加速はドカーン、コーナリングはちょっと変わった乗り心地。|BMWの新型電動スクーター・CE 04試乗レポート

BMWはアーバンモビリティのカテゴリーに3機種のスクーターをラインナップしている。その中でひときは目立つ存在が、最新の電動スクーター「CE 04」である。これまでリリースされていたC EVOLUTIONに替わるニューモデルとして新開発されたことは、スタイリングを見れば一目瞭然。果たしてその乗り味は如何なるものだろうか。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ビー・エム・ダブリュー 株式会社

BMW・CE 04…….1,610,000円〜(消費税込み)

マジェラン・グレー・メタリック…….1,639,000円

ライト・ホワイト

 BMWがスクーター市場へ参入の意志を示したのは2010年のことだった。同時に電動モデルのリリースも表明。2輪に限らず主に都市部の移動手段として、電動化推進に積極的な姿勢を示していた。
 特に都心部への通勤ニーズに対して自動車への依存度が高い事を改善できないかという狙いもあって、渋滞緩和策を担うコンパクトなミニマムビークルへの提案のひとつとされていた。
 当初からEV普及の懸念材料とされたのは航続距離。しかしバッテリーの進化は著しく、既に先代電動スクーターのC EVOLUTIONでは約160kmを実現するところまで着実な進化を披露していた。
       
 しかし今回のEC 04は、これまでとは異なる大きな革新を込めて登場した。唯一15インチの前後ホイールサイズは踏襲されものの、他の全てが新設計され、カラーリングも含めてなんともモダンなスタイリングに仕上げられたのである。
 メカ部分の多くがカバーリングされ、直線的ラインを基調としたそのフォルムは、SFコミックスに出てきそうな雰囲気。既存のマキシスクーターに倣った普通のスタイリングだったC EVOLUTIONとは一線を画す斬新なデザインを誇っている。
 それは外観だけでなくバッテリーやモーターのレイアウトにも及ぶ。コンセプトワークの全てが刷新され、多くのスペースを奪う重量物であるメインのリチウムイオンバッテリーはアンダーフロアに配置。
 バッテリー容量を欲張らず、モーターも小型なタイプを採用することで、車両重量はC EVOLUTIONの275kgから44kgもの軽量化を果たす231kg に仕上げられている。
 搭載されるリチウムイオンバッテリーは133→148Vへ高電圧化。容量的には約35%小さい60.6Ahを採用。省スペース化と前述の軽量化に大きく貢献したわけだ。
 使用モーターも小型化され定格出力が19→15kWへ、最高出力は35→31kWへ。最大トルクは72→62Nmへと変更された。諸元表で公表された最高速度は129~120km/hになっているが、0~50m発進加速性能は2.8~2.6秒に短縮。優れたスタートダッシュ力にはさらに磨きが掛けられている。

 満充電で走れる走行可能(航続)距離も160→130kmに低下しているが、充電にかかる所要時間が短縮されたのが見逃せない。
 充電に関して、同条件下での比較データを見つけることができなかったので、あくまで参考データだが、家庭電源からの普通充電(200V)で0→80%までの充電にかかる時間は、40分短縮されて3時間30分になった。残念ながら日本で普及しているCHAdeMO(急速充電器)には非対応。基本的にオプションで用意されているクイックチャージを使い、高電流を流せる適応充電器を利用できる場合は0→80%まで65分で済むと言う。100%満充電でも100分で完了する。
 実際の充電シーンを想像すると、ある程度の容量を残した状態からスタートする継ぎ足し充電が一般的だから、その場合の所要時間は意外と少なくて済みそうなのである。
 車体右側からアクセスできるメットインスペースは、特別大きくはないが、純正オプション用品にはトップケースやバッグ、さらには大型ウインドシールドやコンフォートシートまで豊富に揃えられておりツアラー用途も十分に考慮されている。

