連載

自衛隊新戦力図鑑

自動車なみの低速飛行で着水

広島県江田島市の海上自衛隊第1術科学校では毎年3月の後半に「春のつどい」というイベントを開催している。本年の開催は3月29日。旧海軍時代からの歴史的な建造物を間近で見られる機会ともあって、遠路訪れる来場者も少なくないが、イベントの目玉となったのが救難飛行艇US-2の離着水展示だった。最寄りの岩国基地から飛来した第71航空隊所属のUS-2が、第1術科学校の目の前に広がる江田島湾で着水・離水を披露したのである。

江田島は旧海軍時代には海軍兵学校が置かれ、当時の建物がそのままに残されている。戦後は、海上自衛隊の幹部候補生学校や第1術科学校が置かれ、引き続き教育の場となっている。写真は旧海軍兵学校生徒館、現在の幹部候補生学校(写真/綾部剛之)

US-2は長い航続距離を持ち、海が荒れやすい外洋での離着水が想定されている。そのため、最大3mの波のなかでも着水できるが、これは同機が着陸時に時速90km/hという低速で飛行することで、波の衝撃を緩和できるからだ。一般的な旅客機も着陸時は速度を落とすが、それでも時速250km前後であるのに対して、US-2はその1/3程度となる。どれほどの低速か、わかるだろう。

着水するUS-2。このときパイロットは機首を水面に対して6.5度に維持するという。これにより、機体の後部が水面に対して水平となるそうだ(写真/鈴崎利治)

なぜ、このような低速が可能なのだろう? 航空機は速度が遅くても、翼の迎え角(進行方向に対する角度)を大きくすることで揚力を得ることができるが、これは失速の危険がともなう。翼の上面後方の気流が乱れて、揚力を一気に失ってしまうのだ。しかし、US-2はBLC(境界層制御装置)という機構を翼に備えており、深い迎え角でも気流が乱れないよう設計されている。これにより時速90km/hという低速での着水を実現できるのだ。

一般旅客機の1/10程度の離水滑走距離

着水した機体は、海面上を移動するわけだが、地上と違い車輪で向きを変えるとったことはできない。そのため、4発のエンジンの出力を変化させることで推進力を得て、また左右に曲がるのだという。これは水面に停止するときも同じだ。基本的に内側2発のエンジンを前進、外側2発をリバース(後進)とすることで停止状態を維持する。また、風や波の状態も考慮して、パイロットはエンジンを巧みに操作する必要もあるようだ。

水面では4発のエンジンの出力を調整し、移動や方向転換、停止を行なう。動かない地面と違ってその場で停止するにもテクニックが必要なのだという(写真/鈴崎利治)

離水滑走距離も、着水時と同じようにとても短い。波や風、機体重量により変化はするが、基本的に120m程度の滑走で離水できるという。やはり、翼の迎え角を深くとり、低速でも揚力を得ているためだ。実際、目の前で見てみると、あっという間の離水だ。この滑走距離は一般的な旅客機の1/10以下である。

わずかな距離で離水し、来場者を驚かせるUS-2。「春のつどい」では2年連続でUS-2の離着水展示が行なわれたが、来年も実施されるかは、現在のところ未定とのこと。ぜひ、来年も実施してもらいたいところだ(写真/鈴崎利治)

さて、ここまでエラそうに解説してしまったが、これらの情報は第1術科学校の公式インスタグラムが「春のつどい」にあわせて行なったLive配信で紹介されたものだ。操縦資格を持つ隊員が出演してUS-2離着水の解説を行ない、私自身とても勉強になった。同校は積極的にインスタグラムを活用しており、さまざまな情報発信を行なっている。興味のある方は、ぜひフォローしてみるといいだろう。

[第1術科学校 インスタグラム:https://www.instagram.com/jmsdf_1mss

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