連載

自動車鳥瞰図 by 牧野茂雄

ホンダを直撃した北米BEV逆風

米国市場での売上高が四輪車事業の6割を占めるホンダにとって、北米でのBEV逆風は大きなダメージだ。北米市場がホームマーケットのGMとフォードも同様だった。2025年暦年の決算を分析してみれば明らかだ。各社の決算資料には「BEVだけの損失」は載っていないが、内容を読み込み推計し、その結果を【表】にまとめた。

2025年欧米主要OEMのBEV損失概算

ホンダが明らかにした損失は最大で2兆5000億円。そのうち2026年3月期に1兆3000億円、2027年3月期に1兆2000億円を計上する予定。2026年3月期の連結決算は6900億円の赤字が見込まれている。このなかに1兆3000億円のBEV損失がすべて含まれているのであれば、BEV損失がなければ6100億円の黒字だったことになる。

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この1兆3000億円の中に、純粋にBEVの開発中止による損失、つまり「これまでにかかった開発費」「BEVのための研究開発設備および製造設備の導入費」「すでに発注した部品の購入をやめることに対する補償」などの直接的な損失がどれくらいあるかは明らかにされていない。おそらく1兆3000億円すべてがBEV損失ではないだろう。

フォードも巨額赤字、構図は同じ

米国では、フォードがホンダ同様に2025年だけではなく2027年までの会計年で合計195億ドルの損失があることを明らかにした。このうち2025年分は125億ドルだが、おそらくこのなかで直接BEVに関係した損失は9割、112.5億ドルと推測する。Q1(第1四半期)からQ4(第4四半期)までの合計での損失という点に配慮し2025年の平均為替レートを149.6円として計算すると1兆6830億円の損失である。

2027年までの3年間では、フォードの損失合計は195億ドル。ここにはリストラ費用や商品構成の見直しもあるので、純粋にBEV関連の損失はその9割、175.5億ドルと推計する。この分は2026年の決算に計上されるから3月25日現在の為替レート157.4円で計算して2兆7623億円。ホンダが2年間で計上する損失は最大2兆5000億円と発表されており、金額ではフォードと大差ない。

「アフィーラ」断念が意味するもの

開発・発売を断念したソニー・ホンダのアフィーラ

ホンダは3月25日、追加でソニーグループとのBEV共同事業「アフィーラ」も当面は発売を断念すると発表した。ホンダにとってはパートナーのある事業であり開発中止判断はソニーの同意も要るから、多少の判断の遅れはやむを得ない。ホンダとソニーグループが描いていた「商品像」はまったく違う。ソニーが事業化したいハードウェア&ソフトウェアの搭載プラットフォームとしての自動車を提供するのがホンダの役割である。

ちなみにソニーグループは以前、オーストリアの開発および製造会社であるマグナ・シュタイアーにBEV開発を委託し、試作車の走行実験もマグナが行なっていた。量産もマグナが請け負いたいと打診したが、ソニー側は自前での量産はリスクが大き過ぎると判断しマグナが開発したBEVの事業化は行なわなかった。ホンダとの協業はこのあとである。

「アフィーラ」の重点市場としてホンダとソニーグループが想定していたのは米国だ。その米国で各OEMがBEV展開の縮小を打ち出した背景はふたつある。ひとつはIRA(インフレ抑制法)に定められていた電動車両への税控除をトランプ大統領が9月末で廃止したことだ。そのため10月以降は税控除(実質的には最大7500ドルの連邦補助金)がなくなりBEV販売台数が急落した。

BEV需要を支えていたのは政策だった

もうひとつもトランプ政権がらみである。カリフォルニア州が独自で制定し合計17州とワシントンDCが採用しているACC(アドバンスド・クリーン・カー)規制の強化案であるACCⅡを、トランプ大統領が「違法だ」として廃止にさせたことだ。この件がカリフォルニア州と米連邦政府の間で裁判となり、ZEV(ゼロ・エミッション・ビークル=BEV)販売比率の積み増しを義務付けるACCⅡが棚上げになった。

ACCⅡの最終目標は2035年以降は新車販売のすべてをZEVにすることだ。これは当初のEU規制と同じである。カリフォルニア州は2022年にACCⅡの草案を州議会で採択し、2024年12月17日にEPA(米国環境保護庁)が米連邦政府としても異議はないことを認め、これを2026年1月6日に公表した。

