アフリカツインの半額の入門機|足まわり一新で走破性を高めたミドルアドベンチャーツアラー、ホンダ400X 試乗記

国内メーカーのモデルとしてはクラス唯一のアドベンチャーツアラーがホンダ400Xです。同カテゴリーでライバルとなるのはBMWのG310GSとKTM390アドヴェンチャーの2モデル。価格も似たり寄ったりです。その400Xがモデルチェンジされました。最新型400Xでショートツーリングに出てみました。

PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

アップライトなポジションと乗り心地の良い足回りが快適な走行を実現

 年を追うごとに大型アドベンチャーツアラーが高性能化しています。そこには必ず進化した電子制御システムが導入されていて、結果、あらゆる走行状況に最適な走行性が発揮されるようになりました。しかしそのぶん高価になってしまったのも事実です。400Xもアドベンチャーツアラーのカテゴリーに入るモデルですが、ライディングモードなどの電子制御システムは搭載していません。現代のバイクとしてはアナログ要素が強い希少なモデルです。ですが実際のツーリングで困ることはそれほどありません。旅を楽しめるだけの性能は満たしています。それでいて価格はアフリカツインの半額ほどです。

  しかし国内市場ではここ10年ほど400ccクラス自体への関心が低く、400Xの需要もいまひとつパッとしませんでした。おそらく中型免許所持者は車検の必要がない250ccクラスを重用し、大型免許所持者の大半はより大型のバイクを好む傾向があるため、結果的に400というミドルレンジは中途半端な位置づけとなってしまっているのだと思います。ちょっと残念です。というのも、実際にツーリングに出てみればわかるのですが、日本のタイトな道や、最高速が120km/hまでに制限されている高速道路を走るのに最適な性能を持ち合わせているのが400ccクラスなのです。だからロングツーリング派のライダーにはとくに、ミドルアドベンチャーツアラー400Xは選択肢になると思います。

  399cc水冷DOHC4バルブ直列2気筒エンジンを搭載した3機種のスポーツモデルをホンダが登場させたのは2013年のことでした。スーパースポーツのCBR400R、ネイキッドスポーツのCB400SF、そしてアドベンチャーツアラーの400Xと異なるジャンルをラインナップすることで選択肢を広げてくれました。さらに、電子制御システムの導入を抑えて、価格帯を60万円台からとしていたこともユーザーには朗報でした。残念ながらCB400SFはこのモデルのみでラインナップから外れてしまいましたが、CBR400Rと400Xは2016年、2018年、2019年に熟成を図った変更が行われ進化してきました。そして2021年12月、CBR400Rとともに400Xもモデルチェンジが行われて新型となったのです。

 ボディスタイリングはまさしくアドベンチャーツアラーそのものです。ですが大型アドベンチャーツアラーのような威圧感はありません。手頃なサイズ感のボディは親近感をもたらしてくれます。これはとても大切なことだと思います。大型アドベンチャーツアラーは機能、性能ともに高く、だからこそランドスポーツバイクとしての魅力があるのは事実です。しかし体格が決して大きいとはいえない日本人ライダーが扱うにはハードルが高いと思っていますし、思い切り走れるフィールドもあまりありません。もちろんテクニックのあるライダーなら乗りこなしてしまうのでしょうけれど、ボクを含めて一般のライダーにはやはり手ごわいんじゃないかとの印象があります。その点400Xは「これならダート路にも入っていけそうだ」との期待感を抱かせてくれます。

足つきチェック(ライダー身長178cm/ 体重77kg)

アドベンチャーモデルらしくワイドでフラットなハンドルがアップライトな上体を作り出す。ステップ位置もちょうど良く膝の曲がりにきつさはない。シートは自由度が大きく座面も広めなので、お尻が痛くなりにくい。シート高は800mmと低く抑えられていて、さらに足を下ろす部分のシート前方を絞り込んでいるため、足つき性は良好だ。1Gでの前後サスペンションの沈み込みも功を奏している

 最新型もそんな基本姿勢は変わりありません。さらに今回のモデルチェンジでは、フロントフォークにショーワ製SFF-BP(セパレート・ファンクション・フロントフォーク・ビッグピストン)を採用。Φ41mmのこの倒立フォークが優れた路面追従性を実現し走行性を高めてくれたほか、乗り心地の快適性も向上させているとのことです。ブレーキも従来のシングルからダブルディスクへとグレードアップさせ、より安定した制動能力を実現させています。

  このように足回りが強化された新型400Xですが、ポジションをとったときのアップライトでゆとりある乗車感はなんら変わっていません。800mmに抑えられたシート高のおかげで足つき性も良いですし、前後サスペンションの作動性も良好なので、跨った瞬間ホッとさせられる安心感に包まれます。車重は199kgと若干増加しましたが、数値から想像するより取り回し性はいいと感じました。

  スタートすると、さすがに400だと感じる力強さを発揮してくれます。外国製のライバルモデルが単気筒エンジンなのに対して、この400Xは直列2気筒エンジンを搭載しているので、スムーズなパワーフィーリングがひとつの特徴です。しかも、街乗りやツーリングで多用する低中回転でトルクフルなエンジン特性なので、非常に走りやすく感じました。そして高回転の伸びでも直列2気筒エンジンに分があり、ムリなく高回転域へと引っ張っていけるのでスポーティだし、高速走行性にも優れています。気になる振動もほとんどないので高速クルージングも得意だろうとおもいます。

