伝統に新技術を融合させたベスパ・プリマベーラS150を検証してみた。|試乗記

スクーター市場はいまや百花繚乱の様相ですが、代名詞と呼べるのはやはり、イタリアのベスパじゃないでしょうか。現在は125㏄モデルから150㏄、300㏄と3つのカテゴリーに6タイプのスクーターをラインナップしています。そうした中で長い歴史を持つモデルがプリマベーラです。
メーカー希望小売価格:566,500円


ベスパ・プリマベーラS150……566,500円

スクーターと聞いてだれもが思い浮かべるフォルムを有しているのがベスパです。現行モデルを見てみると、細かな部分で差異はあるものの、基本的なスタイリング構成は共通しています。そのフォルムは奇をてらわず、ベスパ伝統のデザインを洗練させてきたものです。なのでクラシックスタイルを継承してはいるものの、古臭さはまったく感じません。個人的にイタリアへは1度しか行ったことがありませんが、このプリマベーラS150は昔ながらのイタリアの街の風景に似合うと思いました。また近代的な都市の景観にも違和感なく溶け込むんじゃないかとも思います。おそらくそれは、長い歴史に裏付けられたたしかな存在感があるからだと思います。

自由度は大きくないがなじみやすいポジションを実現

国産スクーターと比較すると車高は高く感じます。平均的な体格のライダーだと両足のつま先が着くといった程度の足つき性でしょう。現実的に不便には感じませんが、150㎏の車重を考えるともう少しシート高が低いと安心できます。乗降性に関してはまったく問題ありません。フラットフロアのステップスルーなので、フロア側で跨ぐ際に足をあまり上げなくてもすみます。体が硬くなり足が上げにくい熟年ライダーにとっては非常にありがたいです。スポーツスクーターと呼ばれるモデルの中には一般的なバイクと同様に、後方に足を振り上げて乗降するものもありますが、スクーターは利便性の高い乗り物なのですから、ステップスルーが一番いいと思っています。
跨るのではなく、シートに座る感じになるポジションもラクチンです。ハンドルポジションとのマッチングも自然で、だれにでもなじみやすいポジションになっています。
フロアボードがステップスルーとなっているので乗降性が良い。フロア自体の広さはそれほどでもないので、足置き位置はある程度限定される。しかしヒザ周りにゆとりがあるので圧迫感は受けない
ハンドルは幅、高さともにちょうど良く、体格に関係なくだれでも自然な乗車姿勢となる。上体やウデ周りにも余裕があってラクチン。シートの座り心地もまずまず
シート高は785㎜となっている。この数値から想像すると、両足がラクに地面をとらえるはずなのだが、実際には慎重178㎝の僕でも両足ベッタリとはいかない。ボディとフロアボードに幅があるため足が開いてしまうからだ。なので足つき性に関しては良好とは言い切れない。また車重も150㎏と重い部類なので、取り回しや停車時には気を遣う

日常域でパワフルに走れるエンジン

たとえば、同じ150㏄クラスの日本製スクーターとよーいどんでスタートしたら、後塵を浴びることになります。プリマベーラS150に搭載されたi-get4ストローク空冷単気筒SOHC3バルブエンジンは、出力、トルクともに日本製スクーターのスペックを下回っているからです。加えて車重も20㎏ほど重いのですから、加速性能で劣ってしまうのは仕方ありません。しかしこれは、あくまでも競争した場合の結果であって、単体で走行していて吹け上がりが鈍くて加速が悪いとか、重ったるいといった印象は受けません。アクセルを開ければそれに見合った吹け上がりをしますし、加速性に不足も感じません。これならゴー&ストップが頻繁な市街地でも機動性の高い走りを実現してくれます。また、ツーリングなどで高速道路を利用した際にも、流れに乗った走りは十分に可能です。
心臓部のエンジンは、150㏄のi-get空冷4ストロークSOHC3バルブ単気筒。スペックは同クラスの日本製スクーターに及ばないが、日常域で不足のないパワーを発揮。ダッシュ力も侮れないものがある

