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ヒョースン・GV125 S BOBBER…….539,000円
マットブラック
今更のお話かもしれないが、バイクの車格は排気量に比例した一種のヒエラルキーがあった様に思う。つまりそれぞれの排気量クラスに見合う車体サイズを始め相応しい装備、価格も含めて全体的な存在感が醸すそれなりの“車格”に違いがあった。
もちろん明確な線引きがある訳では無い。市場(国)の制度によっても微妙に異なる。免許制度や車両区分、税金や保険料、車検の有無等の違いがある中で、自然と区分けされてくるケースが多く、車格観もそれなりに排気量に比例した順当な仕上がりが与えられていたのである。
しかし昨今は何事もボーダーレスの時代。バイクという商品へ向けるユーザーの一般的な価値観も変化し、従来のクラス観からは逸脱する商品の登場も珍しく無いのである。
改めてそんな思いを新たにしたのが今回のヒョースン・GV125S BOBBERだった。
ヒョースンは韓国のバイクメーカー。日本での知名度はそれほど高く無いと思われるが、2002年にヒョースンモーター・ジャパンが輸入販売を開始し、ネイキッドスポーツやデュアルパーパス、そしてスクーターの導入で徐々に頭角を現した。
元は1978年に設立された暁星機会工業株式会社(Hyosung Machine Industry)からのスタートだが、スズキとの技術提携を経て、1987年に独自開発車の量産を開始。
欧州進出を皮切りにグローバルマーケットをターゲットに事業を拡張。その後社名変更等を重ね、現在は次期投入モデルとして既に公表されている新型のGV300SAと共に、クルーザーモデルのGVシリーズを主力モデルとしている。
今回取材したのは2018年にデビューしたGV125S BOBBERの吸排気系を熟成して環境性能を高め、EURO5規制をクリアして2020年に登場した最新モデルである。
公式WEBサイトから引用すると「125クラスの枠を超えたフルサイズクルーザー」とある。
ロー&ロングフォルムが特徴的。クラシカルな雰囲気を醸すクルーザースタイルをベースにショートカットフェンダー等でスッキリした外観に仕上げられている。
全長2,080mm、ホイールベース1,425mm、車両重量165kgという諸元は、125ccクラスの一般的なデータを超えている。その車体サイズはホンダ・レブル250のレベルには及ばないものの、ホイールベースは250クラスでも大柄な部類に入るスズキ・Vストローム250のそれと同じなのである。
さらに注目すべきは、クラス唯一のVツインエンジンを搭載している点である。同社は以前に75度V型ツインエンジンを持っていたが、GV125S BOBBERには新開発された水冷の60度V型ユニットをスチール製のパイプセミダブルクレードルフレームに搭載。
同社は四半世紀前に125ccのDOHCエンジンを開発し、同製品の投入も成されて来たが、今回は気筒当たり3バルブ構造のSOHCタイプが選択されている。
燃料供給方式は電子制御式の燃料噴射装置を採用。ボア・ストロークは42×45mm。ロングストロークタイプの124.7ccで、12.35対1と言う高圧縮比を得て最高出力は13.5ps/10,250rpmを発揮する。
29度とキャスターの寝かされたフロントフォークは正立式のテレスコピックで摺動部分は蛇腹のラバーブーツでカバーされている。
リヤサスペンションはオーソドックスなスイングアーム+2本ショック式。そしてブレーキは前後連動式が採用されている。
右足のブレーキペダルを踏むと後輪はもちろん、前輪用3ポットブレーキキャリパーのセンターポットにも油圧が送られ、安定した前後同時制動が可能となっている。
クラス唯一のVツインが、オーナーの“こだわり”を主張できる。
試乗車を受け取ると、ズシッと重い“鉄馬感覚”が伝わってくる。サイドスタンドをハネて車体を引き起こす時や取り回す時の扱いにしっかりした重量感がある。それは125クラスとは思えないレベル。仮に250クラスだったとしても扱いは重い方に感じられることだろう。
その雰囲気は、太めの前後タイヤやボリューム感たっぷりな燃料タンクデザインも含めて、なかなかどうして堂々と立派な佇まいを魅せてくれている。
ブラックアウトされたクランクケースとシリンダーに、チタンカラーのシリンダーヘッドを組み合わせた60度Vツインエンジンも、頭上のボリュームが大きい。シリンダーと同ヘッドが長く、やはり見た目は250かそれ以上に思える程なのだ。事前情報でそれが125ccの原二バイクであることは承知していたが、バイクの後方に回って改めてピンクナンバーである事を確認してしまった程、その存在感はハンパ無い。
