ホンダ・ダックス125でロングランは楽しめるのか?|1000kmガチ試乗1/3 

近年の原付二種市場で、爆発的な人気を獲得しているホンダのクラシックウイングマークシリーズ。その最新作となるダックス125の魅力を、他機種との比較を交えて、じっくり考えてみた。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ホンダ・ダックス125……440.000円

往年と同様のプレス鋼鈑フレームを新規製作するため、ダックス125は既存のホンダ製125cc単気筒車から数多くの部品を転用。灯火類とメーターはモンキー125と共通だ。

かつてと同様のT型プレス鋼鈑フレーム

 今回のガチ1000kmは、ちょっとズルである。モトチャンプ2022年11月号の仕事で、ダックス125でロングランに出かけた身としては、現時点でこの車両を取り上げるつもりはなかったものの、“モトチャンプで走った距離との合算でいいので、ダックス125をやりませんか?”という編集部からの提案に乗ることにしたのだ。もっとも、合算には何となく後ろめたさを感じるのだが、トータルでの走行距離は1136.4kmなので、タイトルに偽りはない……と思う。そんなわけで、第1回目はモトチャンプの記事をベースにしつつ、2022年9月に開催された試乗会と、その直後に行った約500kmツーリングでの印象を紹介したい。

 ダックス125の試乗会で僕が感心したのは、開発陣の情並々ならぬ情熱だった。と言うのも、今のホンダが125ccクラスで往年のダックスを復刻するとなったら、すでに市場で大成功を収めている3台のクラシックウイングマークシリーズの基本設計を転用し、それっぽい“ガワ”を被せるのが、最も堅実で無難な手法である。ところが開発陣は、そんな手法に目を向けることなく(一応、ガワ方式の検討も行われた)、1969~1990年代のダックスと同様のT型プレス鋼鈑モノコックフレームを新規製作したのだ。

 既存のクラシックウイングマークシリーズのフレームが、いずれも1本の角パイプと複数の丸パイプ+板材を組み合わせる構造で、モンキー125はグロム用、スーパーカブC125はスーパーカブ110用、CT125ハンターカブはスーパーカブC125用をベースにしていたことを考えれば、これは異例の事態である。改めて考えると最近の日本車で、そんな印象が抱ける車両は珍しいんじゃないだろうか。

 もちろんフレームの新規製作、ましてプレス鋼板モノコックという製法には相当な費用がかかるのだが、開発陣はC125のエンジンやグロムの足まわり、モンキー125の補器類などを転用することで、コストダウンにもしっかり配慮。逆に言うなら、転用パーツの目処が立っていたからこそ、ダックス125は現状の価格と構成が実現できたのである。

シリーズで最も気軽でフレンドリー

 ここからはインプレ編。ありきたりな表現になるけれど、試乗会での第一印象は気軽でフレンドリーだった。と言っても、それは既存のクラシックウイングマークシリーズにも言えることだが、操舵が軽快な前後12インチのタイヤ(モンキーと同径。C125とCT125は前後17インチ)、シリーズのほぼ中間値となる1200mmのホイールベース(モンキー:1145mm、C125:1245mm、CT125:1255mm)、吸排気系の刷新で増強された低中速トルク、左手のレバー操作が不要でエンストの心配がない自動遠心式クラッチなどが(シリーズの中ではモンキーのみがマニュアル式クラッチ)、絶妙の相乗効果を発揮しているようで、このモデルの気軽さとフレンドリーさは既存の3車以上と思える。

 なおダックス125の開発コンセプトは、“ファミリー&レジャースニーカー”である。その言葉から推察すると、ロングランでの使い勝手はあまり考慮していない?……ように思えるものの、実際にダックス125を駆ってロングランに出かけた僕は、このモデルがツアラーとして見ても、侮りがたい実力を備えていることを認識したのだった。

1日500kmは楽勝?

 ツーリングの目的地に設定したのは標高2172mの国道最高地点、群馬と長野の県境に位置する渋峠。僕が住んでいる東京都西部からの距離は、主要国道なら200km弱だが、県道や舗装林道などをつなぐと、往復500km以上。ではその行程で、僕がどんな気持ちになったのかと言うと……。

 楽勝だった。朝5時に出発した僕とダックス125は、昼前には渋峠に到着。しかも、道中で動力性能に物足りなさを感じる場面はほとんどなかったし、帰宅後の心身の疲労はごくわずか。などと書くと驚く人がいそうだが、既存のクラシックウイングマークシリーズでも同様の体験をした僕の印象は、驚きではなく、安堵だった。フレームが完全な別物で、コンセプトがユルめでも、日本の一般道が楽しめる資質は、きちんと継承されているのだなあ……と。

 もちろん、ダックス125の乗り味は既存のシリーズと同じではなかった。中でも僕が興味を惹かれたのはシートだ。C125とCT125の前後長の短さ、モンキーのフカフカ感がしっくりこなかった身としては、座面がフラットで前後に長く、適度な硬度を備えたシートは、我が意を得たりと言いたくなる構成で、前端部をニーグリップ的な感触で挟めることも好感触。身長182cmの僕の体格だと、ウレタン厚は+20mmくらいあってもいいのだが、現状のフレドリーさを考えると、その点に文句を言うべきではないのだろう。

