「まず発進するところ」から

レーシングドライバー荒聖治さんには子供の頃、オフロードバイクの経験があるという。元々は父親とその友人が趣味としていたモトクロスコースに連れて行かれるうちに、自分も乗ってみたくなり、大人たちと共にバイクを楽しんだという。小学校低学年だった。

その後、4輪のレーシングドライバーを目指して活動するうちに、バイクからは遠ざかったが、40代に入って久々にバイクを買って、日常の足として移動を楽しんでいた。いわゆるリターンライダーだが、このところ普通に足として使うことに物足りなさを感じ、かつて夢中になったオフロードバイクに興味が湧いてきたという。

そんな話を聞きつけたのがゲンロクWebの吉岡だ。自動車専門誌『GENROQ』に連載を持つ荒さんとの付き合いは長く、同じくリターンライダーだが、こちらは50代に入ってから急にオフロードへの挑戦心が芽生えたタイプである。荒さんはレースで、吉岡は取材で、それぞれ訪れる「モビリティリゾートもてぎ」の交通教育センターに、オフロードバイクスクールがあることを知り、2人のおじさん初心者ライダーは勇躍体験取材に繰り出した。

みるみる進む課題に

モビリティリゾートもてぎのオフロードバイクスクールは、不定期だが大まかに月1〜2回開催されている。いくつかのコースがあるが、今回取材したのは「オフロード入門コース」というビギナー向けのスクールだ。ここで基礎を身につけ、「林道トレッキングエンジョイ」「林道トレッキングチャレンジ」と徐々にステップアップしていく仕組みだ。

プロテクターは現地に用意されていたものを使用。ニーパッドも装着し、準備は万端!

高倍率で抽選になることも多いというこのスクールは長袖、長ズボン、ヘルメット(レンタルもあり)、グローブ、(くるぶしまで隠れる)シューズ、雨具を持参すれば、車両やプロテクターは現地に用意されており、気楽に参加できることが人気の秘密だろう。スケジュールは、大まかに午前中はアスファルト上でスラロームや一本橋などの基礎課題に取り組み、午後はダートコースへと繰り出す1日コースとなっている。今回も十数名の参加者があり、リピーターも多いという。教習車は125ccの軽量なオフロードバイクあるいはフルサイズの250ccを選び、発進、ブレーキ、荷重移動、ニーグリップといった基本をあらためて体感する内容となっている。

ル・マン24時間など世界レベルの4輪レースで優勝経験を持つ荒さん、2輪のオフロード走行は幼い頃に経験があるとはいえ、すでに40年以上も前のことだ。しかし、実際に走り出せば、そこには4輪のスポーツドライビングにも通じる基礎が数多く存在すること見抜き、みるみる上達していく。


編集吉岡(以下、編集Y) あいにくの天気ですが、もてぎのオフロード入門コースに来ました。午前中はオフロードではなくオンロードでしたけど、久々にオフロードバイクに乗ってみてどうでした?

荒聖治(以下、荒) 楽しかったですね。こういう基礎的な練習って、普通なかなかできないじゃないですか。このスクールではハンドルを切るタイミングとか、どこに体重をかけるとか、そういう細かいところを確認しつつ順番にできるのがいいですね。

編集Y 最初は発進できるか、曲がれるか、という超初歩から始まって、徐々にスラローム、そのあと一本橋と来て、みるみる課題が進んでいくんですけど、最後には「こんなのクリアできるの?」っていう、かまぼこ型の一本橋まで出てきました(笑)。それにしても荒さん、久々とは思えないほど乗れてましたね。

荒 だんだん思い出してきました(笑)。バイクでは体重移動って、すごく重要じゃないですか。その感覚を最初にトレーニングできるのはいいですね。

編集Y インストラクター陣が「なぜそうなるのか」をちゃんと説明してくれるのもわかりやすかったです。


スラロームや一本橋といった課題は、一見すると単純な練習に見えるが、実際には視線、ハンドル、アクセル、ブレーキ、クラッチ、そして身体の動かし方という2輪を操る要素が凝縮されている。


荒 振り返るとやっぱり最初にやったスラロームが基本だと思いました。車体の動きとグリップ感、それにブレーキの使い方。いろんな基礎的な要素が組み合わされていますね。

編集Y 4輪もスラロームの練習をしますけど同じですね。2輪も4輪も基本的なスポーツ走行の勘所というか、まずはそこからスタートするのかと思いました。しかし一本橋なんて教習所でやったはずなのに、何十年も経つとこんなにできなくなるんだな、としみじみ感じました(笑)。ジグザグの一本橋なんて、もう最初の入り口で落ちましたから。

荒 昔はできたはず、という記憶だけが残っているんですよね。でも実際にやってみると身体は思ったように動かない(笑)。

125ccだからこそ

今回ふたりが選んだのは125ccの「CRF125F」だった。250ccの「XR230」も選択できたが、入門という目的を考えると、軽量な125ccには大きなメリットがあった。


荒 やっぱり軽さって素晴らしいなと思いました。今、この年齢になって大パワーとか最高速とか、そういうものはもういらないから、バイクと一体になって乗るほうがストレスが少ないし、素直に楽しいです。

編集Y 125はサイズ感も良かったです。足がベッタリつくという安心感もありました。250だと車格もあるし、パワーもあるし、乗りやすい部分もあるけど、勉強するなら125のほうがいいという話でした。実際、今回選んでみて正解だったと思います。それに125と言っても競技用はパワフルで、不足は感じませんでした。

