Aston Martin DBX S
目的地はサーキットではなくオフロード

今回、試乗したのは「アストンマーティン DBX S」だ。2019年に登場したアストンマーティン初となるSUV「DBX」の最高出力を当初の550PSから、727PSにまで高めるなどして、大いに進化した最新モデルである。
そんなスーパーSUVに乗って、どこへ行こうと考える。スポーツカーに匹敵する走行性能でワインディングを駆けてもいい。秋深まる美しい景色のワインディングを優雅に走らせてもいい。だが、今回は「クルマに乗って、バイクを楽しみに行く」というライフスタイルを実践してみた。DBX Sのステアリングを握って向かった先は、モビリティリゾートもてぎ。言わずもがなのホンダ直系サーキットである。今年F1に参戦する組み合わせ、つまり「アストンマーティン×ホンダ」という、少々強引なこじつけから始まった企画である。
もてぎにはレースやイベントでしばしば訪れるが、今回の目的はいつものサーキットではない。その敷地内、北ゲートそばにある交通教育センターで行われるオフロードバイクスクールに参加するのが目的だ。幼い頃の話だがオフロードバイクを楽しんていた。カートや4輪レースを始める前、父親に連れられ訪れたのはモトクロス場だった。スーパークロスブームだった当時、神宮球場で開催されたレースを見て、自分でも走ってみたいと思った。当時はまだ小さく、当然テクニックも知識もない。見よう見まねで走り、疲れるまでバイクを走らせる。それでも、とにかく楽しかった。
いつでも引き出せる余裕

数十年ぶりにバイクでオフロードコースを走る。しかもそこまでの移動はアストンマーティン DBX Sだ。安易な組み合わせで選んだ車種だったが、これが乗ってみたら単なるハイパフォーマンスSUVではなく、全方位の魅力にあふれた最新アストンマーティンであると気づかされた。正直、これまでDBXに触れる経験はほとんどなかったが、スタイリングはもちろん、カーボンを用いたディテールや、やや跳ね上がって開くドアなど、アストンマーティンらしい仕立てが随所に見られ、ひと味違うSUVであることはすぐにわかった。
ドライバーズシートに収まると、背中をしっかり支えるシート形状とステアリング、ペダルを含めて身体の位置が自然に決まるドライビングポジションなど、まるでスポーツカーに座っているような感覚だ。ところが、実際に走り出すと視点が高く、周囲の状況が把握しやすい。SUVとしてのメリットを持ちながら、ステアリングを切った時の反応や車体の動きは、背の高いクルマを運転していることを忘れさせる。サスペンションは快適性重視ではなく明確にスポーティな方向だが、その硬さがそのまま不快感につながるわけではない。前後サスペンションがしっかりストロークしながらボディはフラットに動く。

力強いサウンドとともにアクセルを踏み込めば一気に速度が高まっていくAMG製の4.0リッターV8ツインターボユニットも魅力だ。アストンマーティンらしい味付けが施され、単なる高性能SUVとは異なるキャラクターを感じさせる。もちろん、700PS超のパワーを高速道路で使い切ることはないが、使わないから意味がないわけではない。必要なときにはいつでも引き出せる余裕が大事だ。高性能車で淡々と長距離を走る。この余裕がDBX Sで旅をする楽しさだ。
2輪でも生きる4輪の経験

歴史的な長雨の東京と同じく、モビリティリゾートもてぎも小雨だった。交通教育センターのオフロードバイクスクールは、不定期だが大まかに月1〜2回開催されている。いくつかのコースがあり、今回は数十年ぶりのオフロードので、「オフロード入門コース」というビギナー向けのスクールに参加した。ここで基礎を身につけ、「林道トレッキングエンジョイ」「林道トレッキングチャレンジ」と徐々にステップアップしていく仕組みだ。
スクールのスケジュールは、大まかに午前中はアスファルト上でスラロームや一本橋などの基礎課題に取り組み、午後はダートコースへ繰り出す1日コースだ。終日、経験豊富なインストラクターが懇切丁寧に教えてくれる。教習車は125ccの軽量なオフロードバイクあるいはフルサイズの250ccを選び、発進、ブレーキ、荷重移動、ニーグリップといった基本をあらためて体感する内容となっている。今回は125ccを選んだ。
4輪と2輪、オンロードとオフロード。一見まったく別世界だが、実際にバイクを走らせると共通項は多い。ブレーキを使って、あるいはポジションを変えることで荷重移動して旋回する。クルマで考えることをバイクでも同じように考える。クルマだったらこうやったら曲がる。じゃあバイクなら、このブレーキの使い方、このサスペンションの沈め方でどうなるのか、と考えると楽しい。
2輪の入口としてのオフロードバイク

