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GPX・POPZ110……29万7000円(消費税込み)
GPXラインナップの最小モデル
ポップズって読むのかな? そんな車名のPOPZは「ポップス」が正解だ。では、あのスーパーカブと似ていることをどう考えたらいい? その疑問への答えは、試乗前にはいっさい思いつかなかった。
「乗ってから考えようっと!」
カブ110もポップス110も、それぞれ車両価格は30万円前後。円安が進んでしまった事情もあって、タイのポップスが「激安!」というわけではまったくない。そう、とくに急ぐ結論でもないのである。タイには2022年現在6600万人もの人が住んでいる。日本が1億2600万人なので、おおむね半分くらい。そんな彼の地タイで、ホンダ、ヤマハに次ぐ3番目の販売実績を誇る二輪メーカーが「GPX」だ。GPX、正式名称GP MOTOR(THAILAND)CO.,LTDは、ここ十数年で急成長を遂げたタイの新興企業で、250ccモデルを筆頭にフルラインナップと言っていいバリエーションを揃えている。それらのプロダクトの中で、もっとも小さな排気量のモデルが今回試乗するポップス110だ。
125ccから110ccに排気量ダウン
アンダーボーンフレームに横置きの空冷単気筒110ccエンジンを搭載したポップスは、フロントディスクブレーキにキャストホイール、前後17インチホイール、ロータリー式4速ミッションを採用。つい先ごろまでこのポップス(旧型)に積まれていたエンジンは125ccだったが、2022年のモデルチェンジを機に排気量を110ccにダウンサイジングした。
いざ実車を間近で目にすると、意外とカブと似ていない。ヘッドライトの形のせいか、はたまた明るいボディカラー? それとも凝ったシート形状のせい? そりゃもちろん全体のフォルムは似ているんだけど、ディテールがかなり異なっていることに「ふーん」という気持ちになる。バイクにとってディテールのデザインは、フォルムと同じくらい“魂”が込められるべき大切なパート。そんなディテールを本家に寄せすぎていないところに興味が湧いてきた。
フィニッシュも座り心地もグッド!
エンジン始動はじつにあっけない。セルスターターで一発、タラララッ! っと軽やかにエンジンに火が入る。その乾いた排気音は想像していたよりもボリュームがあって、ちょっとした社外製マフラーのようでなかなか心地良い。個人的には好みだ。聞けば「125ccエンジンの時よりも音量は上がっていますね」とのこと。ノーマルの状態ですでにカスタム車のような雰囲気のあるポップス110は、キャッチーな外装色もさることながら軽快なサウンドチューニングもしっかり施されていた。
仕上がりに高級感のあるシートはけっして大ぶりではなく、むしろコンパクトな部類だ。しかし本家のソフトな感触と違って座面に適度な張りがあって疲れにくい。タンデムシートはマイナーチェンジ前の125に装着されていたものよりも前後長が伸ばされており、さらにかけ心地が良くなっている。なによりシートフレームの形状がとても掴みやすくできているので、これはカブに優っている部分と言っていい。タンデムのニーズが日本よりも強い、タイであればこそのディテールデザインだろう。
外はオーセンティックでも内はモダン
いささか踏みにくいと感じたシーソー式のシフトペダルを1速に落とし、発進する。「お!」と思ったのは、さきほど試乗したばかりのガンナー125よりも低〜中速のピックアップが明らかにいいからだ。
積まれる空冷単気筒エンジンはボア50×ストローク55.5mmで排気量110cc、デルフィ社製のFIが組み合わされておりユーロ4に適合している。回さなくてもスッと前に出るトルクフルなタイプで、ダウンサイジングしたことのデメリットはあまり感じない。軽やかに加速しつつ、時速60キロまではあっという間だ。メカニカルノイズは低く抑えられているのでルックスの上品さを妨げないし、頑張らなくてもワイドなギヤ比がいい意味でシフトをサボらしてくれる。
いまやカブに追いつかれてしまったが、キャストホイールとディスクブレーキの採用はこちらのポップスの方が2年も先行していた。ふたつのメリットは明快で、軽快でシャープなハンドリングとコントローラブルな制動は交差点ひとつを曲がるだけで十分に伝わってくる。スポークホイール+ドラムブレーキではこうはいかない。少ない挙動で減速し、スイッ! とリーンする。
それぞれ採用の経緯はもしかしたら違うのかもしれないが、全体のフォルムはオーセンティックでありつつ「細部はモダンであること」にためらいのないポップス110の開発コンセプトは、迷いがなくて気持ちがいい。車体のグラフィックにも“mod”って描いてあるしね!