荒 「転んだらどうしよう」とずっと考えながら走るのは面白くないですからね。あれくらいのサイズだと、純粋に走りに集中できる。インストラクターからも、入門で技術を学ぶなら125ccのほうが「ごまかしが効かない」という説明がありました。4輪でいうとロードスターとかハチロクみたいな感じですね。まずベースというか、自分の中に軸を作ってからパワーのあるモデルに挑戦する方がいいですね。

ダートで見えた2輪の難しさと楽しさ

昼食を挟んで、午後はいよいよダート路面へ。雨は一向にやまないが、むしろ2人ともダートを走れることにワクワクしている。ここではブレーキロック寸前のコントロールから始まり、8の字や不整地コース走行へと進んでいく。


編集Y ついにオフロードコースに来ました。最初は加速、減速、そしてリヤブレーキロックからでした。4輪でも同じようなことをやりますよね。4輪では簡単にロックできますが、バイクでロック寸前をコントロールするのは、あらためて難しいけど大事だと思いました。

荒 バイクって前後のブレーキを手と足で操作するじゃないですか。後ろだけロックさせるとか、そういうコントロールは2輪ならではですよね。フロントロックしたら一気に破綻するというのも2輪特有です。今回はABSなしの車両だったこともあり、濡れたダートでは緊張感がありましたが。

編集Y ABSがないと言われると、ちょっとドキッとしますね。しかも濡れたダートだからさらに滑る。未知の領域なのでもうおっかなびっくりです。


オフロードではリーンアウトでタイヤに適切な荷重を与えるが、講習ではこうした基本姿勢を繰り返し体験することで、路面とタイヤの関係を身体で理解していく。オフロードという環境だからこそ、得られることも多い。もちろんオフロードには転倒リスクがある。しかしスクールでは、転倒を過度に恐れるのではなく、基本姿勢や安全な受け身を身につけたうえで、路面の変化や滑りを体験することが重視されていた。


編集Y 転んでもいいですよ!って言われたけど、そういう時ほど転べないものですね。あと、8の字をやっているとき、先生に何度も「もっとお尻をずらしてください」と言われました。

荒 そんなに変わるのかなと思うんだけど、実際にやるとめちゃめちゃ違う。体感できるくらい違うんですよね。どこに乗って、どう荷重をかけるか。それを継続して走っていると、だんだん掴めてくる。そこがスクールの面白いところですよね。

編集Y そういう一人ひとりに合わせたアドバイスがあっていいですよね。何千人も見てきたインストラクターが、その人がどこで悩んでいるのか、ある程度わかるんでしょうね。

荒 4輪の場合は、ブレーキやアクセル、ステアリングで荷重を作っていきますが、2輪はそれに加えて自分の身体の位置そのものを変えられるのが面白くもあり難しくもあります。4輪経験のある人が2輪に乗ると、ゼロから始めるわけじゃないんですよね。ブレーキを使ってサスペンションを沈めるとか、荷重を移すとか、タイヤがどうグリップするかとか、そういう経験がそのままヒントになります。

編集Y 確かに、逆に2輪で身体を使って荷重を変える感覚を知ることで、4輪の動きについて考えるきっかけにもなりました。そう考えると、4輪のモータースポーツ経験を持っている人が2輪に挑戦するのは面白いですね。

荒 逆もそうかもしれないですね。2輪で身体を使って荷重を感じられる人が、4輪に挑戦すると、また違ったものが見えてくるかもしれません。

「行ける」と言われれば行ける

午後のレッスンの最後に、アップダウンやコーナーなどがあるショートコースでそれまで練習してきた操作を試す。


編集Y ショートコースには、「これ行けるのかな?」って思うような勾配や狭さの場所もあって一瞬怯みました。でもスクールだから「行けますよ」と言われると、「あ、行けるんだ」と急に世界が変わった感じがありました。

荒 その未知のゾーンに入るドキドキ感も面白いんでしょうね。今回は入門編だから平坦なところやショートコースを走りましたけど、次のトレッキングコースに行けば、さらに引き出しが増えると思います。


スクールは入門の次に「オフロードエンジョイ」、さらに「チャレンジ」へとステップアップしていく。まずは平坦な場所で基本を身につけ、それを傾斜地や山道へ応用していく構成だ。今回の体験を振り返ると、ふたりが強く感じたのは、オフロードそのものの楽しさだけではない。むしろ、そこに用意された基本練習の重要性だった。レッスン終了後、教習車に給油をして洗車場所に移動した後、久しぶりのオフロードを楽しんだ荒さんがこう締めくくった。


荒 怪我をしたくないというのもあるから、自分のスキルや目的に合ったプランを選ぶのは大事ですよね。でも今日乗ってみて、次のステップに進んでみたいという気持ちにはなりました。小学生の頃は、見よう見まねで、とにかく疲れるまで走っていました。もう何十年も乗ってなくて感覚を忘れている状態でリハビリみたいな感じでしたが、走っているうちに感覚を取り戻して行けました。改めて基本的なところをやるっていうのは、すごく重要だなと思いました。また来ましょう!

編集Y ぜひ! こういう新しい学びってこの歳になるとなかなかないですからね。


速さを競うだけが、モータースポーツの楽しみではない。タイヤが滑り、身体を動かし、グリップを探る。その一つひとつを丁寧に理解していくことで、これまで知っていた「走る」という行為が、少し違って見えてきた。これは2輪も4輪も同じだ。もてぎのオフロードバイクスクールは、そんな基本の奥深さをあらためて教えてくれる1日になった。

モビリティリゾートもてぎ・オフロードバイクライディングレッスン

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