 シートに続いて感心したのはパワーユニット。最近のホンダの125cc空冷単気筒は低中速トルクが充実しているものの、僕の場合はどうにも回しがちで、中でも最高出力と最大トルクの発生回転数が高いC125はその傾向が顕著だった。でもダックス125は、そんな気分にならないのである。ノンビリ走行時の燃焼感と排気音が心地いいから、ふと気づくと、スロットル開度は1/2前後、回転数は(おそらく)4000~5000rpm近辺で落ち着いている。

 また、ちょっと意外だったのはハンドリング。前述したように、ダックス125のホイールベースはシリーズのほぼ中間値だが、シリーズで最も立った24度54分のキャスター角(モンキー:25度、C125:26度30分、CT125:27度)や前後12インチタイヤなどの恩恵なのだろう、車体の動きはヒラヒラで、ホイールベースがダントツに短いモンキーよりも軽快な印象。いずれにしても、他のシリーズを頭に浮かべながらダックス125を走らせた僕は、ホンダの懐の深さ、引き出しの多さを実感することとなった。

悪路走破性と快適性はいまひとつ

 さて、ここまでは褒め言葉ばかりが続いたが、ダックス125が非の打ちどころがないモデルかと言うと、必ずしもそうではなかった。まず悪路走破性は、CT125は言うまでもなく、C125にも及ばなさそう。通過レベルならダートもOKだが、そもそも小径タイヤは悪路向きではないのだ。もちろんオフ指向のタイヤを履けば、悪路走破は高められるが、それでも前後17インチでホイールベースが長い、CT125とC125に匹敵する安定性は得られないだろう。

 そしてタイヤサイズと安定性に関しては、ツーリングの翌日に、なるほど…と感じる事態に遭遇した。少し前にCT125で1000kmを走ったときとは異なり、この日の僕の下半身には妙な疲労が残っていたのである。その主な原因もやっぱりタイヤサイズとホイールベースで、CT125ほど車体が安定していないダックス125の場合は、走行中に左右の足を使ってバランスを取る時間が長かったのだと思う。

他の3機種とは一線を画する生い立ちと構成

 約500kmのツーリングを終えて帰宅した僕は、ガレージ内にダックスを入れ、自分にとってのクラシックウイングマークシリーズのベストを考えてみた。ロングラン&悪路好きの視点ではCT125が優勢だけれど、旧車マニアとしては伝統の姿を再現したC125も捨て難いし、モンキーの愛らしさと車格の小ささ、ダックスの気軽さとフレンドリーさにも、相当以上の魅力を感じる。逆に言うならどれを買っても、充実したバイクライフが送れそうなのだが……。

 蛍光灯に照らされたダックス125をじっくり眺め、プレス鋼鈑フレームが描く柔らかなラインと溶接ビードの美しさに感心している最中、ふと思ったのである。現在のホンダ車で、創設者である故・本田宗一郎のDNAを最も色濃く受け継いでいるのは、このモデルではないかと。何と言っても、シリンダーをほぼ水平配置とした4ストローク空冷単気筒の第一弾は、本田宗一郎が陣頭指揮を執っていた時代に生まれたのだし、1950~1960年代の同社は多種多様な機種に鋼鈑プレスフレームを採用していたのだから。

 まあでも、そういう理由でこのモデルに興味を抱く人は、世の中にはわずかしかいないだろう。とはいえ僕としては、他のクラシックウイングマークシリーズとは一線を画する生い立ちと構成は、ダックス125の魅力を語るうえでは欠かせない要素ではないだろうか……と感じたのだった。

スタイリングはかつてのダックスST50/70シリーズのいいとこ取り。左側に備わる楕円型のサイドカバーは、1970年代に販売されたマイティダックスやST50C/Mからの引用。

主要諸元 

車名:ダックス125
型式:8BJ-JB04
全長×全幅×全高:1760mm×760mm×1020m
軸間距離:1200mm
最低地上高:180
シート高:775
キャスター/トレール:24°54′/84mm
エンジン形式:空冷4ストローク単気筒
弁形式:OHC2バルブ
総排気量:123cc
内径×行程:50.0mm×63.1mm
圧縮比:10.0
最高出力:6.9kW(9.4PS)/7000rpm
最大トルク:11N・m(1.1kgf・m)/5000rpm
始動方式:セルフ式
点火方式:フルトランジスタ点火
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式4段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:2.500
 2速:1.550
 3速:1.150
 4速:0.923
1・2次減速比:3.421・2.266
フレーム形式:バックボーン
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ31mm
懸架方式後:スイングアーム・ツインショック
タイヤサイズ前:120/70-12
タイヤサイズ後:130/70-12
ブレーキ形式前:油圧式シングルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:107kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:3.8L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値:55.0km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス1:65.7km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…