基本的にロー&ロングフォルムだが、丸みのあるタンクやサイドカバーの大きさが目立ち全体的にズングリした印象もある。その一方でエンジン冷却用ラジエターを目立たせないように縦に長いデザインで2本のダウンチューブ間にスッキリ納められているのも印象的。
またクルーザーとしてはロードクリアランスが十分に確保されていて、最低地上高は175mm。ほぼストレートに伸ばされた太いマフラーも少し高い位置にマウントされている。 実は筆者がヒョースン製バイクに触れるのは初めて。随所に見られる細部の処理や、構成部品の造形はとても新鮮である。ハンドルスイッチやグリップデザイン等、目に入る物の全てが目新しく感じられた。
ライディングポジションにつくと、筆者の体格でも大き過ぎることは無く、しっくりと良く馴染む。ステップ位置がクルーザーとしては少し高めなので、大柄なライダーには少し窮屈に感じられるかもしれない。
ハンドルも遠すぎる事はなく、リラックスしたライディングで遠くまで乗り続けるクルーザーに相応しい感じ。ハンドル位置が遠過ぎると感じられるなら、オプションで購入できるハンドルバーライザー(11,000円)に換装するとハンドル位置を15mm程近づける事もできる。
右側にエアクリーナーが出っ張っているので、キチンとニーグリップを効かせることはできない。それゆえ市街地や郊外を楽~に流すような走りが相応しい。
積極的にマシンをコントロールする様な、スポーティーな操縦性を要求する気分にはならない。それ故、動力性能や操縦性能に対する判断基準や要求レベルも変化し、総合的な乗り味は十分に満足できる感じになる。
試乗は降雨中という悪条件下だったが、市街地や郊外をまわりの交通に合わせて穏やかに流していると、125クラス以上のゆったりと落ち着いた気分の乗り味が心地よい。
路面は完全ウェットだが、タイヤのグリップ力は十分に高い。また高めのステップ位置でバンク角も不足は感じられない。さらにブレーキは前後連動式で、イージーに安定制動が掛けられる。いざと言う時もギュッと右足の踏力を増せば、車体全体がグンと下がりながら地面に食いつくような急制動を披露してくれるのだ。
サスペンションは前後共にダンパーの効きが甘めなセッティングに感じられたが、ソフトなスプリングで、凹凸もやんわりと良い感じに衝撃をいなしてくれ、動きも良い。飛ばして走りたい類のバイクではないので、この快適性はなかなか悪くないと思えたのも正直な感想である。
パフォーマンスとしては、125ccらしく、重い車重とのマッチングで常に穏やかな雰囲気に包まれる。
ローギヤで発進してから各速で引っ張って行くと、大体通常のエンジン使用回転域は4,000rpm前後と行った所。2,000rpmからでも立ち上がる柔軟なトルク特性も立派。決して鋭くはないが、急加速を求めるなら6,000~8,000rpmを使うと頼もしい。吹き上がりも素直で実用域としての頼り甲斐も十分。回転自体はレッドゾーンの10,000rpmまで伸びるが、8,500rpm当たりの振動発生が気になるのと、そもそも高回転を楽しむキャラクターではない。そんな性格も含め、思い切り回転を引っ張るよりは、早め早めにシフトアップしていく走り方の方が良く似合っていると思えた。
唯一気になったのは、スロットルオフからオンへ転じる時、つまりエンジンブレーキから加速態勢に移行する時、インジェクション制御の熟成に甘さがあるのか、ガツンと一瞬予期せぬ加速ショックが出てしまう。そんなギクシャクした乗り味がコーナリングでの扱いやすさを邪魔する点が残念。筆者の記憶の中でかなり昔の、キャブレターからインジェクションへの移行期に良く見られた症状が思い出されたが、もう少しスムーズに扱えようになる事に期待したい。
ちなみにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時の速度は19km/h。5速トップギヤで50km/hクルージング時のエンジン回転数は4,400rpmだった。
それにしてもボーダーレスの乗り味が印象的。立派で堂々と穏やかな乗り味。独特の存在感が、諸々便利で経済的な原付二種で楽しめてしまう点は嬉しい。
125にも関わらずVツインを搭載。その点(希少性)に他車との違いを主張できる魅力がある。まだ見慣れていない存在である事も、オーナー心を刺激する価値があるのではないだろうか。
試乗しながらアレコレ考えていると、カテゴリーこそ違うが、価格的には55万円のホンダ・GB350がライバルになるのでは?? と頭に浮かんだ。
しかし125とVツインの組み合わせこそ、オーナーにとってはこだわりを主張(自慢)できる要素を備えていると思えたのである。
足つき性チェック(ライダー身長168cm/体重52kg)
シート高は710mm。ご覧の通り膝にも余裕を持って両足はベッタリと地面を捉えることができる。少し前寄りのステップは、若干高めの位置にあり、足を乗せると腰から膝までの腿はほぼ水平になる。