連載

自動車エンブレム秘話

100年続くルノーの“ダイヤモンド”

ルノーの起源は、ルイ(Louis)、マルセル(Marcel)、フェルナンド(Fernand)のルノー(Renault)兄弟が1989年に設立した「Renault Frères」(ルノー フェレール:ルノー兄弟)に遡る。まだ馬車が広く使われていた1905年には、初のタクシー「ルノー AG 1」の開発に成功するとともにモータースポーツなどでも活躍。第一次世界大戦中は政府からの依頼で救急車や航空機エンジン、砲弾なども製造した。

最初のエンブレムは社名のイニシャルである「R」と「F」の文字を装飾的にデザインしたものだった。その後、円形を経てルノーが“ダイヤモンド ロゴ”と呼ぶひし形のエンブレムが世に出たのは1924年のこと。当時のルノー “タイプNM” セダンの中で、「最も高性能なモデル(40馬力)のボンネットに装着された」とある。時代の変遷に伴ってこれまでに9回の変更が行われたが、基本的な「ダイヤモンド形状」は100年経った今も変わっていない。

公式な情報は得られなかったが、ルノーのダイヤモンドは、力強さや時代感覚(モダニティ)、多面性、信頼性、創造性や洗練といった、ルノーブランドが目指す方向性の象徴と言われている。また、ルノーが自動車業界における「宝石のような存在」であることに対する誇りが込められているという説もあるようだ。

2021年に新デザインへ

このダイヤモンドが9回目の修正を受け、現在のカタチに変わったのが2021年。ルノーは「Renaulution 」(ルノリューション = ルノーとレボリューションの造語)と名付けた経営戦略を発表。この4ヵ年計画発表イベントで披露された「ルノー5」(サンク)のプロトタイプに取り付けられて新しいエンブレムが登場した。

その後はコンパクトEVである「ゾエ(ZOE)」の広告キャンペーンを皮切りに、SNSなどで徐々に活用の範囲を広げながら「慎ましやかでありながら効果的」に浸透を図ったとルノーは主張している。2022年からは新車への装着も始まり、2024年には全モデルが新ロゴへの変更を完了している。

時代に対応したデザインに

エンブレムのデザイン変更を指揮したルノーのデザインディレクター、ジル・ヴィダルは以下のように語った。

「(ルノーの)ダイヤモンドは、自動車業界だけでなく、世界中で非常に認知度の高いカタチのひとつです。シンプルな幾何学的形状でありながら、力強いアイデンティティを持っています」

「ひと目でそれとわかる」(ヴィダル談)ルノーのエンブレムは、1992年以降、2004年、2007年、2015年にアップデートを行った。だがヴィダルは、「最新バージョンは時代遅れとなりつつあった」と言い、「ブランドの伝統と新しい時代への突入や未来に向けたシンボルとしてのバランス」を念頭に、現代的なロゴが生み出された。伝統とインパクトのあるダイヤモンドに、「時代に合った新しい価値観を追加することで、我々のブランドを未来へと導く」ことを目的にデザイン変更が行われたという。

また、デジタル化の進行など表現分野の多様化に対応する目的もあった。前回のロータスでも紹介したように、ロゴデザインのトレンドは以前の陰影をつけた立体的なものから2D表現に変わっており、ルノーのエンブレムもミニマリズムなデザインに変わった。

多様性を尊重する社会

ダイヤモンドの普遍的な幾何学形状を維持しながらも、「過剰な効果や色彩を排除し、ルノーのグラフィック遺産に不可欠な存在であるラインを現代的に採り入れました。そうしてシンプルかつ象徴的であるとともに、意味を持ったエンブレムが、時代を超越したカタチになったのです」とヴィデルは説明する。そして、最新のロゴでは、「2本のラインが交差してひし形を形成していることが、(社会の)共生や循環、相互に補い合う関係性と、それらの継続的な発展を物語っています」と説明する。

時代と調和しモダンに生まれ変わったダイヤモンドは、現代社会が突入した新しい時代を体現していると言えそうだ。

PHOTO/Renault Group

2023年に登場した電動SUVの「ロータス エレトレ」。

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