4輪レーシングドライバーとして、数十年を経て改めてオフロードバイクに乗ってみると意外な発見があった。今のほうが当時より全然うまく乗れると感じたのだ。もちろん年相応に身体はくたびれているので無理はできないが、テクニックという意味では4輪で経験してきたことが活かせると感じた。
もちろん、2輪特有の技術は必要だ。それでも、サーキットで4輪を走らせてきた経験があるなら、その経験をゼロからやり直す必要はない。むしろ、オフロードという環境が、荷重移動やタイヤのグリップ、スライドといった要素を非常にわかりやすく教えてくれる。4輪でサーキット走行経験があるなら、アドバンテージになるだろう。
サーキットで、いきなりバイクを倒し込んで走れと言われても難しい。バンク角を深く取るには経験が必要だし、転倒のリスクも大きい。その点、オフロードバイクなら低速域でもバイクの挙動を大きく感じられる。リヤを滑らせるなどの挑戦を、比較的低い速度で体験できるのがオフロードだ。転倒リスクはもちろんあるが、ロードコースで高速走行中に転倒するのとは深刻さが違う。今回も翌週にレースを控えた身であるので、決して無茶はしなかった。それでもバイクを走らせる楽しさは際立っていた。
だからこそ、4輪ドライバーが2輪の世界に踏み込む入口として、オフロードバイクは面白い。これは、昔乗っていたからではない。クルマを深く知るために、あえてバイクに乗る。そんな逆説的な楽しみ方もあるのではないかとすら思った。
自由になれるスーパーSUV

1日オフロードバイク走らせてみて、純粋に楽しかった。充実感に包まれつつ、再びDBX Sに乗り込み家路を目指す。さっきまで跨っていたバイクとはまったく違う世界が広がる。強力なエンジンの余裕を感じながら高速道路を流す。DBX Sの700PS超を、この旅で使う場面はほとんどなかったが、こういう高性能車に乗るのは実は安全だ。もちろん性能が高いからといって無条件に安全になるわけではなく、重要なのはその性能を自分のペースで使うことだ。余裕のあるパワー、良好な視界、強力なブレーキ、そしてドライバーの意思に忠実に応えるシャシー性能。それらが長距離移動を穏やかなにしてくれた。
そして、今回のような旅で効いてくるのがSUVとしての実用性だ。オフロードバイク用装備を積んで、家族や友人の一泊分の荷物も載せてもまだまだ余裕がある。スポーツカーとしての濃密なドライビング感覚を残しながら、日常から少し離れた場所へ出かけるための実用性もある。ACCやレーンキープなどの先進運転支援も備えるが、それに頼らずにドライビングを楽しみながら距離を重ねていく感覚が楽しい。

オフロードコースでバイクを思い切り走らせ、その道中はスーパーSUVを穏やかに走らせる。その対比も面白い。速さと静けさ。舗装と土。4輪と2輪。一見、対極にあるものを、1日のなかでつなげる。それこそ今回の旅で見つけたDBX Sの新しい魅力だった。朝からバイクで遊び、疲れた身体をシートに預けて帰ってくる。そんな週末をアストンマーティン×ホンダで過ごす。少し贅沢すぎただろうか。だが、こんなライフスタイルも、なかなか悪くない。
PHOTO/モーターファンBIKES、GENROQ
SPECIFICATIONS
アストンマーティン DBX S
ボディサイズ:全長5039 全幅1998 全高1680mm
ホイールベース:3060mm
車両重量:2245kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:535kW(727PS)/6250rpm
最大トルク:900Nm/3000〜5250rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前285/35ZR23 後325/30ZR23
0-100km/h加速:3.3秒
最高速度:310km/h
車両本体価格:3590万円

