BMWの最小排気量モデルは入門車以上の存在感|G310R試乗

ライバルより非力だけど軽いから良し! BMW・G310Rは小気味良いライトウェイトスポーツだ

2015年のEICMA(ミラノショー)の直前に発表され、2017年6月より日本でも販売がスタートしたBMWのスモールロードスターがG310Rだ。2021年モデルで排ガス規制ユーロ5への適合に伴い大掛かりなマイナーチェンジを実施し、電子制御スロットルやスリッパークラッチなどを新採用。さらに灯火類をオールLEDとして商品力を一層高めた。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ビー・エム・ダブリュー株式会社(https://www.bmw-motorrad.jp/ja/home.html#/filter-all)

BMW・G310GS……681,000円~(2022年モデル ブラック以外は+13,000円)

試乗したのは2021年モデルのコスミック・ブラックで、価格は637,000円。ポーラー・ホワイトも同価格で、ライムストーン・メタリック(スタイルスポーツ)は13,000円高に設定されていた。
こちらが2022年モデルのコスミック・ブラックで、価格は681,000円。カイヤナイト・ブルー・メタリック(スタイルパッション)とライムストーン・メタリック(スタイルスポーツ)は13,000円高となる
ヘッドライトがLEDになったことで、よりS1000Rに近いスタイリングを手に入れたG310R。スチールチューブラーフレームやタービンデザインのホイールなど基本骨格は変更なし。

ユニークな単気筒エンジン、スムーズな回転上昇が印象的だ

普通二輪免許で乗れるBMWとして2017年に発売されたG310R。インドのTVSモーターカンパニーで製造されていること、欧州ブランドながら同排気量のヤマハ・MT-03と同じぐらいの低価格に設定されているなど、とにかく話題に事欠かないのがこのスモールロードスターの特徴だ。メカニズム的に注目すべきはやはりエンジンで、このモデルのために新設計された水冷シングルはシリンダーヘッドの前方から吸気して後方へ排気するという、通常とは反対向きの吸排気レイアウトを採用。さらにシリンダー自体が後傾しているのもポイントで、これらによりエンジンをできるだけ前寄りに搭載することが可能となり、前後輪分布荷重の理想的なバランスを追求している。また、短いホイールベースのままスイングアーム長を伸ばせるのも見逃せない長所であり、一見ユニークだが全ては理に適った設計のシングルエンジンなのだ。
ユーロ5に適合した2021年モデルは、電子制御スロットルやスリッパークラッチなどを新たに採用。排気量は312ccのままで、最高出力は従来型の34psを維持する。ヤマハのMT-25が35ps、MT-03は42psなので、馬力だけを比較するなら単気筒よりも2気筒勢の方が有利だが、車重はこの2車よりも5kg軽く、さらにシングルならではの車体のスリムさも魅力だ。
このエンジン、単気筒らしい1発ごとの蹴り出し感よりもスムーズな回転上昇が印象的であり、10,000rpmから始まるレッドゾーンまでフラットにパワーが盛り上がっていく。6,000rpmから上ではやや微振動が多くなるものの、排気量がそれほど大きくないので不快に感じるほどではない。電子制御スロットルによるレスポンスは、エンジンが暖まるまではレスポンスにわずかなムラがあるものの、走り出して5分もすればワイヤー作動の従来型との違いはほとんど感じられない。なお、この新型は発進時のエンジンストールを抑止するオートマチック・アイドル・ブーストという機構が採用されており、Uターンなどの微速域では心強かった。


ライダーの意のままに操れるニュートラルなハンドリング

ハンドリングは、操縦に対して過不足なく反応し、スムーズに向きを変えるという非常に扱いやすいものだ。車体のピッチングを生かすことでより高い旋回力を引き出せるが、たとえそうしなくても交差点の右左折から高速コーナーまで不安なく扱える。前後のサスペンションは車両価格なりの作動性であり、つまり決してスムーズではないものの、しなやかなスチールチューブラーフレームとミシュランのラジアルタイヤがそれをサポートしており、全体のバランスとしては非常にいいのだ。
ハンドルの押し引き、ステップワークでの倒し込み、腰を左右に動かしての体重移動など、バイクの向きを変えるためにライダーはさまざまな操縦をしている。このG310Rはこれらのどの手段、またはどの組み合わせでも車体を傾けてさえしまえば曲がれるという安心感があり、これはエントリーモデルにとって大切な要素と言えよう。そして、高い速度域でも操縦が極端に重くならないのは車重の軽さが利いており、まさにライトウェイトスポーツといった雰囲気なのだ。
なお、ブレーキは前後ともバイブレ製のキャリパーを採用しており、フロントはラジアルマウントの対向4ピストンというハイスペックなものだ。この新型からブレーキ/クラッチレバーに4段階(最大6mm)のアジャスターが追加されており、特にブレーキ操作がしやすくなったのは朗報と言えるだろう。
なお、試乗したのは2021年モデルで、現在販売されている2022年モデルは44,000円アップしている。それでも60万円台を維持しているあたりに、BMWがこれを世界戦略車として位置付けていることが伝わってくる。見た目はアグレッシブだか中身はエントリーユーザーに優しく、正しいライディングを学ぶうえでの教材としてもオススメできる1台だ。


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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…