スイッと立ち上がる加速感はEV(電動)ならでは。

 試乗車を目前にすると、先ずは長~いフォルムに驚かされる。ホイールベースは1675mm。これはホンダ・ゴールドウィングに迫り、トライアンフ・ロケットⅢに匹敵。直線的ラインを基調とする外観もあって、それには異様なインパクトを覚える程である。
 個性的なフローティングマウント・デザインされたシートに股がると、バイク並の腰高感を覚える。シート高は800mm。シートクッションは細身だがその下の車体はそれなりに太めで膝を広げて足を付く関係で、両足の踵は少し浮いてしまう。
 整備された平地で扱う限り、特に不安は感じられないが、浮き砂等、滑りやすい場面では要注意だ。ハンドル位置は高めで車体を引き起こす時の感覚は231kgの車重を感じさせない。低重心設計が活かされているのか、操作感はさほど重くないのである。
 ライダーの上体は真っ直ぐか、若干後傾ぎみでステップ位置は前寄り。身体に近いアップハンドルを握ると、ふとホンダ・PS250が思い出された。スケールこそ異なっているが何処か似た雰囲気が感じられる。
 スマートキー方式の発進操作手順は至って簡単。普通のスクーター(エンジン車)と何ら変わりはない。走行可能状態であることがメータ画面に表示されれば、あとは右手のスロットルを捻るだけでOKだ。実際にエンジン始動とアイドリングが無い静寂の中からスタートできる電動車ならではの乗り味はとても新鮮。車庫から出し入れする時等、簡単に電動後退できる点も実にありがたく楽に取り回せる魅力は大きい。
 さらにスタートダッシュの速さは抜群である。0~4,900rpmの範囲で62Nmのビッグトルクを発揮するのだから当然。例えるなら650ccエンジン並の最大トルクが、発進時からいきなり発揮されるのだから強烈。モーターによる初動回転力の図太さは侮れない。231kgある車重の重さに負けることもなく、高速道路への進入もサクッとスムーズ。高速クルージング性能も、日本ならほぼ十分なポテンシャルと言えるだろう。

 ロングホイールベースによる直進安定性も良い。上半身のウインドプロテクションはそれほどではなく、胸から上は風をフルに浴びるがそれなりに気分は爽快。
 ただ、高速では前方からの風圧に耐える為に、腹筋への負担がかなり大きくなる。前寄りなステップ位置の関係もあって踏ん張り辛く、ハンドルにしがみつく(ハンドルを引く)様になり、背もたれが欲しくなる感じだった。
 もちろん、基本的に市街地の便利な移動道具として考えるなら、そんなライディングポジションも特に気にはならないのである。

 峠道では基本的に素直に扱える。飛ばさない限り、加減速操作は右手のスロットルを開け閉めするだけでほとんど事足りてしまい、とても楽に気分良く走れる。おそらくブレーキパッドの消耗も普通のスクーターに対して1割以下で済んでしまうだろう。
 コーナーリングでは、ある程度車体を倒し込んだところで、それまでのロール挙動が止まり微妙に元へ戻ろうとする感覚がある。フロアー下に重量物が集中している関係なのか、どこか“起き上がり小法師”的な動きが感じられ、そのせいか舵が切れ込みを伴いバランスする(させる)様な若干の違和感を覚えた。まあそれも直ぐに慣れてしまえるレベルである。
 前後サスペンションが硬めで荒れた路面ではゴツゴツと衝撃が伝わる乗り味が気になったが、乗り心地面ではロングホイールベースがそれを補ってくれる感じ。
 峠道で印象的だったのは、上り坂で遠慮なくスロットルを開けていくと、バッテリーがグングン消費されるも、下り坂では回生ブレーキの働きでそれまで使用していた電力が戻ってくる。この戻り量がバカにできないレベルにあり、ライダーの意識は自然と節約運転にチャレンジしてみたい気分になる。
 今回の試乗はトータルで約100km。満充電からスタートして都市部と高速の速い流れに乗った移動で約60km、その時のバッテリー残量は52%。また郊外から峠道を普通にツーリングした時は約40kmを走行し、残量は71%だった。
 メーター表示データを元に算出すると、航続距離は125~138km というレベルにある。つまり諸元値を実証するポテンシャルが発揮されたのである。
 この結果から判断できるのは、片道100km程度なら不安なく使えると言うこと。例えばランチタイムに合わせて継ぎ足し充電が賄えるのなら東京から箱根を往復するコースも難なく選択できそう。
 EC 04は、まるで不足を感じさせない豊かな動力性能と共に、バッテリー管理面でも気楽で扱いやすい仕上がりを誇っている。出先で日本の充電環境がもっと活用可能になるよう、今後、実用性のさらなる向上に期待したいと思えた。

足つき性チェック(ライダー身長168cm/体重52kg)

シート高は800mm。それほど高くはないが、足つき性はご覧の通り、両踵が少し浮いてしまう。車体がワイドで、踏ん張りが効き辛いので、浮砂等滑りやすい路面では慎重な扱いが大切。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…