連載

自衛隊新戦力図鑑

より長い航続距離と豊富な武装

現在、航空自衛隊はF-15、F-2、そして2019年に部隊配備を開始したF-35の、3機種を運用している。このうち、もっとも古いF-15は一部が近代化改修を受けて延命されるものの、多くがF-35に置き換えられる。「GCAP」次世代戦闘機は、2035年以降に退役が見込まれるF-2に代わる存在となる。

航空自衛隊では現在、3機種の戦闘機を運用している。2000年より配備が始まった国産戦闘機F-2は2035年頃からの退役が見込まれる。「GCAP」は、これを代替する(イラスト/防衛省)

今年7月、イギリスで開催されたファーンボロー航空ショーにおいてGCAP機の新たなコンセプトモデルが公開されたが、これまで公開されてきた「ラムダ翼」デザインから一変し、広く大きな「デルタ翼」が採用された。デルタ(Δ)翼とは、文字通り三角形型の翼をあらわす。さらに、展示された原寸大模型から、既存の戦闘機に比べてかなり大型の機体が計画されていることも判明した。

以前の「GCAP」コンセプトアート。既存のステルス機が台形の翼を採用するなかで、翼の後縁が「ラムダ(Λ)」型の「ラムダ翼」で描かれていた。ラムダ翼は空力効率に優れている(イラスト/BAEシステムズ)
ファーンボロー航空ショーで公開された原寸大コンセプトモデル。既存の戦闘機と比較してかなり大型の機体となったようだ(写真/BAEシステムズ)

デルタ翼は高速性能に優れ、翼の面積が大きくなることで翼内燃料タンクを増大(すなわち航続距離を延長)することができる。また、ステルス機はミサイル等の兵装を機内のウェポンベイに格納する必要があるが、機体の大型化により搭載できる兵装量を増やすことができる。つまり、新たなコンセプトモデルから推測されるGCAP機は「より長い航続距離を持ち、より多くの武器・装備を持ち運ぶことができる戦闘機」と言えるかもしれない。戦闘機というよりは、戦闘爆撃機に近い印象を受けるが、この能力の背景には現代戦における戦闘機の役割の変化があると思われる。

領域横断作戦のなかでの戦闘機の役割

現代戦は陸・海・海・宇宙空間、さらにサイバー空間や電磁波空間など、さまざまな戦闘空間(領域)を横断して互いに連携しあう「領域横断作戦」であり、さまざまな装備・部隊がネットワークで繋がろうとしている。このような戦場のなかで、戦闘機の役割は多様になっている。

たとえば、F-35は優れたセンサーとネットワーク機能を持つことで知られているが、同機をステルス能力のある空中センサーとして活用し、敵に発見されることなく、味方の攻撃を誘導する役割が期待されている。また、GCAP機は戦闘用無人機の随伴が計画されているが、危険な攻撃や哨戒を無人機に委ねて、有人機は安全な後方に位置する戦い方も考えられる。そうなれば、戦闘機自身が運動性能を発揮して戦う機会は大きく減少するだろう。

防衛装備庁が取り組む「遠隔操作型支援機技術の研究」における無人機の模型。次期戦闘機は、こうした無人機を随伴し、危険な役割を有人機に代わって実行することが想定されている(写真/筆者)

「戦闘機の戦い」と聞くと「戦闘機同士の戦い」を想像しがちだが、そうした戦い方が大きく変わろうとしている。複数の領域にまたがる大きな枠組みのなかで、将来の戦闘機にはどのような役割を果たすのだろうか? コンセプトモデルを公開した英BAEシステムズ社は、このモデルが最終決定型ではないとしているが、さらなる試行錯誤を経て、次世代戦闘機の姿が完成していくことになるのだろう。

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