連載

自動車鳥瞰図 by 牧野茂雄

7年で日産の米国販売は半減した

現行の米国日産の代表的なラインアップ

日産の米国販売モデルについて、2017年を100としたときの2024年販売実績を比べると、セダン系は「セントラ(サニー)」が70で「アルティマ」が45、SUV系は「ローグ(日本ではエクストレイル)」が63で「ムラーノ」が25。米国で「トラック系」に分類されるPUT(ピックアップ・トラック)、ミニバン、SUVの合計は62だ。セダン、クーペ、ステーションワゴンなど「乗用車系」は45。「トラック系」「乗用車系」の合計、「インフィニティ」を含めた日産ブランド全体では54である。

つまり、2024年の米国での日産車販売台数は2017年以降の7年間で半減したことになる。同じ計算をするとトヨタは92、ホンダは87。米国全体では93。日産の落ち込み幅は飛び抜けて大きい。

COVID19蔓延から世の中が回復し始めた2022年で見ると、日産の米国販売台数は前年比74.3%(25.7%減)と低迷した。ホンダも不振だったがトヨタは前年比90.4%(9.6%減)、米国市場全体は92.1%(7.9%減)と2桁のマイナスにはならなかった。2022年の日産は、とくに第2四半期(4〜6月)が前年同期比36%とマイナスが大きかった。

日産はインフィニティ、トヨタはレクサス、ホンダはアキュラを含む(作表:牧野茂雄)

CVTの不具合と4WDの問題

2代目日産ローグ(ROGUE)

2014年発売のT32型「ローグ」は米国の消費者情報誌『コンシューマー・リポーツ』誌が「CVTの騒音」「CVTの不具合」「CVT起因の加速の悪さ」についてのユーザー報告を問題視した。T32型最初期の2014〜15年モデルではCVTの信頼性の低さがこのクルマの評価を下げた。

日産は「ローグ」の年次改良を続け、2018年秋販売の後期モデルではCVTの保証期間を延長しCVTそのものも改良したことで「CVTトラブルは改善された」とのユーザー評価が増えたものの、かつての日産車に比べると評価は低めだった。

2代目「ローグ」の販売台数は、2013年11月のFMC(フルモデルチェンジ)投入直後の2014年以降は増え続けている。しかし、発売当初は「新車効果」と呼べるほどの販売台数ではなかった。現在の3代目「ローグ」も『コンシューマー・リポーツ』誌では2代目の評価を引きずってしまった。不運ではあるが、COVID19蔓延が解消されても販売台数は米国日産の期待ほどには伸びていない。

日本ではすでに販売されていない「サニー」後継モデルの「シルフィー」がベースの「セントラ」も、「ローグ」同様にCVTの不具合が問題になった。2012年秋にフルモデルチェンジされたB17型では走行10万マイル(約16万km)までにトラブルが発生した事例が多く報告され、集団訴訟にも発展した(和解は2019年)。

「セントラ」の販売台数推移は「ローグ」に似ている。通常はFMC翌年が販売台数のピークになることが多いが、「ローグ」「セントラ」ともにモデルライフ途中でのフェイスリフト(ビッグマイナーチェンジ)を経て売れ行きのピークを迎えている。FMC直後が振るわなかった最大の理由はCVTだった。

「ローグ」はもうひとつ、4WD系の弱点も指摘されていた。ハルデックス製の制御式クラッチを介して車体前方に横置きしたエンジンからの駆動力を後軸デファレンシャルギヤ(差動歯車)に伝える機構だった。このシステムは応答性が良くコンパクトなことからVW(フォルクスワーゲン)「ゴルフ」やフォード「フォーカス」も使っていた。

4WDへの切り替えは油圧ピストンで行なう。油圧ピストンがボールベアリングを介してクラッチを押し、後輪に動力伝達される。機械式と電子制御式のハイブリッド(混合)だが、クラッチの反力をボールベアリングで受けるため4WDにしている間は回転抵抗が増え、その分だけ燃費が悪くなる。一方、電磁石を介してクラッチを押し付けるGKNやジェイテクトのシステムは押し付け力を増やしても回転抵抗は増えない。

VWやフォードは燃費を多少犠牲にしても4WDとしての走破製と安定性を得る使い方だった。日産は「滑ったときの4WD」という制御だったが、ハルデックス・システムの車両適合で苦労したと日産の開発陣からは聞いている。日産が選択した後軸用デファレンシャルギヤのサイズは「ローグ」の車両重量や米国での用途に対して小さく、高速走行時やトーイング(キャンピングキャビンやボートなどを牽引すること)時には潤滑油が高温になるという現象が開発時から発生していたためだ。