タンデム性能はカブよりハイレベル
標準で装着されているフロントキャリアも実用的で頼もしい。そもそもリヤキャリアの装着を選ばずにリヤシートを選んだ、ポッポスなりの筋の通し方なのだろう。タンデマーへの愛情度はこちらが上だ。灯火類はすべてLEDで統一されており、リヤショックは一人乗り用と二人乗り用で任意にアジャストできる。このあたりも、荷物を運ぶ大義のあるカブシリーズと、人を乗せる使命のあるポップスの分かりやすい違いだ。
円安や海上輸送費のこともあってポップス110のプライスは、今年3月26日に発売された時の26万4000円よりも上がってしまって現在は29万7000円に改められた。結果、カブ110の30万2500円との価格差はわずか5500円。でも僕はむしろ、値上がりして良かったと思っている。たしかに価格競争力は落ちたかもしれない。けれどもご本尊たるホンダではなし得なかった“ポップなカブ”を外側から提案する理由のひとつに「しかも安いし」を足さなくて良くなったからだ。引け目を感じることなんてぜんぜんない。「こんなド派手なカブがあっても、いいじゃない!」というGPXが投げた球筋はたしかに変化球かもしれないけれど、これこそ第三のメーカーが採るべきカウンターパンチだと筆者は思った次第。
ライフスタイルに寄り添ったコミューター
インディアンという米製クルーザーがあるが、これを買う人はアンチ・ハーレーなんかじゃぜんぜんなくて、すでにハーレーを持っている人が“買い足す”ケースがとても多いという話を聞いたことがある。聞けばポップスを買う人は、すでにカブを持っている人が多いらしい。カブへの愛が極まると、その行き過ぎた愛をちょっとだけパロディにしてみたくなるのかも。ビートルズの「Come Together」もチャック・ベリーの「You Can’t Catch Me」にそっくりだしね。
最後に。「GPX千葉」代表の山口雅史さんが話してくれたこと。
「カブでは表現できない個性を求めてポップスを購入されるオーナーさんが多いですね。年齢層は幅広く、男女比も他のバイクとさして変わりません。もちろん本家スーパーカブの存在を知らないわけではありませんが、それでもあえてポップスを買う遊びゴコロ……素敵ですよね」
カブの高級版がC125だとすれば、カブのパロディ版がポップス110と考えれば合点がいく。リスペクト? ちょっと違う。オマージュ? だいぶ近い。やっぱり一番似合っている立ち位置は……パロディ! そもそもポップスはビジネスバイクじゃない。ライフスタイルに寄り添ったシティコミューターなのだ。
昔のヤマハ・メイトやスズキ・バーディーのことを持ち出すのも、もうやめようっと。カブのデザインはもう、握り寿司みたいなものなのだ。当のホンダはどう思っているか、知らないけれど(笑)
ライディングポジション&足着き (172cm/69kg)
スクーターなどよりもシート幅がタイトなので足着きは本来的に優れている。シート表面生地の張りもソフトすぎないのでロングライドにも期待がもてる。
ディテール解説
ポップス110 主要諸元
全長:1880mm 全幅:745mm 全高:1070mm 軸距:1230mm 最低地上高:─mm シート高:760mm 乾燥重量:99kg タンク容量:4.0L エンジン形式:4ストロークSOHC空冷単気筒 ボア×ストローク:50mm×55.5mm 排気量:110cc 圧縮比:9.2:1 最高出力:─kw/─rpm 最大トルク:─Nm/─rpm 始動方式:セル/キック ギアボックス:4段ロータリー ブレーキシステム(前):ディスクブレーキ リヤブレーキシステム(後):ドラムブレーキ タイヤサイズ前・後:2.25-17・2.50-17 価格:29万7000円(消費税込み)