全幅935mm! “すり抜け命”とは真逆を行くスクーター【ホンダ・ジョーカー50】
HONDA ジョーカー50|1996年発売
1996年(平成8年)8月、ホンダが送り出したジョーカー50は、当時の原付スクーターを見慣れた目にはかなり異質だった。フロントからリヤまで低く長く伸びるロー&ロングのボディに、後端へ向かって絞り込まれるティアドロップ形状。そして低くゆったりしたシートに、ドーンと広がるワイドハンドル。その狙いは最初から「アメリカン・カスタム」だった。
なにしろ全幅は935mm。当時なら「そんなにハンドルが広かったら、すり抜けできないじゃん」なんて声も聞こえてきそうなサイズだ。ちなみに同年式のライブディオZXの全幅は630mmだから、300mm(30cm)も幅広なのだ。
でも、ジョーカーの魅力はそこにある。原チャリって、渋滞の横をスイスイ抜けられることだけじゃない。気持ちにちょっと余裕を持って、バイクそのものの姿や乗っている時間を楽しむ。スポーツスクーターが速さを競っていた時代に、ジョーカーはまったく違う方向を向いていた。

もちろん、アメリカンっぽいのはシルエットだけじゃない。クロームメッキ仕上げのヘッドライトケース、前後ガーニッシュ、極太グリップを備えた幅広ハンドル、前後ディッシュタイプのキャストホイールなど、細部まで徹底して作り込まれている。大型アメリカンへの憧れを、50ccの世界へギュッと凝縮したような仕立てだ。
いっぽうで、ちゃんとスクーターらしい便利さも残している。シート下にはハーフサイズヘルメットを収められるメットインスペースを確保。フロントにはディスクブレーキを採用するなど、単なる雰囲気モノでは終わっていない。

エンジンは、49cc空冷2ストローク単気筒で、最高出力は4.9ps/5750rpm。当時は7psオーバーのスポーツスクーターも珍しくなかったことを考えると、数字だけならかなり控えめだ。
ただし、これも狙いは明確だった。ワイドレシオのVマチックを組み合わせ、低・中速域で粘り強い走り味を狙いながら、静粛性や低振動性に配慮。パワーを追いかけるより、このスタイルで気持ちよく街を流す。ジョーカーは最初からそういうスクーターだったのである。
【SPECIFICATIONS|ジョーカー50】
総排気量:49cc
エンジン:空冷2ストローク単気筒
最高出力:4.9ps/5750rpm
最大トルク:0.62kgm/5500rpm
全長×全幅×全高:1885×935×1060mm
重量:89kg
タイヤ:100/90-10・100/90-10
発売当時価格:24万5140円(税込)
2カ月後には89cc! ジョーカー90なら“ふたりでゆったり”もできる

ジョーカー50の発売から約2カ月後となる1996年10月には、90ccに排気量をアップした「ジョーカー90」が登場。基本となるロー&ロングのスタイルはそのままに、ダブルシートを採用し二人乗りを楽しめるモデルへと発展した。
ジョーカー90が加わったことで、ジョーカーのキャラクターはさらにハッキリする。
50ccでひとり気ままに流すのもいい。ジョーカー90なら、長いシートにふたりで座って街をのんびり走ることもできる。「何馬力?」「最高速は?」なんて数字を追いかけるスクーターとは、楽しみ方そのものが違う。
89ccの空冷2ストローク単気筒は最高出力8.2ps/6500rpmを発揮し、フロントには油圧式ディスクブレーキ、前後に100/90-10のワイドタイヤを装備。車両重量は50より5kg重い94kgとなる。見た目だけ大柄なのではなく、90ccクラスとして使える中身もしっかり与えられていた。

50と90を並べてみると、ジョーカーが持ち込んだ価値がよくわかる。便利だからスクーターに乗る。速いからスポーツモデルを選ぶ。それだけではなく、「この姿が好きだから乗る」という選択肢を堂々と提示したのだ。
後にジョーカーは、ジョルノに続くホンダの「ファッション・スクーター」第2弾として位置づけられている。ジョルノがイタリアン・テイストなら、ジョーカーはアメリカン・テイスト。スクーターを単なる移動手段ではなく、ファッションやスタイルで選ぶ流れを広げた1台でもあった。
【SPECIFICATIONS|ジョーカー90】
総排気量:89cc
エンジン:空冷2ストローク単気筒
最高出力:8.2ps/6500rpm
最大トルク:0.96kgm/6000rpm
全長×全幅×全高:1885×935×1060mm
重量:94kg
タイヤ:100/90-10・100/90-10
発売当時価格:26万5740円(税込)
1997年には[ホワイトスペシャル]も登場

ジョーカーのスタイル路線を象徴するような展開が、翌1997年にあった。
ジョルノ、ジョーカー50、Dio ZX SPというキャラクターのまったく違う3台に、そろって「ホワイトスペシャル」が設定されたのだ。共通して採用されたのは、高級感と清涼感を狙ったパールシーシェルホワイト。ジョーカーでは、この白によって“クールでゴージャス”なイメージを打ち出していた。
赤や黒ではワイルドに見えたジョーカーも、全身を白で包むとずいぶん印象が変わる。それでも丸目ライトやワイドハンドル、ロー&ロングのシルエットは相変わらず濃厚。色ひとつでキャラクターまで変えてみせるあたりも、ジョーカーらしい。
全幅935mmの堂々とした車体で、「ゆったり乗ればいいじゃん」とでも言うようなジョーカー。その価値観は、せかせかしがちな今の街で見ると、むしろ新鮮かもしれない。
※この記事は月刊モトチャンプ2025年12月号を基に加筆修正を行っています
【モトチャンプ編集部】
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