連載

内燃機関超基礎講座

仕組みがわかってみれば非常にシンプルだ。
「まともな技術は簡単なんです。これは誰もが知っている技術しか使っていません」
そう語るのは、東海大学総合科学技術研究所の林義正教授(取材当時)である。

燃焼室の中で燃料が生み出すエネルギーを100とすると、出力として取り出せるのはせいぜい30%程度だ。残りは冷却損失や機械損失として失われてしまう。オットーサイクルの原理上、ピストンを押し下げる役割を果たした排気は、外に逃がさないと次の行程に移れない。つまり、大きなエネルギーを蓄えたガスを、排気管を通じてみすみす大気に放出することになる。この排気損失は大きく、35%に達する。

大気に放出する前の排気にひと働きさせる装置の代表格がターボチャージャーだ。排気流路上にタービンを設けてこれを回転させ、同軸上のコンプレッサーホイールを作動させて吸気を高速で吹き出し、圧力に変換する仕組み。

林教授が考案したのはコンプレッサーの替わりに発電機を設け、圧力ではなく電気エネルギーに変換し、回収する仕組み。「電気は輸送にお金の掛からないエネルギー。だから溜めにくい」ため、バッテリーはあくまでバッファの役割。電気はバッテリーを経由してコントローラーで制御され、モーターを駆動する。動力の混合という意味でハイブリッドの一種だが、現行ハイブリッドが運動エネルギーを電気エネルギーに変換するのに対し、林式ハイブリッドは、エンジンが生む排気エネルギーを常時回生し、電気エネルギーに変換するのが特徴。

排熱回収技術と言えば、ヒートコレクター、ランキンサイクルシステム、熱電変換システムが思い浮かぶ。林式はシンプルかつ低コストで、効率が高そう。なぜいままで気づかなかった?

「視野が狭かったのでしょうね」とひと言。

ル・マン24時間レース用S-ハイブリッド・システム

一見するとターボエンジンのようだが、コンプレッサーの替わりに発電機(各6kW)を設置。吸気圧を高めるのではなく、排気エネルギーを電気エネルギーに変換する。2回のブレーキング間に放出できるエネルギー量の上限は0.5MJと定められているので、大容量のバッテリーは必要なく、容量2M(J0.56kWh)のリチウムイオンバッテリーを想定。

ピットレーンをEV走行できなければいけない規則に対応するため、エンジンとモーターの間にクラッチを置く。制動時に回生する場合、制動力と回生を協調させるのが難しいが、排気で常時回生する仕組みならその心配はなく、挙動に与える影響もない。

ル・マン用ハイブリッドシステムに適用するモーターのテスト風景。出力は25kWで、直径は210mm。効率を上げるためにもタービンの回転は上げたいが、その状態では発電機側のベアリングがもたない。ゆえに減速機を介す。現状では2段ギヤで6分の1に落とす設定。
量産車用S-ハイブリッド・システム

エンジンがした仕事の一部を制動時に回生する従来のハイブリッドシステムの場合、電気エネルギーが間欠的に発生するが、排気エネルギー回生の場合は電気エネルギーが常時発生する。その利点を生かし、エンジンとモーターが常に協調して出力を発生する制御を想定。ドライバーの要求トルクを満たすのに必要なエンジン出力とモーター出力の配分を、統合コントローラーが決める。

ドライバーはただ単に「必要な力が出ている」と感じるのみ。回生した電気エネルギーを常に利用するので、バッテリーは小容量で可。常時アイドリングさせておく必要のある建設機械などにも向いていそう。

4サイクルを繰り返すためには、エネルギーを持った燃焼ガスを外に追い出さなければならない。これが排気損失で35%に相当。林式排気エネルギー回生は、タービン(0.45)~減速機(0.98)~発電機・インバーター(0.85)を経て電気エネルギーに変換される(カッコ内は効率)。35%の排気エネルギーのうち、回生できるのは35×0.45×0.98×0.85≒13%。回生した13%のエネルギーがコントローラーとモーターを経由する間にもロスが生じるので、最終的には11%の取り分。熱効率30%を基準にすると、3割以上改善することになる。

トラックには重たいフライホイールがついている。アイドリングを安定させるためだが、加速時などでは重さが負担になり、出力が食われてしまう。その損失を減らすのが可変質量フライホイール。回転数が落ちてくると、第2フライホイールがモーターの力で回転を上げ、第1フライホイールとスプラインで噛み合い、同調。回転が上がると、第2フライホイールを切り離す。ハイブリッドシステムのモーターを利用すればトルク変動を平滑化できるので、さらにアイドリングの安定性が良くなるし、回転数を下げられる見込み。

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