快適な乗り心地でツーリングユースにも対応

一般的にいって、スクーターはサスペンションストロークが小さくゴツゴツした乗り味であることが多いです。多分に漏れずプリマベーラS150も路面が荒れた所や段差を乗り越えた際には跳ねるような動きになります。しかし一般道を常識的なスピードで走っている限りは、細かなギャップの衝撃はうまく吸収してくれて快適な乗り心地を提供してくれます。ちなみにフロントサスペンションは片持ちリンクアーム油圧式サスペンション、リアには4段階スプリングプリロード調整機構付きモノショックアブソーバーを採用しています。ハードライディング向きのサスペンションではなく、スクーターの実用性に最適な性能をバランスさせていると感じます。また前後12インチの小径タイヤも走行性能にはマイナス面が大きいのですが、今回走った市街地やタイトな山道で不安を感じることはありませんでした。直進性はしっかりしていましたし、軽快なハンドリングも実現しているので、ワインディング走行も楽しめました。ブレーキはフロントにABS装備のシングルディスク、リアにドラムという組み合わせですが、制動力に不足はありませんでしたし、コントロール性も良かったと感じました。印象的だったのはハンドル切れ角が大きいことです。狭い場所で切り替えしたりUターンさせるときなど、小回りが効いて扱いやすいと思いました。そういう点でも、スクーターの利便性をうまくまとめ上げているなと思いました。
フロントは片持ちリンクアーム油圧式サスペンションを採用。細かなギャップをうまく吸収し快適な乗り心地と走行安定性に貢献する。ブレーキはABS装備のシングルディスク
リアサスペンションには4段階プリロード調整式モノショックを装備。ブレーキはドラム式としている
アルミキャストホイールに110/70-12サイズのタイヤを装着
リアタイヤには120/70-12サイズを装着
スタイルにマッチした丸型ヘッドライトはLEDを採用している。装着されているフライスクリーンスモーク(17,600円)はアクセサリーパーツ
ボディにビルトインされたテールランプ、ウインカーランプ共にLEDを採用し、被視認性を高めている
シンプルなデザインながら機能的なハンドル周り
クロームメッキのスイッチカバーが上質な印象を与える。スイッチ類は全体に小型だ
アナログ式スピードメータとLCDメーターを組み合わせたコンビネーションメーター。インジケータランプ類はアナログ式スピードメーター内にある。デジタル式のLCDメーターにはさまざまな情報が表示される
ダブルシートはそれほどクッション性がいいわけじゃないが、座面が広く快適な座り心地を提供してくれる
シートを開けると、後部にガソリン給油口が現れる。シート下はトランクスペースとなっていて、ちょっとした荷物の収納に便利だ
フロントトランク左側には小物入れが装備。さらにUSB電源も装備している
荷物の積載に便利なフロントラック(16,577円)はアクセサリーパーツ
トップボックスサポート(16,517円)、トップボックス(28,050円)の装備で荷物の収納力が大きくアップ
トップボックスはキーロック式で安心。ヘルメットの収納も可能だ

主要諸元

 エンジン形式 i-GET 空冷単気筒4ストローク
 SOHC 3バルブ
 総排気量  155 cc 
 最高出力 12.3 HP(9.2 kW)  /  7,750 rpm 
 最大トルク 12.8 Nm / 6,500 rpm
 燃料システム 電子制御式燃料噴射システム
 トランスミッション オートマチック(CVT) 
 クラッチ 自動遠心クラッチ
 フレーム スチール製モノコックボディ
 フロントサスペンション 片持ちリンクアーム デュアル
 アクション油圧式サスペンション
 リアサスペンション 油圧式モノショックアブソーバー 
 4段階スプリングプリロード調整式
 フロントブレーキ 油圧式 200mm ディスクブレーキ
 ABS 
 リアブレーキ 機械式 140mm ドラムブレーキ
 フロントタイヤ 110/70-12“ 
 リアタイヤ 120/70-12“ 
 全長 / 全幅 1,870 mm / 735 mm 
 ホイールベース  1,334 mm 
 シート高 790 mm 
 燃料タンク容量 7 L
 車両重量※  132 Kg 

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…