックはいかにもトヨタ的な「量産向き」の構造だった。当然、メルセデスベンツなどOEMとESP各社が「MIRAI」初代と2代目をバラしてリバースエンジニアリングをやった。だからトヨタの実力は知っている。

それでもメルセデスベンツ・グループには、ビジネス上ではトヨタとの接点がない。「そこを取り持ったのがBMWだった」と言われれば、たしかに説得力がある。

この2年ほどは中国からの水素関連特許論文が増えたが、現時点で実際にモノとして存在するFCEVが使っている特許数では、トヨタに一日の長がある。中国は日本のFCEV技術と水素燃焼技術が欲しくてたまらない。となれば、絶対に吉利を介して絡んで日野/三菱ふそうの研究開発に絡んでくるだろう。

さらに吉利は、ABボルボ(Aktiebolaget Volvo=グループ・ボルボ)の大株主でもあり、議決権ベースでは2番手の地位だ。ABボルボはUDトラックス(元は日産ディーゼル)の権利をいすゞに売却したが、いすゞは研究開発のパートナーとしても重要であり、おそらく関係は深まるだろう。

余談だが、一時期はダイムラーが日産ディーゼル買収に動いた。実現はしなかったが、次世代ディーゼルICEの研究を行なっていたACE(新燃焼システム研究所)のデータを、ダイムラーはその事務局だった日産ディーゼル経由でごっそり取得した。「それが目的だったのではないか」と言われた事件だった。トヨタと日野は気を付けるべきだ。

もうひとつ、いすゞと日野のバス部門を統合したジェイバスは消滅だろうか。ジェイバスは富山と小松で生産しているが、「すでにいすゞはABボルボとカミンズの両方のICEを使った走行テストを行っている」とも聞いた。現状では日本国内仕様のバスに強力な輸出競争力はない。ヒョンデ(現代)製バスどころか中国・比亜迪汽車(BYDオート)製のBEVバスにも押されている。

バスの次期商品をどうするのか。たとえこの点で日野と三菱ふそうといすゞが合意し、非競争領域として共通仕様を共同生産しようという方向に話が向かったとしても、サプライヤーから販売会社、バス納入先まで、いままでのしがらみが多すぎる。おそらく無理だろう。かと言って日野と三菱ふそうがメルセデスベンツ設計のバス「シターロ」を日本で生産するとは考えにくい。

トヨタとダイムラー・トラックが同率出資で設立する持ち株会社は東京証券取引所プライム市場および名古屋証券取引所プレミア市場への上場を予定している。日野はおそらくトヨタの連結子会社から外れるだろう。「HINO」「FUSO」のブランドは維持される。日野と三菱ふそうの経営統合は来年末までに完了する予定だ。

さまざまな憶測が飛び交っているが、筆者は水素関連こそトヨタとメルセデスベンツの協業の柱ではないかと予想する。「CNの選択肢はBEVだけではない」という点で、日本とドイツは思想を同じくする。そして、これは中国が描く未来像とも一致する。

これが水素(FC)大型トラックだ! 水素普及に向けては商用領域がリード役を担う

ダイムラートラック、三菱ふそう、日野自動車、トヨタ自動車の発表でにわかに注目を集める商用車。その中心にあるのは、「水素」だ。大型商用車+水素。どんなものなのか? これが水素トラックだ。 TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

https://motor-fan.jp/mf/article/142385/

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