これが水素(FC)大型トラックだ! 水素普及に向けては商用領域がリード役を担う

トヨタと日野が共同で開発したFC大型トラック
ダイムラートラック、三菱ふそう、日野自動車、トヨタ自動車の発表でにわかに注目を集める商用車。その中心にあるのは、「水素」だ。大型商用車+水素。どんなものなのか? これが水素トラックだ。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

燃料電池(FC)大型トラックがキモになる

トヨタと日野自動車が共同開発したFCトラック

ダイムラートラック、三菱ふそう、日野自動車、トヨタ自動車は5月30日、三菱ふそうと日野と統合する基本合意書を締結したと発表した。4社の合同記者会見ではメディアから商用車における水素の利用に関する質問を受け、佐藤恒治トヨタ自動車社長 CEOは次のように回答した。

「量的規模を確保していく観点においては、乗用より環境構築が有利な点がひとつあると思います。定点(決まったポイントから決まったポイント)で動かしていくため、水素ステーションの構えやすさがある等々です。社会実装を進めていくうえでの環境オポチュニティが有効に存在しています。一日も早く社会実装を進めていくなかで課題を出していく観点で、先日来、『水素普及に向けては商用領域がリード役を担うことが大変重要』であると申し上げております」

水素普及の牽引役として期待されているのが、燃料電池(FC)大型トラックだ。高圧水素タンクに搭載した水素を燃料電池で化学反応させて発電。その電気でモーターを駆動して走る。走行中に地球温暖化の原因とされるCO₂は排出しない。再生可能エネルギーで製造した水素を使えば水素製造時もCO₂を排出しない。大型トラックは国内商用車全体のCO₂排出量の約7割を占めるというデータもある(日野調べ)。FC大型トラックは大型トラック領域におけるCO₂排出削減につながると期待されている。

水素社会に向けての課題は「つくる」「はこぶ」「つかう」だ。

トヨタと日野が共同で開発したFC大型トラックとは?

MIRAI用のFCスタックを2基使う
高圧水素タンク(70MPa)は専用開発。計6本で50kgの水素を搭載する。

トヨタと日野が共同で開発したFC大型トラックが、「ENEOS スーパー耐久シリーズ2023 第2戦 NAPAC 富士 SUPER TEC 24時間レース」(5月26日~28日)が開催された富士スピードウェイのイベント広場に展示された。トヨタとCJPTの共同出展の格好だ。CJPTはカーボンニュートラル社会の実現への貢献などを目指し、トヨタ、いすゞ、スズキ、ダイハツが共同出資する会社だ。日野は認証試験不正を踏まえ、2022年8月24日にCJPTから除名されている。

FC大型トラックは日野プロフィアがベースで、全長×全幅×全高は11985×2490×3780mm。車両総重量は25tで、最大積載量は11tだ。発電を担う燃料電池モジュールは、もともとディーゼルエンジンを搭載していたキャビンの下部に収めている。燃料電池車(FCEV)のトヨタMIRAIが搭載している燃料電池モジュールを2基積んでいる。

水素を貯蔵する70MPaの高圧水素タンクは専用に開発し、キャビンと荷室の間に2本、前輪と後輪の間に左右それぞれ2本ずつ前後方向に並べて搭載している。つまり、高圧水素タンクは全部で6本だ。MIRAIは3本のタンクに約5kgの水素を貯蔵するが、FC大型トラックは6本のタンクに50kgの水素を搭載する。航続距離は600km以上を見込む。600kmあれば東京~名古屋間相当の距離を無充填で走れることになり、実用に足るという判断だ。

FC大型トラックは、商用車のCO₂排出量を削減する以外にも役割を担っている。水素ステーションのネットワークづくりだ。大型トラックは高速道路を中心に走るので、高速道路、あるいは幹線道路沿いに水素ステーションが必要になる。乗用車に比べて多くの水素を消費するので、水素ステーションの事業が成り立ちやすい。ネットワークができて水素がたくさん消費されるようになれば、水素の価格が下がるという期待もある。

水素充填口はMIRAIと違い、ふたつ。

水素充填口はMIRAIと違い、ふたつある。ノズルが2本同時にささるようになっており、ツインチャージャーだ。50kgもの水素を1本のノズルで充填しようとすると約30分かかってしまう。それだけの時間がかかっては時間の無駄になる(物流にとっては死活問題だ)ので、ディーゼルエンジンに使う軽油の給油並みにする狙いで2口用意したというわけだ。ただし、インフラ側の整備はツインチャージにまだ対応できておらず、現状は1口のみでの充填になる。

現在、トヨタはMIRAIの電池モジュールしか持っていないので、高出力化を図るにしてもその整数倍(FC大型トラックの場合は2倍)でしか対応できない。「それが悩みの種」だと、CJPT社長の中嶋裕樹氏(トヨタ自動車の副社長、CTOでもある)は話す。

「次はもっとスケーラブルにできるよう変えていきます。(燃料電池スタックを構成する)セルの枚数を変えればいいので、物理的には簡単な話です。ある程度サイズを規格化していきながら、車種に合わせた燃料電池スタックを用意していきたいと考えています」

5月17日からは日本で初めて、FC大型トラックの走行実証が始まった。アサヒグループ、西濃運輸、NEXT Logistics Japan(NLJ)、ヤマト運輸の4社が参加しており、アサヒグループはNLJと共同。アサヒグループ/NLJ、西濃運輸、ヤマト運輸はそれぞれ東京を中心とした関東圏でFC大型トラックを輸送業務で使用し、水素燃料活用の可能性と実用性の検証を行なう。

三菱ふそうと日野の統合に関する合同記者会見で佐藤トヨタ自動車社長は、「未来はみんなで作るもの」との考えを示した。自動車産業が向き合う未来は1社だけでどうこうできるものではないと。だから多くのパートナーと手を結ぶんだと。商用車は、みんなで力を合わせたFC大型トラックの誕生と走行実証によって、未来に一歩近づこうとしている。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…