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陸上自衛隊の忍者バイク部隊の任務とは
陸上自衛隊(以下、陸自)隷下の全国にあるの師団・旅団で、有事の際の偵察や斥候、部隊内の連絡、部隊間の伝令、災害時の被災状況確認などの用途で、バイクならではの高い機動力を生かして活躍するのが「オートバイ(偵察用)」だ。部隊内では「オート」と略して呼ばれるこのバイクは、市販車をベースにすることから制式化装備ではなく部隊使用承認装備となり、戦車や装甲車のような〇〇式との名称はつかない。陸自オートの歴史は60年代のSL250Sから始まり、XLR250Rまでホンダ製が続いたが、2001年に初めてカワサキ製のKLX250が採用され、現在に至る。今回は板妻駐屯地の第普通科連隊が保有するKLX250を取材する機会に恵まれた。そこで同連隊第1中隊に所属する池森兼吾3等陸曹にお話を伺った。
「陸自のオートは機甲科の偵察部隊や普通科の情報小隊のほか、各中隊に偵察・連絡用に数台が配備されています。この車両は普連第1中隊の所属車両です」池森さんによると富士総合火力演習などの公開演習で立ち乗りによる小銃射撃を披露するのは、主に偵察部隊の隊員によるものだという。
「偵察任務は見つからないように敵地奥深くへと侵入し、無事に戻ってくるのが目的です。戦闘になっては任務失敗となりますから、立ち乗りによる小銃射撃は隊員の技能や練度をみなさんに知ってもらうための訓練展示であって、実際の任務ではあのような状況はまず起こらないと思います。普通科中隊のオートは偵察部隊ほどの練度は求められず、ああした訓練は行ないません」普通科中隊所属のオートにはどのような人が乗っているのだろうか?「偵察部隊の隊員の中にはオートに乗りたくて入隊する人もいると聞いたことがあります。一方で中隊所属のオートは、普通自動二輪免許を所持する隊員が持ち回りで乗っています。ちなみに中隊内での私の主な仕事は野戦炊具1号(牽引式の炊事車)で食事を作ることです。
自衛隊で何か仕事をするためには、その仕事に応じたMOS(MilitaryOccupationalSpecialty)という資格を取らなければなりません。中隊でオートに乗るには、普通自動二輪免許に加えオートのMOSを取得する必要があります。私は私費で免許を取ってからMOS取得の訓練を受け、合格して乗れるようになりました。なお、中隊では二輪免許取得者にはオートのMOSをなるべく取得するようにと指導しています」
オートの乗車訓練はどのような形になるのだろうか?
「演習場内にある施設を使っています。乗車訓練は機甲科の偵察部隊や普通科の情報小隊などと一緒に行なっています。技能的には彼らの方が上手ですから、指導役をお願いすることも多いです。
自衛隊では課題ができるようになるまで何度も反復して訓練するわけで、途中で諦めたり、投げ出すことが許されません。私はバイク好きということもあって、MOSの取得前は仕事でオートに乗る隊員を正直羨ましく感じたこともありましたが、実際に訓練に参加してみるとなかなか大変です。でも、災害派遣となればオートは部隊の先陣として日本中どこへでも駆けつけなければなりません。そのために必要な訓練ということで日々励んでいます」
陸自ではどのようなバイク用装備を使っているのだろうか?
「基本的に支給されるのはアライ製の乗車ヘルメットとグローブだけです。プロテクターの支給はありません。着用を禁じられているわけではないので、個々人の判断でインナータイプのプロテクターを私費で購入して使用する隊員もいるようですが、下車後の動きにくさを嫌って着用しない隊員が多いようです」
バイクに乗車する隊員は標準的な88式鉄帽の代わりにアライ製ヘルメットをOD色に塗装したものを被る。ヘルメットのサイズは各種あるとのこと。
最後にオートのメンテナンスについても話を伺った。「日常点検やチェーンメンテなどは自分たちでやりますが、本格的な整備は後方支援隊に任せています。故障した場合の修理も同様です。訓練や任務で車両を破損した場合、包み隠さず正直に報告すれば怒られるようなことはありません。
中隊のオートはみんなで使う大切な装備ですから愛着はありますが、自分の愛車という意識はありません。ですが、私自身バイク好きということもあって、オートでの訓練や任務にはなんとも言えない達成感や充実感があります。
山間部の多いわが国ではオートの機動性は陸自にとって必要不可欠です。陸自の中では最小サイズの装備ですが、その役割はけっして小さくないと考えています」。
市販モデルとはココが違う! 自衛隊スペシャル
転倒時の車両破損防止や乗員保護のために装着された丈夫なライトガード。ライトとバイザーはKLX250ESのものへと交換されている。
大型キャリアに装着されたB.Oマーカー&テールランプ。前方のB.Oドライビングランプと対となり、夜間航空機に発見されずに必要な光源を得るB.O(灯火管制)システムを構成。
車両右側にはバンパーと一体化された無線ラックが備わる。無線は必要に応じて持ち運びが可能。アンテナは移動時には折り畳む。
B.Oシステムの操作スイッチ。灯火類やメーター&ナンバー照明、B.Oシステムの操作をこのスイッチで行なう。市販車と違い完全消灯状態での走行も可能。
乗員保護のほかバイクを倒して盾として反撃する際に車体を支える役割もある大型バンパー。
KLX250は市販カラーで納入され、後方支援隊によってオリーブドラブ(OD)に再塗装される。エンジンもマットブラックに塗装。