スズキGSX-8Rは、運動性に特化したスーパースポーツではなく、気軽で便利なスポーツツアラー|1000kmガチ試乗1/3

アグレッシブなデザインのフルカウルを装備しているから、スーパースポーツ?という印象を抱く人がいるかもしれない。とはいえ、GSX-8Sの兄弟車として開発されたGSX-8Rは、さまざまな場面に過不足なく対応できるスポーツツアラーなのだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

スズキGSX-8R……1,144,000円

フルカウルの範疇に入るものの、GSX-8Rの外装はエンジンやサブフレームを見せることを意識したデザイン。ボディカラーは、青、黒、白の3種。

ハイフンとRの位置で異なるキャラクター

縦型2灯式で六角形のLEDヘッドライトは、兄弟車のGSX-8SやVストローム800/DEと共通。スクリーンはコンパクトだが、フェアリングの防風性はなかなか良好。

スズキマニアには周知の事実だけれど、“GSX-R”と-Rが付かない“GSX”は方向性が異なっている。GSX-Rがサーキットを重視、あるいは、多分に意識しているのとは異なり、GSXはストリートでの扱いやすさが大前提。そしてハイフンとRの位置から推察すると、2023年3月にデビューしたGSX-8Sの兄弟車として、2024年1月から発売が始まったGSX-8Rは、後者に該当するものの……。スーパースポーツのGSX-R600/750/1000がカタログから姿を消した現状を考えれば(ただし北米市場では、2024年も並列4気筒を搭載する3種のGSX-Rを継続販売中)、それらの代替機種と言うべき特性になっていても不思議ではない?

試乗前の僕はそんな想像をしていた。具体例を挙げるなら、ヤマハがMT-07の派生機種であるYZF-R7で行った大改革に通じる手法で、日常域重視の特性からサーキットや峠道で真価を発揮する乗り味に、つまりネイキッドからスーパースポーツに、劇的な変身を遂げているんじゃないかと。でも実際にGSX-8Rを体験しての印象は、GSX-8Sのスポーツツアラー仕様で、SとRの関係はカワサキのZ650とニンジャ650的。まあでも、カワサキのミドルパラレルツインは、世界中で堅実なセールスを記録しているのだから、スズキの選択に異論を述べるべきではないのだろう。

GSX-8Sとの相違点は決して多くない

本題に入る前にGSX-8Rの概要を説明しておくと、ダイヤモンドタイプのスチールフレームや270度位相クランクの並列2気筒エンジンを筆頭とする、主要部品のほとんどはネイキッドモデルのGSX-8Sと共通で、25度/104mmのキャスター/トレールや1465mmの軸間距離にも変更はない。ではGSX-8Rならではの新装備は何かと言うと、フルカウル、カウルマウント式のバックミラー、セパレートハンドル(装着位置はトップブリッジ上なので、上半身の前傾は緩やか)、前後ショック(ブランドをKYB→ショーワに変更して設定を刷新)、LEDウインカーくらいで、この種の派生機種で変更されることが多いシートやステップ、前後タイヤはSと同じである。いずれにしてもこのモデルは、YZF-R7ほど大がかりな変更は行われていないのだ。

並列2気筒エンジンのクランク位相角は270度で、2軸式バランサーはクランク前部と下部に90度間隔で配置。

もっとも、だからと言ってGSX-8Rの性能がYZF-R7に劣るわけではない。パワーが控えめな73psで電子デバイスがABSのみのYZF-R7に対して、GSX-8Rの最高出力は80psで、3種のライディングモード、3段階調整式のトラクションコントロール、アップ&ダウン対応型クイックシフターを採用しているのだから(馬力と装備はGSX-8Sも同じ)。

ちなみに、GSX-8Rと同価格帯=110万円前後で販売されている、フルカウル車の電子デバイスに対するスタンスは各社各様で、ホンダCBR650Rはオン・オフ式のトラコンのみだったものの、今春からはクイックシフター以上の性能と言えそうなE-Clutch仕様が選択できるようになった。また、カワサキ・ニンジャ650の電子デバイスは2段階調整式のトラコンのみで、トライアンフ・デイトナ660は3種のライディングモード+3段階調整式のトラコンを標準装備している。

走る環境や乗り手の気分に柔軟に対応

当初の想像とは異なるキャラクターだったため、今回のガチ1000km試乗はちょっと微妙な気持ちでスタートした。とはいえ、実際に日常の足+約400kmのプライベートツーリングにこのバイクを使った僕は、基本設計のほとんどを共有しているGSX-8Sとの差別化、そして予想を上回るフレンドリーな資質に、しみじみ感心することとなった。

まずは兄弟車との違いを説明すると、車体の姿勢変化が大きく、ストリートファイター的な雰囲気だったSとは異なり、Rの乗り味はしっとりしていて、路面の凹凸の処理もやや滑らか。もちろんネイキッドのSと比べれば、フルカウルを装備するRは高速巡航が快適で、条件的に許されるなら200km/h前後で走り続けられそう。そんな特性が前述した“スポーツツアラー仕様”という印象につながっているのだが、このバイクはその他にもいろいろな場面で旅に適した資質、守備範囲の広さを披露してくれたのである。

中でも印象的だったのは、ロングランの後半で心身にストレスを感じなかったことだが、混雑した市街地を水スマシのようにスイスイ走れる一方で、4輪の後ろをまったり追走するのがあまり苦にならないこと、峠道ではスポーツライディングが楽しめるのに、バイクから速く走れと強要する気配が無いことも、僕としては感心した要素。いずれにしても、GSX-8Rのスポーツツアラーとしての能力は相当に高く、走る環境や乗り手の気分に柔軟に対応できるのだ。

もっともそういったフィーリングは、スーパースポーツとして開発されたYZF-R7を除く、同価格帯のライバル勢にも通じるところがあるのだけれど、GSX-8Rの乗り味はバランスが絶妙なのである。と言うのもこのバイクの動きは、並列4気筒のCBR650Rや並列3気筒のデイトナ660と比較すれば格段に軽やかだが、同じ並列2気筒で(ただしクランク位相角は180度)車格が小さいニンジャ650よりは安定感が高い。そしてエンジンの低中速トルクが相当に充実しているので、ここぞという場面に遭遇した際に高回転域まで回す必然性を感じないことも、ライバル勢とは一線を画する、GSX-8Rならではの魅力だろう。

まあでも、激戦区のミドルクラスに投入されたこのモデルが世界各国でどんな評価を受けるかは、現時点では何とも言い難いところである。とはいえ、あらゆる状況を過不足なく楽しめる万能性や気軽さが周知の事実になったら、クラストップの人気を獲得する可能性は十分にあると思う。

同価格帯のフルカウル車と比べると、1465mmのホイールベースは長め。YZF-R7は1395mm、ニンジャ650は1410mm、デイトナ660は1425mm、CBR650Rは1450mmである。

主要諸元

車名:GSX-8R
型式:8BL-EM1AA
全長×全幅×全高:2115mm×770mm×1135mm
軸間距離:1465mm
最低地上高:145mm
シート高:810mm
キャスター/トレール:25°/104mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列2気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:775cc
内径×行程:84.0mm×70.0mm
圧縮比:12.8
最高出力:59kW(80ps)/8500rpm
最大トルク:76N・m(7.7kgf・m)/6800rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.071
 2速:2.200
 3速:1.700
 4速:1.416
 5速:1.230
 6速:1.107
1・2次減速比:1.675・2.764
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:リンク式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:180/55ZR17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:205kg
使用燃料:無鉛ハイオクガソリン
燃料タンク容量:14L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:34.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3:23.4km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…