  高速走行を快適にしているもうひとつの要因が、大きく立ち上がっているウインドスクリーンの装備です。大きさや形状から腕周りには風を受けますが、体の前面に当たる風圧はしっかり抑制してくれるため腕や首の負担が少なく、結果的に疲労を蓄積させにくいのだと感じました。快適性ということでいえば、シートの座り心地もいいですし、ポジションにもムリがないことも奏功しています。倒立フォークとなって硬くなったのではないかとちょっと懸念していた乗り心地も悪化していませんでした。サスペンションの作動性は相変わらずソフトで、高荷重が掛かったときにはしっかり踏ん張ってくれる特性なので、街中や田舎道をのんびり走るときはクッション性のいい乗り心地を提供してくれ、ワインディングを駆けるようなときには減衰がしっかり掛かって高いスポーツ性を発揮してくれます。今回はダート走行をしなかったのですが、おそらくフラットダートなら不安定な挙動を示すことなく走破できると思います。

  ハンドリングに関しては、19インチフロントタイヤが装着されていることで、優れた直進安定性を発揮してくれる一方で、素直でニュートラルなバンク操作を可能にしています。コーナリング安定性も高く、満足感を与えてくれるワインディング性を発揮してくれます。ブレーキ性能が強化され、フロントフォーク性能が上がったことで、ワインディングにおけるスポーツ性は確実に高められています。ポテンシャルが上がったことでツーリングでの安全性は高まりました。そういう意味でも良い方向に進化していたと感じました。

  林道ツーリングをメインにするのなら、250ccクラスのオフロードバイクに分があるのは事実です。しかし高速走行を含めたツーリングがあくまでも主体に使うのであれば、400Xは最適なモデルになってくれます。しかもちょっとしたダートなら不安なく走れる性能を持っているので、旅の行動範囲をグッと広げてくれるはずです。

主要諸元

異形断面ショートマフラーはマスの集中化に貢献するほか、キャタライザー前後のパイプ体積を大きくすることで排圧をコントロールし、低中回転域でのトルク感を向上させた
リアには分離加圧シングルチューブタイプのサスペンションを採用。ブレーキはΦ240mmのウエーブディスクを持つシングルディスク。もちろんABSを標準装備している
テールエンドにビルトインされたテールランプはクリアレンズを採用したLED。ハザードランプを高速点滅することで急ブレーキをいち早く後続車に伝えるエマージェンシーストップシグナルを採用
着脱式のシート下にはバッテリーをはじめとした電装パーツや、車載工具などが収納。ETC車載器を装着する場合にも、このスペースを活用することになる
フロントフォークのトップエンドには「SHOWA SSF-BP」の文字が記されていて、高性能ぶりを視覚的にもアピール
低中回転域でのトルク特性を重視し、常用域でのパワーと扱いやすさを高めた水冷直列2気筒エンジン。アシストスリッパークラッチ採用で軽いレバー操作と、急激なシフトダウンによるリアタイヤのスリップを抑制
フレームとの剛性バランスを最適化したインナーチューブ径Φ41mmのショーワ製SFF-BP倒立フォークを新たに装備。路面追従性を高めた。さらにブレーキはシングルからダブルディスクにグレードアップ
走行風を抑制してくれる大型ウインドスクリーンを装備。精悍な表情を作り出すヘッドライトは、光量を上げるとともに発光パターンを変更し、視認性と被視認性を向上
大型のダブルシートはタンクとの接続部を絞り込んだ形状として足つき性に配慮。ワイドな座面も快適性に貢献している。またリアにグラブバーを装備しタンデムライディングも快適だ
強さとしなやかさを合わせ持つ高剛性のテーパーハンドルを採用。左右の切れ角も大きく、狭いスペースでの小回りやUターンもやりやすくしている
メーターは当然のことながらフルデジタル式。速度、回転をはじめ、燃料計、時計、瞬間/平均燃費、燃料消費量、ギヤポジションなど多彩な表示機能を持ち、ツーリングの強い味方になってくれる

主要諸元

車名・型式:ホンダ・8BL-NC56
全長(mm):2,140
全幅(mm):830
全高(mm):1,380
軸距(mm):1,435
最低地上高(mm):150
シート高(mm):800
車両重量(kg):199
乗車定員(人):2
燃料消費率*1(km/L):
 国土交通省届出値:定地燃費値*2(km/h)41.0(60)〈2名乗車時〉
 WMTCモード値 (クラス)*327.9(クラス 3-2)〈1名乗車時〉
最小回転半径(m):2.5
エンジン型式:NC56E
エンジン種類:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列2気筒
総排気量(cm3):399
内径×行程(mm):67.0×56.6
圧縮比:11.0
最高出力(kW[PS]/rpm):34[46]/9,000
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm):38[3.9]/7,500
燃料供給装置形式:電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉
始動方式:セルフ式
点火装置形式:フルトランジスタ式バッテリー点火
潤滑方式:圧送飛沫併用式
燃料タンク容量(L):17
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング式
変速機形式:常時噛合式6段リターン
変速比
 1速3.285
 2速2.105
 3速1.600
 4速1.300
 5速1.150
 6速1.043
減速比(1次 /2次):2.029/3.000
キャスター角(度)27゜30′
トレール量(mm):108
タイヤ:
 前110/80R19M/C 59H
 後160/60R17M/C 69H
ブレーキ形式
 前油圧式ダブルディスク
 後油圧式ディスク
懸架方式
 前テレスコピック式
 後スイングアーム式(プロリンク)
フレーム形式:ダイヤモンド
  • 道路運送車両法による型式指定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元)
  • 製造事業者/本田技研工業株式会社
  • *1燃料消費率は、定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。
  • *2定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。
  • *3WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…