EPAがACCⅡにお墨付きを与えたタイミングは、大統領選挙でトランプ氏が勝利したあとのことであり、その公表は大統領就任式直前だった。そしてトランプ大統領と連邦議会は2025年6月にACCⅡを非承認とし、これを不服としたカリフォルニア州は連邦裁判所に提訴した。

この裁判は簡単には終わりそうになく、その間は現在のACCが適用される。ACCが定めるZEV販売比率は、一定以上の販売台数のあるOEMに対し22%であり、ACCⅡでの35%より大幅に少ない。米国で販売活動を行なっているOEMにとってはACCⅡが「2026年以降のBEV販売台数の後ろ盾」だった。

カリフォルニア州に賛同しACCを採用している州は、軽量車(LV=ライトビークル:車両重量3.5トン以下の乗用車および商用車)販売台数のうち全米の40%強を占める。ここでBEVをさばけるとの見通しで各OEMはBEV拡大に踏み切った。しかしACCⅡは裁判が終わるまで棚上げであり、BEV増産の前提が崩れてしまった。

欧米OEM各社のBEV損失は【表】を参考していただきたい。比較的傷が浅かったのはBMWとルノー、それと1年以上前にBEV事業縮小を決めていたメルセデス・ベンツだ。BMWはBEV専用の車両プラットフォーム(基本骨格)の開発について慎重だった。ルノーも同様。ステランティス(プジョー/シトロエン/フィアット/オペルなど)も同様だ。BEV専用プラットフォームをそろえていたOEMは損失が大きい。

なぜBMWは傷が浅かったのか

ノイエ・クラッセの市販版となるBMW i3

BMWはBEVシリーズ「ノイエ・クラッセ」を発表しておきながら、なかなか市販しなかった。欧州在住のジャーナリスト仲間は「BMWの経営は、必ずしもBEVにどっぷりは浸かっていなかった」と言う。販売の中心を占める3シリーズ/5シリーズはBEVとICV(内燃機関=ICEを積む車両)を同じプラットフォームで作り分けていた。

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逆にBEV専用プラットフォームをそろえていたOEMは損失が大きい。米国ではGMとフォードもBEV開発に多額の資金を注ぎ込んだ。ボルボ・カーズは親会社が中国の吉利ホールディングスであり、BEV展開は吉利の意向だった。

ルノーとステランティス欧州はフルHEVを開発し、HEV展開を一気に加速させた。決算資料にはHEVの販売貢献が記されている。両方とも変速機を使うHEVであり、ルノーは4速MTでステランティスは6速DCT(デュアルクラッチ・トランスミッション)。販売台数は伸びている。BEVの傷が浅かった理由は、前述したICVとBEVの共有プラットフォーム使用だけでなく、HEVのヒットによる損失補填がある。

北米での主力SUVのCR-Vにもe:HEVを設定している。

販売台数統計上だけでなく、各社の決算を調べても2025年はBEV受難の年であり、HEVを商品群の中に持っているかどうかが明暗を分けた年だった。ホンダについて言えば、2020年に新しいHEVとして「e:HEV」シリーズの最初のモデルを投入し、2024年暮れまでには新開発ICEにe:HEVを組み合わせたシステムの市販化を決めていた。これと並行してBEVの開発が行なわれていたために開発費が膨らみ、その後始末が2026と2027年の3月期決算に影響を与えた。こう読むのが正しい。

2025年を振り返れば、BEVはOEM経営の「お荷物」だった。2026年もこの状況は変わらないだろう。政治が約束したBEV需要は欧州でも米国でも「絵に描いた餅」になってしまった。

「いや、中国ではBEVが売れている」という反論は正しくない。数は売れているが、BEVで黒字になっているOEMは極めて少ない。香港市場に上場していて決算書類に信憑性のあるOEMのうち、いわゆるNEV(新エネルギー車)新興勢力では比亜迪汽車(BYDオート)と理想汽車(Li Auto)だけが黒字であり、ほかは赤字だ。

そのBYDオートもLi Autoも一定以上の利益率を得ているのはPHEVであり、BEVではない。同時に、BYDオートは純利益の3分の1が政府補助金である。補助金など制度上の恩典を差し引いて考えないと中国OEMの実力と中国BEV市場の実態を過大評価してしまう。

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