SUVを高速走行させたり登坂路でトーイングを行なったりすると、デファレンシャルギヤの温度は100℃以上になるほかベアリングとオイルシールも発熱する。これを冷やすため潤滑油を供給するのだが、潤滑油が撹拌されればオイルを回すためにエネルギーを使う。エンジンから伝達された動力の10%程度をここで消費してしまうこともある。

リヤデファレンシャルが一定温度以上に過熱すると、オーバーヒートを防ぐため後軸への動力伝達が強制的に切られてしまう。この安全装置は必須である。路面が濡れていない高速道路の走行では4WDにならなくても大した不都合はないが、長い坂道を登っている最中にこれが起きると坂を登れなくなる。米国のYouTubeにはローグのリヤデファレンシャルギヤを分解し「これがトラブル」と説明する動画が何件もアップロードされた。

「ローグ」と同じリヤデファレンシャルギヤを使う三菱「アウトランダー」も、件数は少ないながらも「ローグ」同様のトラブルに見舞われた。通常仕様(PHEVではない仕様。PHEVは後軸を電気モーターで駆動する)の「アウトランダー」は、日産・三菱のアライアンスの関係から「ローグ」と同じリヤデファレンシャルギヤを使っていた。サイズは三菱「エクリプスクロス」用より小さかったため、4WDマニアからは「三菱らしくない」と酷評されていた。

その後三菱は、「アウトランダー」通常仕様のリヤデファレンシャルギヤを「エクリプスクロス」のものに交換して熱負荷問題を解決し、制御ロジックも全面変更し三菱独自のものに載せ替えた。現在の「アウトランダー」通常仕様は市場評価が高い。

こうした事実から、日産が米国での販売台数を下げた原因のひとつが、間違いなくCVTと4WD用リヤデファレンシャルギヤという「機械機構のトラブル」にあると推測できる。

CVTトラブルは「アルティマ」「パスファインダー」でも発生し、風評被害も含めて日産のブランドイメージを毀損したことは間違いない。「ローグ」の4WDシステムのトラブルは、4WDシステムへの高い信頼性を求める積雪地域や山岳地、中央のコーンベルト地帯などで敬遠理由になった。

さて、日産はこれからどうするだろうか

そして、2023年からはHEV(ハイブリッド車)とPHEV(プラグイン・ハイブリッド車)を持たないことが日産の販売台数減の理由として加わった。かつて日産には「ティーノ」HEVがあった。しかし、これをごく少数のテスト販売だけで終わらせ、以後のHEV開発を打ち切らせたのは、当時日産CEOだったカルロス・ゴーン氏である。

米国でのクルマの使われ方への配慮に欠けたCVT偏重とリヤデファレンシャルギヤのサイズ選択が、日産ブランド力に傷を付けた。そこにHEV不在が追い討ちをかけた。米国でも欧州同様にHEVが売れている。結果論ではあるいが、販売台数の推移からはこうした日産不振の原因が見えてくる。

個別の商品で発生するトラブル、けして大事故を誘発したようなトラブルではなくても、何件か続けばいまの時代は「YouTube」やSNSで世の中に拡散してしまう。そして、一度落ち込んだブランドイメージの回復は極めて難しい。

日産にも「e-POWER」というシリーズ(直列)HEVがある。しかし、エンジンは発電専用であり、走行には直接使われないため連続高速走行には向かない。三菱が日産よりも先に開発した「アウトランダーPHEV」は、シリーズHEVにエンジン直結クラッチを追加し外部からの充電も可能にしたHEVであり、運用の自由度は「e-POWER」よりはるかに高い。ホンダもシリーズHEV+エンジン直結という「e:HEV」を開発した。HEVの元祖であるトヨタはクルマの大きさ・重量と用途に合わせたHEVのバリエーションを展開している。

さて、日産はこれからどうするだろうか。

新しいe-POWERに乗ってみた[日産・次世代e-POWER試作車試乗会]

日産のハイブリッドシステム・e-POWERの世代交代が近いようだ。 狙いはさらなる高効率化。シリーズハイブリッド方式は継続ながら、機械構成は刷新する模様。 第3世代にあたる新システム搭載試作車を確かめた機会から、構造と印象をお伝えしよう。 TEXT:小笠原凛子(Linco OGASAWARA) FIGURE:Nissan PHOTO:MFi

https://motor-fan.jp/mf/article/316184

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